2016年、販売奨励金が抑えられてもiPhoneは売れると思う理由:神尾寿が語るモバイル業界(3)(1/3 ページ)

» 2016年01月30日 21時33分 公開
[小林誠,ITmedia]

 ITジャーナリストの神尾寿氏とともに2015年のモバイルを総括しつつ、2016年以降の業界動向を予想する対談企画。第3回では2016年の端末について占っていく。iPhoneは売れるのか? Androidが巻き返すために必要なこととは? 聞き手はITmedia Mobile編集長の田中聡。※対談は2015年12月下旬に実施した。

2016年は中古スマホ市場が拡大する

―― 総務省のタスクフォースでも話題になったキャッシュバックや販売奨励金が抑えられることで、特にiPhoneが大きな影響を受け、「次のiPhoneは売れなくなるのでは」といわれています。

photo 「iPhone 6s/6s Plus」

神尾氏 うーん、私はむしろ逆だと思いますね。市場全体の縮小による影響はありますが、iPhoneの影響はむしろ軽微。シェアはそれほど変わらないでしょう。

―― それはなぜですか?

神尾氏 まず外的環境要因によって市場全体が縮小均衡していく場合、シェアを落としやすいのはシェアトップの企業ではなく、ブランド力や規模で劣る2番手以降の企業なのです。シェアの順位が入れ替わるのは、市場縮小期よりも市場拡大期の方が起こりやすい。日本のコンシューマー市場は保守的な傾向が強いので、「縮小期や停滞期はブランド力が安定しているトップ企業の方が強い」のです。

 さらにiPhoneを含むスマートフォン全ての販売価格が、これから高くなるわけですよね。となると、市場の反応は2つに分かれます。

 1つは単純に、新機種として購入したスマートフォンを今までより長期で使う人が増える。これにより買い換えサイクルの長期化が起こります。

 そしてもう1つが、中古スマホ市場の拡大です。これには二面性があり、「新品スマートフォンが高いからこそ、中古買い取り価格が値崩れしない早いうちに売却して、次の新モデルを買う人が増える」ことと、「新品のスマホが高いので、年式が高くて程度のいい中古スマホに手を出す人が増える」ことが歯車のように対になって起こります。中古市場は供給と需要のバランスによって成り立つのですが、“新品のスマホが高くなる”ことになれば、日本でもようやく本来的な意味での中古スマホ市場の前提条件が整うと考えられます。

―― 今の中古市場とはまた変わってくるんですね。

神尾氏 そうです。日本では中古スマホはあまり一般的なものではなく、一部のITリテラシーの高い層が割り切って購入するか、もしくは海外市場に販売されていました。しかし新品のスマホが高くなっていけば、下取りと購入の両面で、中古スマホ市場が一般的になっていきます。

 では、中古スマホが一般化するとどうなるかというと、新品の市場ではリセールバリュー(再販価値)の高いスマホが売れるようになっていきます。これはクルマと同じですね。

photo 2016年は中古スマホ市場がさらに盛り上がる?(写真はゲオモバイル渋谷センター街店)

―― というと?

神尾氏 トヨタのクルマはなぜ売れるか? いろいろな理由があるかもしれませんが、まず「中古で高く売れる」というのがある。プリウス、カローラ、レクサスなど、どれもリセールバリューが高く、トヨタ車に乗っていれば、次に買い換える時に下取り価格を新車購入時の補てんとして使えます。また中古市場でも、トヨタやレクサスのクルマは品質やブランド面で安定していますから、需要が高くて高値で安定しています。中古市場で安定した人気があるから、新製品が売れるのです。購入者からしても、「いざとなれば高値で買い取ってもらえる」方が安心ですからね。

 スマートフォンでも新製品の販売価格が上がってきたら、12カ月後や24カ月後のリセールバリューが重要な指標になってくる。中古として売りやすいかどうかが1つの判断基準になると考えられます。

 となると、真っ先に人気が出るのはiPhoneですよ。今も中古市場で高い価値があるのは、ほぼiPhoneだけですから。iPhoneはモデルチェンジは1年ごとですが、デザインは2年ごとにしか変わりませんし、旧機種になってもOSバージョンアップのサポートが(日本のAndroidスマホよりも)手厚く行われている。例えば1〜2年落ちのiPhoneを中古として買っても、さらに2〜3年くらいは「現役」として使えます。

 ただしiPhoneの新機種自体の総販売数は下がるでしょう。今まで日本ではiPhoneが安かったので多くの人が新品として買ってきましたが、今後は一般ユーザーでも中古iPhoneを選ぶ人が増えていく可能性があるわけですから。新品の市場の一部が、中古品に置き換わっていく。しかしそれだと、iPhoneのシェアや稼働数は変わらない、減らないということになりますね。

大事なのはリセールバリュー

―― Androidスマホはどうでしょう?

神尾氏 まず市場全体が縮小する影響を受けます。特に現在のシェアが2〜4位くらいまでの中堅メーカーのスマホは、iPhoneよりも深刻な影響を受けると考えています。

 それに加えて、先ほどの中古市場が急速に立ち上がってきた場合、Androidスマートフォンはかなり不利な状況になります。実際、現時点でもAndroidスマートフォンのリセールバリューは、日本市場向けモデルを中心にiPhoneにかなり差をつけられています。リセールバリューの重要性が増してくれば、この差による影響が顕著に現れ始めるわけです。自動車の世界でも、中古市場で不人気なメーカー・車種は新車販売で不利になるのですが、似たような傾向になる可能性がある。

―― そうなったらAndroidユーザーはどうすればいいんですか?

神尾氏 使いつぶすしかない。リセールバリューは良い値がつかないわけですから。中古市場で人気のないAndroidスマホのユーザーは、買い換えサイクルを伸ばすか、iPhoneよりも不利な条件で手放して新製品を買わざるを得ないという状況になるでしょう。

―― リセールバリューを上げることはできないんですか?

神尾氏 まず、モデルチェンジのサイクルを伸ばすことが必要です。モデルチェンジが早いとリセールバリューが下がるのが早くなりますから。キャリア側も商戦期に合わせてとか自社サービスの都合などでメーカーに新製品を作らせるのをやめるなど、リセールバリューを維持するための配慮が必要でしょう。

 そしてリセールバリューを高くできるように、ブランド力をしっかりと作らなければなりません。中古でも売れる製品というのは、中古で買っても満足できる・安心して買えるというブランドへの信頼があってこそですから。

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