2015年に変わったのはドコモ、タスクフォースでは「キャリアが総務省に勝った」神尾寿が語るモバイル業界(2)(1/2 ページ)

» 2016年01月22日 13時10分 公開
[小林誠ITmedia]

 ITジャーナリストの神尾寿氏とともに2015年のモバイルを総括しつつ、2016年以降の業界動向を予想する対談企画。第2回では2015年のドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリアについて評価するほか、総務省の「タスクフォース」を振り返る。聞き手はITmedia Mobile編集長の田中聡。※対談は2015年12月下旬に実施した。

ドコモは投資が花開いた2015年だった

―― 2015年の各キャリアをどう評価しますか?

神尾氏 ドコモが大きく変わりましたよね。dポイントを始めたほか、スマートライフ系のコンテンツやサービスを数多く投入し、それが収益に貢献し始めた。ここ2、3年の投資が花開いてきた印象です。そういう意味ではドコモは次のステージへ進み始めた。通信回線を売るだけの旧来の通信キャリアの姿から、新時代のキャリアの姿に近づいてきました。

photo 12月1日にスタートした「dポイント」

 もちろんNOTTVのような失敗例もありましたが、先行投資してきたものが次の価値を生み出してきています。NOTTVにしても、あれだけ多くのステークホルダーを巻き込んだ事業を、よくぞ「損切り」したと高く評価しています。dポイントサービスはまだ発展途上ですが、今後は徐々に成果が出てくるでしょう。目先のビジネスだけに振り回されず、新たな事業領域に積極的に投資してきた姿勢は立派ですよ。

―― ドコモのポイントサービスはうまくいくと思いますか?

神尾氏 成功すると考えています。2015年、dポイントは汎用(はんよう)ポイントサービスになりましたが、単純に顧客基盤が大きいだけでなく、ドコモはクレジットカードを発行できるイシュアでもある。つまり、ポイントとクレジットカード事業の連携がしやすいのです。まだ、その潜在力があまり発揮できていませんが、ここはとても重要です。

 また加盟店開拓においては少々手こずっているようですが、ドコモはおサイフケータイの時に、iD加盟店を全国に広げた実績があります。フットワークがやや重い部分もありますが、持久走的なインフラ構築はドコモの得意分野なのです。

ソフトバンクは選択と集中を進めた

―― ソフトバンクはどうですか?

神尾氏 2015年は選択と集中をだいぶ進めたな、という印象があります。ワイモバイルの統合とすみ分けもできてきましたし、サービス系もトレンドを見つつ取捨がきちんとできるていると評価しています。

 ソフトバンクはドコモのようにお金があるわけじゃないから、全部を自分でやろうとしない。ポイント事業でTポイントと組んだのは、戦略的にとても正しい。自らのポジションを理解して、上手な投資をしたと思いますよ。ドコモと違って、ソフトバンクが自社ポイントを汎用化しても、汎用ポイント市場では勝ち目がないですからね。内製化にこだわらず、マーケティング的に最も提携効果が高いTポイントと組んだ。これはとても正しい選択です。

photo ソフトバンクのポイントサービスは「Tポイント」と連携している

―― ネットフリックスとも組みましたね。

神尾氏 ネットフリックスはまだ成功段階に入っていませんが、急成長する外資のネット企業と素早く提携するというのは、インターネット企業らしいですね。内製主義のドコモに対して、素早く上手に異業種提携で対抗策を打ってくるのが最近のソフトバンクです。そういった意味では、ドコモとソフトバンクは対称的です。

photo 映像ストリーミングサービス「Netflix」の国内向けサービスを、ソフトバンクのキャリアショップやコールセンター、取り扱いのある量販店などで販売する

 あとソフトバンクグループで見ますと、ヤフー (Yahoo! Japan)が2015年は頑張った。2015年1年でヤフーのアプリの質がとても上がっているんです。ポータルのアプリもニュースのアプリもそう。ヤフーニュースは、ネットニュースナンバー1というだけあって、横綱相撲をしている。カーナビや地図アプリもそうですね。ヤフーのスマホシフトを強く感じています。

―― ヤフーがソフトバンクにプラスになる?

