というわけで、言われたこと、書かれていることをうのみにしない姿勢を持ち、その能力を磨きたいわけですが、そのために役に立つのが「説明書の穴を探しながら書く」という習慣です。
こういう目的に使う説明書は、出来の悪いものの方が役に立ちます。出来の悪い説明書はこれも書いてない、あれも書いてないと、あれこれ穴(ヌケ)だらけのことが多いので、探そうとするとすぐに成果が出ます(笑)。笑っちゃうような話ですが、成果が出るというのは、やる気を維持するためにも大事なこと。ですから遠慮無く出来の悪い説明書を使ってヌケているところを探すワークをしてみてください。
では、サンプルです。エネルギー問題が深刻になる昨今、次のような報道を見かけたことのある方も少なくないのではないでしょうか?
(例文)アメリカでは90年代からシェールガスが天然資源として注目されている。シェールガスとは、頁岩(けつがん、シェール)層から採取される天然ガスのことである。
天然ガスの大規模商業利用はもともと石油の副産物として産出されるガスから始まっており、技術的にも石油の探査・採掘技術を応用できることから、既存の天然ガス田は油田地帯に多く存在する。
これら在来型の天然ガス資源に対して、シェールガスは頁岩層から産出することから「非在来型天然ガス」と分類されている。このような非在来型天然ガスには他にメタンハイドレートなどがある。
2000年代に入ってアメリカでのシェールガスの利用が拡大しており、近未来における有力なエネルギー資源として期待されている。
ちょっとした企画書を書くと必要になる業界動向のセクションにはこの種の情報がよく盛り込まれます。大抵、何らかの「穴」があるので探してみましょう。
まずは、目についたキーワードを列挙すると
(1)シェールガス、天然ガス、石油、メタンハイドレート
(2)油田地帯、頁岩層
(3)石油の探査・採掘技術
といったところですが、(1)はエネルギー資源そのもの、(2)はその産出地域に関する情報、(3)は採掘技術に関する情報、ということで、表を作ることができそうです。
そんなわけで表を作ってみた一例が下記のようになります。
資源分類 | 産出地域 | 探査・採掘技術 | 将来性 | |
---|---|---|---|---|
在来型天然ガス | 石油を産出する油田地帯 | 石油用の技術を応用可能 | A | |
非在来型天然ガス | シェールガス | B 頁岩層 | C | D アメリカで2000年以降利用拡大。近未来の有力エネルギー源 |
メタンハイドレート | E | F | G | |
いやあ、穴だらけですね(笑)。
シェールガス中心の文書ですから、E〜Gのメタンハイドレートについて書いていないのは仕方がないとしても、AやCが何もないのは気になるところですし、BやDについても詳しく調べればもう少し意味のある情報が出てきそうです。
実は、こういうふうに表を作るだけで書かれていない情報(ヌケ)が分かり、それを調べてみるきっかけが得られることが多いのです。文章で書かれた原文を10回読んでも分からないヌケに、簡単な表を作ろうとしただけで気付いてしまうのが不思議なところ。
こうしてヌケを発見するのは自分で考えるための第一歩、最も取っつきやすい第一歩ですので、ぜひ試してみてください。表を作るのは、分かりやすい説明書にもそのまま使えることが多く、無駄になることはまずありません。
ちなみに以下余談ですが、CとDの関連を調べると「C シェールガスの探査・採掘には石油用の技術はそのまま応用できない」ため、「シェールガスの採掘技術が進んだ2000年代以降にアメリカで利用が拡大した」ことが分かります。こうしてヌケの部分を調べると、断片的な情報の関連性が次々見えてきて「なるほどそういうことだったのか!」と理解が進むものです。
そうして、考えることを楽しむようになれれば、思考力を上げるための少なくとも大きな一歩を踏み出したことになります。
というわけで、出来の悪い説明書、いますぐ探してみませんか?
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」というご相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
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著者・開米瑞浩氏が講師となって「アイデア・思考を見える化」をテーマとするセミナーを開催します。
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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