写真で見る、松山・電子マネー最新事情 「ICい〜カード」導入から3年:

» 2007年09月11日 11時56分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 2005年8月、日本で初めて「おサイフケータイで電車・バスに乗る」を実現したのが伊予鉄道だ(2005年8月の記事参照)。同社は電車・バス・路面電車・タクシーすべてでIC(FeliCa)対応の「ICい〜カード」を導入し、同時におサイフケータイを使う「モバイルICい〜カード」も投入した。JR東日本の「モバイルSuica」導入や、Suica/PASMO相互利用開始が首都圏で始まるよりも早く、おサイフケータイ対応や鉄道・バスなど異なる公共交通での利用を可能になっていた街が、愛媛県松山市なのだ。

 その1年後の2006年9月には電子マネー機能に対応。地方発の交通系電子マネーとして展開を開始した。そのときの様子は、「松山はおサイフケータイ先進都市――写真で見る『ICい〜カード』」と題して詳細なレポートを掲載している(2006年9月の記事参照)

 あれから、さらに1年が経った。現在、松山市とICい〜カードはどのような姿になっているのか。3年目の状況をレポートする。

松山名物の「坊ちゃん列車」。路面電車の軌道を走る。この列車にも「ICい〜カード」で乗れる

一体型の発行でポストペイ型カードが急増。しかし稼働率が高いのはプリペイド型カード

e-カード常務取締役の西野元氏

 「サービス開始から2年が経過し、交通分野での利用は利用率50%強で落ち着いています。今は“踊り場”的な状況です」と話すのは、e-カード常務取締役である西野元氏。eカードは、伊予鉄グループにおいてICカード事業を担当する会社である。

 伊予鉄道のICい〜カードは、鉄道・バス・路面電車・タクシーといったグループの公共交通サービスすべてで同時導入され、当初から定期券や割引サービスを設けるなど、利用者にとって使いやすい環境を作ってきた。それが奏功し、昨年の段階で通勤通学時間帯の利用率ならば90%以上、平均しても50%以上の高い利用率を実現していた。この状況について西野氏は、「公共交通の利用が多い層は、ICい〜カードへの移行がほぼ終了している」と見る。

 カードの普及状況を見てみよう。現在、ICい〜カードはの発行枚数は、合計32万枚強。内訳は、プリペイド式のICい〜カードの発行枚数が約14万2000枚、いよてつ高島屋が発行するポストペイ式の「ローズカード(IC機能付き)」が約18万枚となっている。伊予鉄道の沿線人口は約65万人なので、通勤・通学利用をする層への普及率はかなり高いと言えるだろう。残るは、毎日は公共交通を使わない低頻度利用者と観光客だ。なお、おサイフケータイを利用する「モバイルICい〜カード」の利用者は約8000人。ICアプリがプリインストールでない点や、機種変更手続きの煩雑さもあり、モバイルICい〜カードの利用は伸び悩んでいるという。

 「(ポストペイの)高島屋ローズカードの数が増えた理由としては、昨年5月から始まったカードの更新にあわせて、IC一体型カードに自動切り替えを行っています。これで枚数が急増しました」(西野氏)

プリペイド式のICい〜カード。種別や券面デザインで多数の種類がある(左)。ICい〜カードの提携カード。愛媛FCやJALマイレージバンクのカードがある(中)。おサイフケータイ向けの「モバイルICい〜カード」。今のところオンラインチャージなどへの対応はなく、利用者数の増加が課題になっている(右)

 ローズカードはあくまで一体型カードとして普及したため、ICい〜カード部分の利用促進は途上にある。電車・バスなど交通利用でみると、ローズカードの利用率は全体の1割前後。稼働率が高いのは、プリペイド式のICい〜カードという状況である。

 しかし、ローズカードの利用には1つ面白い傾向が現れているという。タクシーでの利用だ。「電車・バス・路面電車でのローズカード利用率は全体の約1割なのですが、タクシーだけはローズカード利用が約3割あります。また利用者層を見ても、(他のICい〜カード利用よりも)明らかに傾向が異なり、60〜70代の女性が中心になっている。お客様からいただく声も、『タクシーが使いやすくなった』と大変好評です」(西野氏)

 タクシーとFeliCa決済はとても相性がよく、特に残額の心配がないポストペイ方式はタクシー向きだと以前から考えられてきた。いよてつ高島屋ブランドを背景にするローズカードは、この傾向と合致し、“中高年・女性のタクシー利用”を掘り当てたようだ。

いよてつ高島屋が発行するローズカード(IC機能付き)。更新期に一体型カードを配布したことで、一気に発行枚数が増加した(左)。ローズカードの発行主体、松山市駅にあるデパート「いよてつ高島屋」(右)

電子マネーに対応した「いよてつタクシー」。電車・バスと異なり、ローズカードの利用率が高い。中高年の女性層の利用率が高いFeliCa決済は全国的に見ても珍しい

観光客も使いやすいカードへ――意識するのは香港“オクトパス”

 「ICい〜カード導入以前を振り返っても、プリペイドカードと定期券の利用率が全体の50%、残りが現金という状況でした。その点では以前からの非現金の利用者はICい〜カードで取り込めました。

 今後重要なのは、年間500万人に及ぶ観光客の皆様にICい〜カードをお使いいただくことです。松山市では2009年から3年にわたって放映されるNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』に合わせて観光振興に力を入れていますが、まず松山の観光地や施設でのICい〜カード対応に向けた準備をしています。そして、観光地の対応が終わった段階で、松山空港や松山観光港、JR松山駅などに、ICい〜カードの販売や払い戻しの窓口を設置したいと考えています」(西野氏)