神尾氏 大いになりますね。2016年のソフトバンクの原動力はヤフーですよ。今後連携も増えてくると思う。ヤフオクの進化、メルカリへの対抗もあるだろうと思っています。また、2017年の消費税増税でC2C取引が確実に増える。個人間の取引はよほど大きくなければ消費税がかからないので。最近は中古車もヤフオク利用がふえているし、2016年のヤフーは、よりスピーディーなことをやってくるのでは、と期待しています。

KDDIは市場トレンドの変化に対応できなかった

―― KDDIはどうでしょう?

神尾氏 うーん、KDDIはトピックが少ない年でしたよね。2015年に、市場トレンドの変化に最も対応できなかったのがKDDIではないでしょうか。スマートフォン黎明(れいめい)期から普及拡大期にかけて、端末とネットワークが最重要だった時は、KDDIのかじ取りはとても正しかった。実際に成果もあげていて、MNPでユーザーも獲得できた。

 しかし今はスマートフォンはどのキャリアでも同じで、ネットワークの性能も一般ユーザーでは差が分からないくらい品質が底上げされた。確かにKDDIのネットワークは、よくよく比べれば優位性があるのですよ。しかし、一般ユーザーにとっては、それが差別化要因にはならない。ドコモのように新規事業に対して戦略的かつ大規模に投資を行っていませんし、やっていても息切れしている。音楽などのエンタメも、決済系サービスも、すべてが中途半端です。

―― ほう、そこまで言い切りますか。

神尾氏 個別で見ていくと、auはいち早くau損保として自転車保険を出したり、ライフネット生命と組んでネット保険に参入しようとしている。他社に先駆けて行っているものも少なくないですし、それはとても評価しているんですが、auの強みになっているか? というと違うんですよ。投資規模がドコモに比べると小さいですし、コンテンツサービス分野を全社的にバックアップしようという意気込みを感じない。

―― なぜなんでしょう?

神尾氏 経営戦略がネットワークと端末に寄り過ぎているのでは? 今後、重要なのはコンテンツとサービスですよ。ですから高橋誠さん(現在のKDDI代表取締役執行役員で、長くコンテンツ・サービス部門を担当している)が、ヒーローにならないと。KDDIもコンテンツサービス部門に大きな予算と権限を与えて、全社的にバックアップすれば良くなると思うんですが、現状はそうは見えない。(KDDIの本社機能がある)飯田橋から(コンテンツサービス部門が集中している)渋谷への主役交代に、私は期待しているのですが。

―― 昔はエンタメといえばauでしたからね。

神尾氏 昔のauは一般のコンシューマーユーザー向けにネットワークも端末も、サービスもコンテンツもきっちり提案ができていました。きちんと一般ユーザーの姿を見ていましたし、センスがよかった。「∞ Labo(ムゲンラボ※スタートアップ支援プログラム)」だって良い試みなのに、auの強みにつながっていない。昔はナビタイムやグリーへの投資がauのブランドに還元されていましたよ。

―― 懐かしいですね。

神尾氏 結局やめてしまいましたが、Firefox OSみたいなオタクっぽいものに手を出して、一部のマニアと盛りあがっただけみたいな状況を見ていると、「大丈夫なのかな?」と不安になるのです。auはもっと普通の人に向けてビジネスと新しい提案をしていかなければならない。また、コンテンツ/サービス分野を中心に、新事業領域に次の主役になってもらいたいですね。

―― KDDIには厳しい意見が目立ちましたね。

神尾氏 それは期待の裏返しだと思ってください(苦笑)。LISMOをはじめ「音楽のau」で鳴らしていた頃のKDDIは、マニア向けではなく一般ユーザー向けにバランスの取れた事業展開ができていた。ですから、再びそうなってほしいのです。誤解を恐れずにいえば、ガジェット好きが喜ぶようなマニアックなスマホとか調達しなくていい。それよりも普通の人の生活を豊かでセンスよくするような、「auらしい提案」に期待したい。

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