「格安スマホ」市場を打破したい――HTC NIPPON玉野社長に聞く、日本のSIMフリー戦略SIMロックフリースマホメーカーに聞く(1/2 ページ)

» 2015年10月16日 20時27分 公開
[石野純也ITmedia]

 HTCが満を持して投入するSIMフリースマートフォン。それが、「HTC Desire 626」(以下、626)と「HTC Desire EYE」(以下EYE)の2機種だ。本誌読者ならご存知かもしれないが、HTCは台湾に本拠地を置く、スマートフォンの専業メーカー。かつてはWindows Mobileを搭載した端末を手掛けており、その後、Androidの初号機を開発。端末メーカーとして、頭角を現し始めたのはこのころだ。

photophoto 「HTC Desire EYE」(写真=左)と「HTC Desire 626」(写真=右)

 日本でもドコモやソフトバンク、イー・モバイル(現・ソフトバンク)がHTC製のWindows Mobile搭載端末を発売しており、日本で発売した最初のAndroidスマートフォン「HT-03A」もHTC製だった。その後は、KDDIと業務提携を行い、「HTC J butterfly」(以下、butterfly)など、日本市場の動向を取り入れた端末を展開している。キャリアから販売されたモデルとして、最も新しいのは、auの2015年夏モデルである「HTC J butterfly HTV31」だ。

 一方で、日本ではMVNOの台頭を受け、SIMロックフリースマートフォンの市場が、徐々に拡大し始めている。キャリアが販売する端末と比べれば、まだまだシェアは低いが、ヒットモデルが出てきているのも事実だ。HTCがSIMロックフリースマートフォン2機種を投入したのは、こうした市場の背景がある中でのこととなる。では、キャリア向け端末を手掛けているHTCが、なぜ、この時期にSIMロックフリー端末の販売を開始するのか。その狙いや勝算を、HTC NIPPONの玉野浩社長に聞いた。

“とがったところ”のあるHTC Desire EYEが人気

photo HTC NIPPONの玉野浩社長

―― 発表が終わり、予約の受付も始まりました。発売日(10月17日)が徐々に近づく中で、どのような手ごたえを感じていますか。反響をどう受け止めているのかも教えてください。

玉野氏 予約受付を開始しましたが、そこそこの反響はありますね。また、発表会や、同日にブロガーイベントを開催しましたが、いろいろなお話をうかがうと、「記事が出ていましたね」というお声をいただきます。

―― 「そこそこ」ということですが、やはり本格的に認知が広がっていくのは、店頭に並んでからになるとお考えでしょうか。

玉野氏 まさにそうで、今も毎日のように店頭に行き、どこにどれだけ露出してもらえるかをやっているところです。我々もきちんとラウンダー(巡回営業)を配備し始めました。できるだけお店で見ていただき、その上で手に取ってもらうことが大事だと思っています。

 SIMフリー端末の売り場はお店によってさまざまで、きちんとメッセージ性を持って整理されている量販店さんもあれば、そうではないところもあります。まだバラバラな状況ですが、うまくお客様に分かっていただけるよう、訴求はしていきたいですね。

 端末のよさは、スペックなどの数字だけでは表せないものです。常にお手元にあるものですから、使い勝手がよく、サクサク動いて、ファッション性も必要になります。店頭ではそういった訴求をしていきたい。店頭のPOPも、そういったイメージで作成しています。

―― 一般の方々の反響で、印象的だったものはありますか。

玉野氏 どうしてもEYEの方の訴求点が非常にクリアなためか、そちらを買ってみたいという声が先に出てきています。これは、私たちにとっては、逆にうれしかったことですね。626の価格帯(3万円前後)は、さすがにちょっと過当競争になってきていますから。

 そんな中で、両面1300万画素のEYE Experienceを採用しているEYEに、注目が集まったのだと思います。ボタンを押しただけでキレイに撮れる。カメラとして使っていただいてもいいスマホは、まだなかなかありません。そういった意味で、こちらに目が行っていただいたのは、よかったのではないかと考えています。

photo EYEはインカメラも1300万画素と高性能なものを搭載している

 (発表会のあった)1日の段階では、EYEの「1」に対して626は「2」ではないかとコメントしましたが、今の段階ではEYEがその比率以上にがんばっています。とがったところがあるものの方が、HTCらしさを出せますからね。