 西野氏がイメージするのは、香港の非接触ICカード「オクトパスカード」だ(2005年10月の記事参照)。「香港の空港に到着したらオクトパスカードを購入し、観光中は交通も買い物もキャッシュレス。(日本に)帰る時にカードを払い戻しする。(香港ではそういう使い方が定着しているので)松山も、そういう環境にしたい」(西野氏)

 “地域の電子マネー”としても、ICい〜カードの普及と利用促進に力を入れていくと話す。現在の電子マネー加盟店は伊予鉄グループ店舗が中心であり、それ以外ではローソンやコカコーラの自動販売機などが部分的に導入するのみだが、今後は中心商店街に本格的に加盟店を広げる計画だ。

 「地域での電子マネー普及に当たっては、松山市の中心となる商店街の活性化も踏まえて、地域ポイントプログラムの導入なども検討していきたい。また、公共交通との連携では、電子マネーが使える駐輪場や駐車場を整備するなど、街全体を活性化する形でICい〜カードを広げていきたいですね」(西野氏)

駅ナカ・駅周辺の利用エリアが拡大

 では、さっそく街に出てICい〜カードの“現在”を見てみよう。

 松山市の中心街は松山市駅を軸に広がっており、3年前のICい〜カード開始時はここでセレモニーが行われた(2005年8月の記事参照)。昨年見たときには利用者増からIC専用改札が3台に増設されていたが、今年も駅務機器の構成は変わらず。しかし人の流れを見ていると、着実にICい〜カード利用が増えているのがわかる。

松山市駅の改札風景。ゲートのない改札機の数は依然と変わらずだが、利用者は明らかに増えている。改札口にはICい〜カードとローズカードについての注意書きが張り出されていた

 改札の中に入ると、ICい〜カード電子マネーに対応したコカ・コーラの自動販売機がある(2005年8月の記事参照)。この自販機対応は最近の大きなトピックであり、松山市駅の自販機では電子マネー利用率が44.7%に達している。他のICい〜カード対応自販機も合わせた電子マネー平均利用率は33.4%。JR東日本のSuica対応自動販売機もそうだが(2006年12月の記事参照)、「駅ナカ自販機の電子マネー利用率は高い」という傾向が、松山でも現れている。

 駅に隣接する「伊予鉄市駅西駐車場」も、ICい〜カードの電子マネー決済に対応している。この駐車場は、いよてつ高島屋と連絡通路で直結しており、ICい〜カードだけでなく、ローズカードの利用も多いという。なお、いよてつ高島屋は昨年の段階でICい〜カード/ローズカードの電子マネーに対応している。

松山市駅の駅ナカをはじめ各所に設置されている、ICい〜カード対応のコカコーラ自動販売機。電子マネーの利用率は高い(左)。松山市駅に隣接する「伊予鉄市駅西駐車場」(右)

伊予鉄市駅西駐車場でも、ICい〜カードで駐車料金の決済が可能。写真ではモバイルICい〜カードをインストールしたおサイフケータイを利用している

ローソン、地元FCも電子マネー対応

 街中の対応店舗では、ローソンがICい〜カードに対応しており、利用率も高いという。ローソンは全国的にはiD、QUICPay、Edyに対応しているが、松山ではそれに追加してICい〜カードの電子マネー機能が利用できる。ICい〜カードのリーダー/ライターはハンディ端末型で、利用ごとに店員が取り出して決済する。なお、松山市のローソンではICい〜カードのチャージもできる。

 ユニークな加盟店としては、地元のサッカーチームである愛媛FCのサポートショップ「ORANGE SPOT」がある。ここでは愛媛FCの関連グッズ購入などに電子マネーが利用できる。なお、愛媛FCにはファンカードとして、「愛媛FCい〜カード(IC機能付き)」がある。

 このようにICい〜カードの加盟店は次第に広がってきているが、そうなると次の課題は街中にある「電子マネーのチャージスポット」である。現在は市内9ヶ所に自動チャージ機が設置されているほか、バス車内やローソンでのチャージも可能だが、電子マネーの使い勝手を考えれば“チャージできる場所”が身近にあるかは重要だ。「電子マネー加盟店の拡大とあわせて、チャージ拠点の増加を検討している」(西野氏)という。

松山市内のローソン各店舗ではICい〜カードの電子マネーに対応している。利用はレジではなく、専用のハンディ型リーダーライターを使う

愛媛FCのサポートショップ「ORANGE SPOT」。ICい〜カードでファングッズの購入などができる。ICい〜カードには、愛媛FCのファンカードもある

街中に設置されたICい〜カードの自動チャージ機は、今後の台数増加が課題(左)。松山市の新名所「坂の上の雲ミュージアム」。まだICい〜カードの電子マネーに対応していない。松山市と連携し、こうした観光スポットの電子マネー対応をしていくのも今後の課題だ(右)

 地方の公共交通事業者として、IC乗車券や電子マネーの活用に積極的に取り組む伊予鉄道の「ICい〜カード」。モータリゼーション以降、急速に進んだ“地方のクルマ社会化”と、それによる“公共交通と中心市街地の衰退”の逆境を、FeliCaを活用した地域密着のサービスでどれだけ覆せるか。今後もその取り組みを、期待をもって見守りたい。

古くからの松山名所である道後温泉の駅。ここにも自動チャージ機が設置されている。道後温泉の土産物店ではEdyやQUICPayの加盟店もちらほら見かけた。道後温泉自体のICい〜カード対応はまだだが、観光地の電子マネー対応強化ポイントの1つである

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