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» 2016年03月04日 10時30分 公開

佐野正弘のスマホビジネス文化論:MWC16で注目 「スマホでVR」は本当に普及するのか? (2/2)

[佐野正弘,ITmedia]
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PC向けVRを選んだHTC、その理由は

 ここまではスマートフォンを活用したVRだが、“それ以外”を選択したのがHTCだ。HTCが開発したVR HMD「HTC VIVE」は、スマートフォンではなくPCに接続して利用するタイプだ。より本格的なVRコンテンツを利用できるHMDで、Gear VRの競合というより、Oculus RiftやPlayStation VRの競合というべきものだ。

MWC16で注目 「スマホでVR」は本当に普及するのか? HTCの「HTC VIVE」は、スマホではなくPCに接続して本格的なVRコンテンツを実現するHMD

 スマートフォンを活用したVR HMDは、スマートフォンやHMD自体の傾きセンサーを用いて向きを検知し、その方向に応じた映像を映し出す仕組みとなっている。だがHTC VIVEは、HMDに搭載されたセンサーによる傾きなどの検知だけでなく、部屋の2箇所に専用のベースステーションを設置し、そこから発せられるレーザーによって位置も検出する仕組みを備えており、部屋の中を移動しながらより本格的なVR体験ができるのが大きな特徴だ。

MWC16で注目 「スマホでVR」は本当に普及するのか? HTC NIPPONで実施された体験デモで、HTC VIVEを体験している筆者。部屋にも機器を設置することで、移動しながらVRゲームを楽しめるのが最大のポイント

 HTC VIVEは、PC向けゲームプラットフォーム「Steam」を展開しているValveの打診を受け、VRプラットフォーム「Steam VR」に対応したデバイスとして共同開発された。そうした経緯から、HTC VIVEがPC向けなことは理解できるのだが、HTCが得意とするスマートフォンをあえて選ばなかった理由は、他にもあるようだ。

 それはVRの“酔い”に関する問題が大きい。VR HMDは視界を完全に覆い、ディスプレイに表示される映像がユーザーの視界の全てとなる。そのため実際の動きと、ディスプレイ上の動きに少しでもずれがあると脳が違和感を引き起こし、乗り物酔いのような症状を起こしてしまいやすいのだ。

 この“酔い”の問題に対処するには、コンテンツの作り方に工夫が必要なのはもちろん、ハード面でもユーザーの動きを正確に反映し、動きに合わせて素早く描画するだけの性能が求められる。つまり、HTCがVR HMDの環境にスマートフォンではなくPCを選んだのには、酔いを起こすことなく快適なVR体験を提供するため、高いハード性能が必要と判断したことも大きかった訳だ。

手軽さとハードルの低さを生かせるか

 “酔い”の問題はスマートフォンを使ったVR HMDの限界も示している。当然ながらHTC VIVEで求めている高いハード性能を、現在のスマートフォンが実現できている訳ではない。そうしたことからスマートフォン上で動きの激しい高度なVRゲームなどを提供するのは難しく、コンテンツの幅にはどうしても制約が出てきてしまうのである。

 実際、MWCで展示されている各社のVR HMDのデモを体験すると、その多くはジェットコースターやカーレースなど、リアルな映像が楽しめるものが主体であり、ゲームのようなインタラクティブなコンテンツはあまり見ることができなかった。そうしたデモの傾向からも、現在のスマートフォンを用いたVRの限界が見えてしまうのは事実だ。

 だが一方で、スマートフォンを用いたVRには大きなメリットもある。最大のメリットとなるのは、やはり低価格で利用できることだ。

 Oculus VRやHTC VIVEは、既に価格が発表されている通り、VR HMDを購入するだけで10万円前後が必要であるし、さらにそれらを快適に動作させるには10万円を超えるような高性能なゲーミングPCが必要となる。PCの性能にもよるだろうが、合計すると20万近い出費となるため、VRにとても関心がある人でない限り、購入して体験するのは現在のところかなり難しい。

 だがスマートフォンの場合、既に発売されているGear VRでも2万円台半ばであり、「Galaxy S6/S6 edge」など対応するスマートフォンを持っていれば追加出費はゼロだ。IDOL 4Sに至ってはスマートフォンを購入するだけでVRを体感できるし、そのIDOL 4Sが採用している、簡易的にVRを実現するグーグルの「Cardboard」プラットフォームを活用すれば、機種を問わずに低コストでVRを体感できる。

MWC16で注目 「スマホでVR」は本当に普及するのか? 製品パッケージがVR HMDとして利用できるTCLの「IDOL 4S」は、Googleの「Cardboard」プラットフォームを活用することで、安価にVR体験を実現している

 そしてもう1つのメリットは、ケーブルなどの接続が基本的に不要で、スマートフォンを装着するだけで手軽に楽しめることだ。そうしたことから各社は、VR活用をゲームではなくカメラに見いだそうとしているようにも見える。Samsungが「Gear 360」を、またLGが「LG 360 CAM」という360度撮影カメラを発表したのも、スマートフォンのVR環境でいかにVRを楽しんでもらえるかを考えた結果といえるのではないだろうか。

MWC16で注目 「スマホでVR」は本当に普及するのか? スマホ各社がHMDだけでなく、「Gear 360」といった360度カメラに力を入れ始めたのも、VRの利用拡大を強く意識している故といえそうだ

 無論、将来的にはスマートフォンの性能も向上し、処理能力や描画能力が現在のゲーミングPC並みになることもありえる。そこまでの進化を遂げることができれば、スマートフォンにおけるVRのあり方も大きく変わってくるだろう。そうした時期を迎えるまで、各メーカーがVRに継続的に取り組み続け、スマートフォンでも利用しやすいコンテンツや周辺デバイスの充実を進められるかが、VRの広まりを大きく左右することになるかもしれない。

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