マクドナルドがこだわった「らしさ」とは何か?トップ1%の人だけが実践している思考の法則(3/3 ページ)

» 2013年02月26日 10時20分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]
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フィルム事業を捨てることができた富士フイルム

 企業には、「らしさ」が不可欠です。

 しかし、同じスタイルにこだわりすぎても生きていけません。環境は常に変化しています。市場環境、顧客のニーズに合わせて、自らを変えていく適応力も時として必要です。

 「らしさ」をキープしつつ、環境に適応して大変身した国内企業を紹介しましょう。富士フイルムは、カメラや映像がデジタル化され、フィルムが不要になるメガトレンドにおいて、経営陣の機転によって主力事業「フィルム」をうまく方向転換させることができました。

 今は、社名に「フイルム」と入っているにもかかわらず、フィルム関連事業の割合は5%まで低下しているといいます。その代わりに、化粧品や医療、健康食品といった従来なかった分野に多角化しているのです。

 それでは、富士フイルムは「らしさ」を失ったのでしょうか? 実は、そうではありませんでした。

 例えば、化粧品。一見すると、写真フィルムと化粧品に共通点は見いだせないように思えます。でも、これが意外にも密接なつながりがあったのです。

 あまり知られていませんが、写真フィルムの主成分はコラーゲンです。あの、肌には不可欠な成分ですね。富士フイルムは、日本でも有数のコラーゲンを知り尽くした企業というわけです。そして、写真の「色あせ」を防ぐための技術。これは、肌の老化防止に重要な抗酸化作用につながります。

 そして、薄いフィルムの階層に安定的にこうした成分を吹き付ける超微粒子技術(ナノテクノロジー)。この技術は、美容液などの有効成分を肌に浸透させるために、超微粒子にする部分で使われているのです。つまり分野が異なるだけで、写真フィルムや現像に必要な技術をそのまま生かせるのが、化粧品の分野だったわけです。

 「らしさ」をなくして、何でもかんでも多角化したわけではなく、しっかりと「らしさ」の根源にあるコア技術を応用できる分野を探して、拡大していったのですね。

 一方で、米国の最大手フィルムメーカーだったコダックは破たん。過去の繁栄、フィルム時代の甘い記憶が判断を鈍らせたのかもしれません。富士フイルムとコダックという日米のフィルム大手が迎えた対照的な結果は、経営判断の大切さを強くを印象づけました。

企業の「変態力」、ものすごい強みに

 「変態」という言葉があります。変態とは、動物の生育過程で幼年期と成体の間で大きく形が異なることを指します。土の中で幼虫が育ち、やがて成虫になると羽が生えて、大空に飛び立つ……。そんなシーンを想像してみてください。環境に合わせて生きるために、形や場所が最適化されるのです。

 これは、企業の成長過程でも同じことです。

 コアとなるスタイル、スキル、強みを残したまま、どのように環境変化に合わせて、うまく「変態できるか」、これが一番重要な生き残りの技術です。

 そのためには、まずコアコンピタンスが何であるかを定義しなければいけません。どんなに自社が変わっても、変わらないものは何かを明確にしなければいけません。それが特別な技術なのか、マーケティング力なのか、企業文化なのか……。

 まずは、絶対にブレない中心核を定めましょう。その後で、その時々で最適な判断をしていけばいいのです。コアコンピタンスの価値を十分高める努力を怠って、リソース(経営資源)を分散させるのは、自ら窮地に陥っていくようなものです。

ビジネスプロデュース力のヒント

  • あなたは自分の会社の「らしさ」を一言で説明できるか? その「らしさ」は、ライバルに対して十分な優位性があるか? 顧客にとっての価値あるものか?
  • コアとなるスタイルやスキルは「強み」。そして「強み」を失わず、その時々の環境に適応することが、生き残る唯一の術である。

 なお本連載の基となった『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)では、5Aサイクルの具体例として、グーグルのほか、ダイソン、アマゾンなど今をときめくイノベーティブな企業群のエピソードを18のケースストーリーで紹介しています。

集中連載『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』について

 本連載は2012年12月19日に発売した『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)から一部抜粋しています。

  • なぜ、Amazonは「大量の小口注文」をさばけるのか?
  • なぜ、Googleは「独自の検索システム」を編み出せたのか?
  • なぜ、ディズニーランドは「夢」を売ることができるのか?
  • なぜ、ダイソンは「羽根のない扇風機」を開発できたのか?

 本書は、イノベーションを起こして、ビジネスで勝ち残るための「思考法則」についての解説書です。これからの働き方は、大きく変わります。今まで通りに目の前にある仕事を頑張って働くのではなく、新しいイノベーションを起こしてソリュ―ション(問題解決)することが不可欠になります。本書はあなたの仕事にイノベーションを起こすために、トップ1%のできるビジネスマンだけが実践している「思考の法則」を著者、永田豊志氏が見つけ、分かりやすくまとめたものです。

 「営業」「企画」「経理」「総務」「財務」「マーケティング」――など、あなたが何を専門に従事しているかはまったく関係ありません。すべてのビジネスパーソンに必要な「思考」だからです。ぜひ、本書を読んで、変化の激しい時代に、あなたがたくましく生き残れるよう役立ててください。

著者紹介:永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 ビジネスマンの「知的生産性の向上」をテーマに精力的に執筆・講演活動も行っている。近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』『ノート・手帳・メモが変わる絵文字の技術』(中経出版刊)、『すべての勉強は、「図」でうまくいく』(三笠書房刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

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