中国でのネット利用で欠かせない存在となったBaidu。前述の通り、中国に進出する日本の企業にとっても無視できない存在だ。
Baiduで広告を配信することで、現地で販売・提供される日本企業の製品やサービスを知ってもらうだけでなく、中国から日本に訪れて買い物やサービスを消費するいわゆるインバウンド需要の喚起にも活用できる。日本で「爆買い」してもらうには、まず旅行の準備段階で知ってもらおう――という訳だ。
Baiduの日本法人で国際事業室室長を務める高橋大介氏は、訪日中国人客が日本を訪れ、買い物をして帰国するまでのサイクルに合わせた広告出稿が重要と説明する。そのサイクルとは、
というもの。旅行前の計画段階でネット検索や比較サイトを利用するのは日本と同じだが、次の段階で作られる買い物リストの存在が爆買いには大きく影響するという。
「訪日中国人の多くは、家族や親戚、友人知人からのリクエストをもとに買い物リストを作成します。これはかなり詳細なもので、製品名や価格はもちろん、買うときに迷わないよう、写真や売っている場所、さらには売り切れの場合に選ぶ第2候補まで盛り込まれています」(高橋氏)
リストによく登場するのは、カメラや生活家電、日用品や食品など。秋葉原で高級炊飯器が飛ぶように売れ、一部でおむつやミルクなど乳幼児に欠かせない製品が買い占められている背景には、同じような内容のリストが背景にあるといって良いだろう。そのリスト入りに欠かせない条件が、日本でしか買えないというプレミアム感だ。
「例えばカメラは、日本ならば間違いなく正規品が購入できるという点ですね。炊飯器は国内専用の製品ですから、特に高級な機種は海外では販売されてません。子育て用品は『日本製なら大丈夫』という安心感がブランド化しています。食品や雑貨も安心感ゆえの人気ですが、何より安くても質が高い点が人気。100円ショップで売られているアイデアグッズやちょっとしたお菓子や飲み物を口コミで知り、ネットで調べて指名買いするケースも多いですね」(高橋氏)
リストはWordやPowerPointなどのOffice文書の形式でスマートフォンに保存され、日本でそれを見ながら買い物をする。スマホを使ってはいるが、意外にも国内でのネット接続、つまりローミングインの利用はあまり多くないようだ。それはどうしても国内でのローミング料金が高いこと、そしてWi-Fiスポットがまだまだ少ないことが挙げられる。
買い物や観光の様子を日本国内からSNSにアップする人もいるが、「通信環境もあり、日本人に比べると旅行をリアルタイムで投稿する人はまだ少ない」(高橋氏)のが現状だ。現地SIM(日本国内用SIM)への差し替えもスマホに詳しい層や長期滞在する層の利用が多く、一般化していない。そこでBaiduでは、訪日中国人向けSIMの販売も開始した。
「日本で買い物するタイミングにネット検索する層は少ないですから、重要なのはリストを作る段階でいかにリーチできるかです。口コミに加えて、準備段階で利用するネット検索や比較サイト、ランキングサイトで、いかに知ってもらうかですね。Baiduは検索サイトだけでなく、旅行情報とSNS、航空券の購入・予約など、目的ごとのサイトを運営してますから、そこへうまく広告を出していただくのがポイントになります」(高橋氏)
Baiduが用意している広告商品は、検索サイトであればリスティングやアドネットワーク、旅行情報&SNSサイトの百度旅行ならタイアップやコンテンツ連携、航空券の予約・購入サイトのQunarならバナー広告やタイアップなど。中国国内でアクセスした場合はもちろん、日本から(中国の)Baiduにアクセスした場合にのみ表示するターゲティング広告も有効だという。また訪日SIMカードの購入者向けクーポンなどもある。必要な予算はさまざまで、例えばリスティング広告なら50万円程度から始められるという。
帰国後の段階で高い波及効果を期待できるのが、リアルでの口コミだ。報告会を開いて買ってきた物をリクエストした人に配り、買い物の様子を事細かに土産話として伝える。この会を開くまでが旅行といえるだろう。さらに旅行体験記をブログに載せ、ネット上の口コミとして広がっていく。その情報が次の訪日客、つまり新しい買い物リストに大きな影響を与えることになる。
Baiduの検索サイトは、わずか1日で60億ページービュー(PV)、25億回の検索回数を誇る。旅行関連に絞っても、航空券の予約・購入サイト(Qunar)は月間6億PV、アプリのダウンロード数は2億7000万件を突破した。1日に購入される航空券の枚数は23万枚だ。そして旅行関連SNSも4500万人以上の会員を擁し、アプリ経由で8000万人が利用する。こうしたBaiduのサービスが、「爆買い」つまりインバウンド需要のきっかけになっていることは間違いなさそうだ。
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