よいことをパクって見える化する「現場の仕事」を見える化する

「オレ、人のまねをしたくないんだよね」「自分らしさを大切にしたいんだよね」――でも、ペンを使うのも、字を書くのも、靴を履くのも、朝起きて食事をするのも、夜寝るのもたいてい誰かのまね。なので、他人のいいところを徹底的にパクることで業績も向上するのです。

» 2009年12月15日 11時00分 公開
[小山昇,Business Media 誠]
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 長引く不況の中、自社の経営に悩みを抱えている中小企業の経営者が多いのではないでしょうか。そんな中、経営の内部を社員に公開し、徹底的な透明化(=見える化)を継続することで、社員のモチベーションを高め、増収増益を達成した会社があります。それが経営サポート事業などを行なう武蔵野です。「中小企業のカリスマ」と呼ばれる同社の小山昇社長が「現場の見える化」の方法を伝授します。2回目は「パクり方」をご紹介しましょう。


この連載は書籍『経営の見える化』から抜粋、編集したものです


同僚のまねをして成果を出すと、賞与を倍にする

 人は誰しも「プライド」を持っていますが、会社がよくならないとしたら、それは「プライド」がジャマをしているからかもしれません。とくに「あの人のまねだけはしたくない」というプライドが、社員の成長を、ひいては会社の成長を妨げているのかもしれません。

 よく「オレ、人のまねをしたくないんだよね」とか「自分らしさを大切にしたいんだよね」と語る人がいます。でも、ペンを使うのも、字を書くのも、靴を履くのも、朝起きて食事をするのも、夜寝るのも、100%誰かのまねなんです。人のまねをしながら生きてきたのに、「人のまねをしたくない」なんて、まったく論理的ではありません。

 「武蔵野」も赤字のときは、社員ひとりひとりが「プライド」を持っていました。だから業績が上がらなかった。そのことに気がついた私はどうしたかというと、

  • 自分で何かを考えて実行すると、賞与を半分にする
  • 同僚のまねをして成果を出すと、賞与を倍にする

 と決めたんです。そして、会社は変わりました。1999年までの「武蔵野」は、小山昇という強力な機関車が360両の客車を引っ張っていた状態でした。ですが、今は違います。360両の客車すべてにモーターがついていて、会社中が引きずられています。だから社長といえども、会社のすべてを知っているわけでありません。それほど「武蔵野」は変化し続けており、その変化を誘引したのは、「まねること」でした。「よいことをパクらせた」結果として、「武蔵野」は2008年に過去最高の増収増益を成し遂げたのです。

「まねしてもらえること」を最大の名誉とする職場づくり

 組織というのは、情報が縦に流れますが、横には流れにくいものです。ましてや、自分が持っているノウハウを「人にまねされたくない」と思っている社員がとても多い。ですが私自身は、「どんどんまねしてほしい」と考えています。経営サポート事業の会員にノウハウを提供するのも、「経営計画書」をまねされるのも、ウエルカムなんですね。なぜかといえば、「まねしてもらえるノウハウ」は価値を生む。つまり自社の利益につながるからです。

 「この情報あげるから持って帰って」といって渡したところで、役に立たないものであれば、誰も持って帰ってはくれないでしょう。だから、「まねしてもらえること」は最大の名誉であり、「まねしてもらえないこと」は最大の不名誉なんです。

 「武蔵野」の全営業所では「自分の営業所では、どの営業所の、何をまねしているか」を表示しています。そして、「本当にまねできているのか」を、ほかの営業所の課長がチェックしているのです。こうすることによって、情報が横に流れるようになります。「武蔵野」では、「他人が見に来る」、そして「他人を見に行く」しくみを作っているのです。

 もちろん、自分で何かを考えて実行しても構いません。ですが、それが賞与の評価につながることはありません。自分でやったことが誰かにまねされると、「まねした人」の評価になります。まねこそ、最高の創造であり、「学ぶ」とは「マネぶ」を意味しているのです。

徹底したパクりを業績アップにつなげた会社

 私は、自称「パクりの天才」ですが、山崎文永堂の山崎登社長もまた、「パクりの天才」です。彼は、「経営計画書」の作り方を学ぼうとして、私の塾を訪れました。ところが、「オリジナルの経営計画書を作りたい」なんていい出すものだから「バカヤロー! オリジナルなんて5年早いんだよ! まねすればいいんだよバカ!」と一喝したんですね、初対面なのに。

 彼は「なんで高いお金を払っているのに、謝らないといけないんだ」と思ったそうですが、それでもしぶしぶまねをして「経営計画書」を作った。するとどうなったかというと、会社が生まれ変わりました。

 「何をすれば利益が上がるのか」「何をしたら成果が出るのか」「何をすれば社員の給与が上がるのか」などが明確になったことで、社長と社員が、「会社の現状」や「進むべき方向」を共有できるようになった。つまり、「見える化した」のです。山崎社長が「経営計画書」を「魔法の書」と呼ぶのは、社長も社員も、「これがあれば会社のことが分かる」ようになったからであり、「書いたらその通りになる」からです。

 彼の会社の業界トレンド(オフィス文具の通販)は、前年対比80%(2008年度)が普通なのですが、山崎文永堂に限っては108〜110%。渋谷区ではシェアNo.1を獲得するなど、ライバルを圧倒しています。「まね」が業績を引き上げたのです。

 また、山崎社長がまねるのは、「経営計画書」だけではありません。早朝勉強会を実施するのも、環境整備(仕事をやりやすくするための環境を整えて、仕事に備えること)を定例化しているのも、現地見学会を開催するのも、人事評価の基準も、上司と部下の面談のやり方も、飲み会のやり方も、新入社員にカバン持ちをさせるのも、すべて「武蔵野」のまねです。

 そればかりか、彼は私と同じカバンを使い、私と同じ財布を使い、私と同じ時間に起床する(朝4時半)徹底ぶり。あまりにも私のまねばかりしているので、彼は夜の新宿で「小山崎(コヤマザキ)」と呼ばれているそうです。

著者紹介 小山昇(こやま・のぼる)

 株式会社武蔵野の代表取締役社長。その経営手法には定評があり、2000年に日本IBMと並んで、日本経営品質賞を受賞した。「中小企業のカリスマ社長」と呼ばれ、現在は全国300社以上の中小企業に経営のサポートを行っている。


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