フラッグシップをベースに技術力を見せたいが……

―― 今のSIMフリースマートフォンは売れ筋が3万円前後になっていますが、EYEがヒットするようだとフラッグシップモデルへの道も開けますね。

玉野氏 「格安スマホ」と呼ばれる市場は、早く打破したいと思っています。フラッグシップでスペックの高い端末や、グローバルでいうところのスタンダードな価格の端末が、もっと販売できるようなマーケットになってほしい。我々だけでそういうことはできませんが、業界として、ちゃんとレンジのあるマーケットになっていってほしい。そこに、少しでも貢献したいという思いがあります。

 また、どちらかというと、弊社の場合、まずフラッグシップを固めてから、そこからの派生モデルを出していく戦略を取っています。これは、サムスンさん、LGさん、ソニーさんのように、グローバルでメジャーなベンダーさんと同じようなアプローチです。フラッグシップがベースであり、技術力や訴求力を見せる母体ということですね。そこからのバランスで、ミッドレンジなりローエンドなりを、チップセットや、ディスプレイ、メモリなどのスペックを少しずつ変えています。

 ですから、フラッグシップがないと、本当の意味での我々の力、とがったところをお見せできないという悩みもあります。そこは今、auさんに出しているbutterflyで訴求してはいるのですが……。

―― ただ、butterflyはauと密に組んでいるため、au向けの端末というイメージもあり、HTC色が少し薄いようにも感じます。

玉野氏 確かに、HTCファンの方々には、もっとHTC色の強いグローバルモデルを持ってきてほしいという声をいただいています。どのタイミングでその声にお応えできるのかはまだ分かりませんが、市場の状況に鑑みて、できるだけ早い時期に、前向きにやっていきたいと考えています。

photo メタル処理もこなれてきたという「HTC One M9」

―― 以前、auから「HTC J One」を出しましたが、あちらのデザインはグローバルのフラッグシップモデルに近かったはずです。ただし、結果的にはあまりそれが受け入れられませんでした。こうしたニーズの違いは、どう解消していくお考えでしょうか。

玉野氏 HTCは、業界の中で、勇気を持って初期の段階でメタル筐体(きょうたい)にチャレンジした会社です。その部分は、だんだんとこなれてきました。メタルの処理に関しても、「HTC One M9」でかなりいいところまできましたし、まだ発表にはなっていませんが、この後にもフラッグシップモデルが控えています。

 確かに初期のころはまだ仕上げもちょっとやぼったく、いかにも金属、金属してしまっているところはありましたが、だんだんと「プレミアム感が出てきたね」という評価もいただいています。ここに、さらに磨きをかけていけば、ポップな世界観の中にも、プレミアムさを出し、差別化ができるのではないかと考えています。

―― そういう意味では、確かにiPhoneも背面がメタルになりましたし、ガラスを使う機種も増えました。素材だけでどうというわけではないということですね。

玉野氏 弊社の影響ではないとは思いますが、iPhoneがメタルを採用したものも、プレミアム感を出しやすくなったからだと思います。サムスンさんもソニーさんも、そちらの方向に来ていますし、今はプレミアムモデルだったら、メタルが入っていないとダメという方向になりつつあります。

―― 時代が追いついてきたということですね(笑)。

玉野氏 我々がやってきたことは正しかったと、本社も思っています。仕上げで、さらに先を行きたいですね。

―― 今の状況を見て、フラッグシップを普及させるために、何か市場として足りないものはありますか。

玉野氏 足りないというわけではありませんが、今は、どうしても、フラッグシップモデルはキャリアさんが売るものになっています。iPhoneもそうですが、サブシディ(定期購読、ここでは割賦と割引の仕組みを指す)がついて、ある程度価格が抑えられています。いい悪いではなく、そういう図式があるということですね。それがないところで、いかにお客様にご購入いただくかというのはあります。

―― 確かに、「実質0円」のような売られ方をすると、どうしても素の値段が見えてしまうSIMフリー端末は、価格を抑えざるをえなくなってしまいます。一方で、キャリアの冬春モデルを見渡すと、実質価格でもそれなりに高いモデルもあり、割引が出しづらくなっているような状況が見えてきます。

玉野氏 ここにはキャリアさんのポリシーもありますからね。そういう意味で、状況を見守っていきたいと考えています。

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