インタビュー
» 2016年01月22日 13時10分 公開

神尾寿が語るモバイル業界(2):2015年に変わったのはドコモ、タスクフォースでは「キャリアが総務省に勝った」 (2/2)

[小林誠,ITmedia]
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総務省にキャリアが勝った?――タスクフォースの所感

―― 少し話にも出ましたが、2015年の携帯電話業界の話題として、総務省のタスクフォースでの議論がありました。結果、月1GBの安いプランを作る、というふうにまとまったのですが……(実際、ソフトバンクが1GBプランを4月以降に提供することを発表した)。

神尾氏 まったく意味ないですよね、1GBプランなんて。パケット単価はむしろ上がっていますし(笑)。

―― そうなんですよね(苦笑)。

神尾氏 総務省やタスクフォースの審議官は何を考えているんでしょうね。キャリアからすれば1GBのデータを一番割高なプランで売ればいいわけだから。スマートフォンを使っていて通信容量が1GBで済むことなんて、ほとんどない。

―― 結局月数千円になるのは変わらない。

神尾氏 エントリー向けの料金プランを契約する人は、リテラシーが低いか高いか、両極端なんですよ。で、リテラシーが高い人なら問題はない。Wi-Fiを使うとか、2台持ちでテザリングを活用するとか、工夫するから。だけど「少しでも安いプランが欲しい」という人は、リテラシーが低い人のほうが多いわけです。

―― Wi-Fi環境が家にない、とか。

神尾氏 そうなんですよ。たとえWi-Fiがあったとしても、外出先でバックグラウンド通信を有効にしているだろうから、結局1GBなんてすぐになくなってしまう。エントリーユーザー向けだからこそ、月3GBくらいは欲しいところです。「3Gプランを月5000円以下で出せ」と総務省が言ったらどうです?

―― それはキャリアが嫌がりそうです(笑)。

神尾氏 でしょう(笑)。だからこそ、そう言うべきだったんです。

―― キャリアにとっては、今回の総務省タスクフォースの要請は「助かった」というのが本音ですよね?

神尾氏 ええ、いろいろあったと思いますが、最後の最後にキャリアは「これはうまい話」と考えたんじゃないですかね。平均ユーザーの利用水準を元に料金を下げろ、ではなく、絶対額で料金プランが下がっていればいい、単純に月5000円以下のプランがあればいい、という話になりましたから。極端な話「100MBで月3000円」のプランでもいいわけじゃないですか。月額料金は安いわけだから。

―― そのかわりチャージの料金が非常に高い、と。もし仮にキャリアにとって痛い要請というのがあったとしたら、それはどんなものでしょうね?

神尾氏 通信速度制限で安くしろ、と求められたら痛かったと思います。提供する実効通信速度1Mbps弱くらいに抑える代わりに通信容量制限は基本的にない、というものです。通信速度を抑えて料金が安いという仕組みの導入を迫られたから、ドコモをはじめ大手キャリアは嫌だったでしょうね。本来であればこの方法が初心者向きなんですよ。YouTubeを見るのでもなければ、5Mbps以上の通信速度は必要ありませんから。

―― スマホなんて通話とメール、LINEくらいしか使わない、なんて人も多いですからね。

神尾氏 それだけなのに、なんでこんなに高い料金を払わなきゃいけないんだ! というのがそもそもの不満の原点だったと思うんですよ。この人たちには高速の通信速度は不要で、従来の遅い通信速度で十分なんです。だからそこそこの通信速度で安い料金プランがあれば、ニーズと合います。だけどそれではキャリアの収入は上がらない。通信容量の方に制限をかけないと、追加課金しないお客さんばかりになってしまうから。

―― それをキャリアが導入した場合、インフラへの負荷は高まりませんか?

神尾氏 インフラへの負荷という点では、それほど高くなるとは考えられません。1Mbps程度に抑えて通信速度は上がらないんだから。ただ売り上げは上がらないですし、まあもうからないですよね。既存ユーザーの中にも、YouTubeなど動画サービスはあまり使わないという人は少なくありませんから、そういったユーザーが通信速度制限付きで安いプランに移られたら、それこそ目も当てられません。

VAIO SIMに新たな可能性を見いだした

―― 確かに、ユーザーにとっては低速無制限の安いプランの方が良かったでしょうね。

神尾氏 そういう意味では「総務省よりキャリアの方が一枚上手だった」ともいえる。もっともタスクフォースに意味がなかったというわけではなくて、MNPに対して過度な優遇をやめさせるという議論は良かったと思います。キャッシュバックや実質0円を完全に封じるのはどうかと思いますけど。

―― 完全に(キャッシュバックや販売奨励金を)やめましょう、というわけではないようですしね。

神尾氏 自主規制という形になるんでしょうね。

 また、MNOが料金プランの面ではお茶を濁した結果、MVNOにとっては独自の料金プランを掘り下げる余地が残ることになった。例えばトーンモバイルはTポイント連携ばかり注目されるんだけど、実効通信速度が600Kbps程度で料金を安く設定してあって、MVNOの提案としてはとても正しいと思うんですよ。通信容量で料金プランを分けるのではなく、通信速度で料金プランを分ける、というのが。そういう意味ではVAIOオリジナルSIMも良かった。

photo NTTコムと共同開発した「VAIO SIM」。LTEを内蔵しているノートPC「VAIO S11」とセットで購入できる

―― VAIOストアで発売されている、200kbpsで年間無制限に使えるSIMですね(1年で1万1800円から/税別)。

神尾氏 通信速度はいらないけれど常時接続が欲しい、というニーズは確実にあります。速いのが必要なときはそのときに応じて買えればいいんです。これはスマホユーザーにも需要がありますよ。タブレットもそうですよね。

―― 動画を見るときは家やホテルのWi-Fiを使うし、外では通信速度が遅くてもいいというニーズですね。

神尾氏 外ではLINEとメール、Twitterができて、Webがそこそこ見られればいいというね。これなら実効通信速度が、600kbps前後から1Mbpsあれば十分ですよ。MVNOはそこで工夫してくると面白いと思いますね。

(続く)

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