ソフトバンク、NTT対抗で「残された部門」

» 2004年06月02日 23時55分 公開
[新崎幸夫,ITmedia]

 ソフトバンクによる日本テレコム買収で、よく聞かれるのが“通信業界再編”という言葉。事業領域を拡大したソフトバンクは、NTTグループやKDDIに対抗し得る勢力として認識されつつある。ただし、そのソフトバンクにはまだ欠けている部門がある。いうまでもなく「移動体」だ。

NTT対抗の体勢は整ったか?

 企業向けデータ通信に強みを持つ日本テレコムを買収することで、法人市場に参入するソフトバンク。孫正義社長はこれにより、「弱点を補った」と話す(5月28日の記事参照)。

 「単に安心感がほしいなら、NTTさんでいいだろう。しかしサービスの革新性、楽しさ、何か知らないけどエキサイティングなことをやっている、という点ではソフトバンクが上。今回、(日本テレコム買収で)欠けていた安心感・信頼性といったものが加わった」

 今後、総合的な通信事業者としてNTTに対抗することを考えた場合、必要になってくるのは「NTTドコモ」にあたる存在だ。孫氏も、この点は認識している。

 「仕事場でも、家庭でも、街を歩いていても、“いつでもどこでも誰とでも”ユビキタスにつながる……ということを目指す場合、移動体抜きでは考えられない」

ライセンスがなければ……

 とはいえ、孫氏はTD-CDMAについて聞かれると決まって口を閉ざす(2月12日の記事参照)。「いつかはやる」というコメントこそ聞かれるものの、現時点で時期尚早とのスタンスを保っている。

 これには理由がある。TD-CDMAサービスの実現には総務省から免許を取得する必要があるが、この作業が進んでいないのだ。孫氏は、5月27日の記者会見でも「ライセンスなしに勝手に電波を飛ばすと違法になるので、まずはライセンスを得ることが大前提になる」と繰り返している。

 現時点で、TD-CDMA(TD-SCDMA(MC)を含む)の本免許を取得している事業者はいない。実験局免許は、アイピーモバイルのみが持っている状況だったが、先ごろイー・アクセスにも「アイピーモバイルと干渉しない帯域を利用する」という条件付きで許可が下りた(4月21日の記事参照)。ソフトバンクグループのステータスとしては、まだ実験局予備免許の取得に留まっている。

 一方で、総務省ではTD-CDMAをめぐる議論が着々と進んでいる。情報通信審議会の「IMT-2000技術調査作業班」(技術作業班)では、TD-CDMAとTD-SCDMA(MC)の周波数有効利用効率(4月20日の記事参照)を検討することで話がまとまった。

 5月20日に開催された第5回会合では、調査の具体的な手順などが話し合われており、議論の内容も具体化してくる見込み。イー・アクセスは実験で得られたデータも、技術作業班に提出するとしている。こうした流れの中で、実験の動きがないソフトバンクは、やや出遅れている感もある。

買収でポジティブの効果も?

 足踏みが続くかに見えるソフトバンクだが、変化のきざしも見える。買収後の孫氏からは、これまでと少々異なるセリフが聞かれている。

 「移動体に参入するからには、設備投資の稼働率の問題から、多くのユーザーに加入してもらわなければならない。しかし、(日本テレコムの買収で)1000万のユーザーをベースに持つので、(参入の)時期が早まる」

 移動体事業を運営しようと思えば、当然ながら多額の設備投資が必要になる。既に“囲い込み済み”のユーザーが多ければ、「ボリューム効果が出しやすい」(孫氏)のは自明だ。

 孫氏はまた、法人顧客に移動体通信のサービスを提供する場合、「利用料の平均値が高いというメリットもある」と強調。日本テレコムの法人顧客が、ここでも役立つとの考えを示した。

 記者会見でTD-CDMAサービスの構想が、全く明かされなかったのは相変わらず。それでも、買収は移動体参入に向けてポジティブな影響もつ――と孫氏は話した。

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