Windows 10 Mobileが終わっても、モバイル市場でMSの存在感が増す理由:「モバイル・ファースト」時代のWindows最前線

» 2017年10月24日 18時01分 公開
[山口健太,ITmedia]

 米Microsoft幹部のツイートを発端として、Windows 10 Mobileが事実上終了したとの報道が注目を浴びている。だがMicrosoftは、既にiOSとAndroid向けにOfficeを中心としたアプリを積極的に投入している。OSのシェア争いという意味では敗れたMicrosoftだが、モバイル市場における存在感はむしろ高まっている点に注目したい。

Windows 10 Mobileは事実上終了、サポートは継続

 Windows 10 Mobileを巡る騒動の発端は、米Microsoft コーポレート・バイスプレジデントのジョー・ベルフィオーレ氏による10月8日のTwitterへの投稿だ。ベルフィオーレ氏は今後のWindows 10 Mobileについて、新機能や新端末にはフォーカスしないと明言している。

Microsoft Windows Phone時代からモバイル事業の「顔」となってきたジョー・ベルフィオーレ氏(Mobile World Congress 2014にて)

 単にMicrosoft幹部の発言というだけでなく、Windows Phone時代から同社のモバイル事業の顔となってきたベルフィオーレ氏の発言であり、Microsoftの公式発表よりも影響力は大きいといえる。

 だが、Windows 10 Mobileの情報を追ってきた人にとって、こうしたMicrosoftの「方針転換」は既定路線であり、新たな驚きはないはずだ。Microsoftは2016年を最後にLumiaシリーズの新機種を発表しておらず、決算発表でもWindows 10 Mobileの将来性については大きくトーンダウンしていたからだ。

Microsoft Lumiaシリーズ最後のモデルとなった「Lumia 650」(Mobile World Congress 2016にて)

 あらためて確認されたのは、サポートの継続だ。日本マイクロソフトによれば国内でもサポートは継続して提供され、既にWindows 10 Mobileを運用中の法人や個人が直ちに対応を迫られることはなさそうだ。将来的にはiOSやAndroidへの移行を念頭に置く必要はあるものの、当面は10月10日にサポートが終了したOffice 2007や、2020年1月にサポートが終了するWindows 7からの移行を急ぐべきだろう。

 OEMの中では、最後までWindows 10 Mobileを支えるとみられていたHPも、今後は不透明な状況だ。日本HPでは「Elite x3」のサポートを2019年末まで提供するものの、販売は在庫限りで終了するという。2017年2月にはスペックを落とした後継機の存在も明らかになった(関連記事)が、こちらもフェードアウトすることになりそうだ。

Microsoft HPが開発を進めていた「Elite x3」の後継機(Mobile World Congress 2017にて)

 こうして事実上の終了が宣言されたWindows 10 Mobileについて、Microsoftの度重なる失策を非難するのは簡単だ。その一方で、「では、どうすれば成功したのか」という点については、業界内でも意見が分かれるというのが筆者の印象だ。

 モバイル市場を支配するiOSとAndroidは、ハードとソフトの制約や自由度といった点で対照的な位置にある。これに対してWindows Phoneは、一定の制約のもとで一定の自由度を実現する中庸を目指してきた。

 その中でWindows 8に採用されたライブタイルや、後にiOSやAndroidも追従したフラットで軽量なユーザーインタフェースは、高い評価を得てきたことも事実である。一時期は海外のミュージック・ビデオにも頻繁に登場するほど、Windows Phoneのデザイン性は突出していたものがあった。

 確かに戦略が二転三転したことで、端末メーカーやアプリ開発者の広い支持を得られなかったことも事実だ。しかし「第3のOS」と呼ばれたモバイルOSがことごとく頓挫した歴史を振り返れば、Windows 10 Mobileは2大OS以外で最も健闘したといえるのではないだろうか。

モバイル市場で存在感を拡大させるMicrosoft

 こうしてモバイル市場に独自のOSを展開するという意味でのMicrosoftのモバイル戦略は、失敗に終わったといえる。今後はSnapdragon上でフルWindowsを走らせるなど新たな方向性には期待したいものの、Windows 10 Mobileの立ち上げに使った「ハシゴを外さない」というフレーズは、もう使えない。業界内で信頼を取り戻すには時間がかかりそうだ。

Microsoft 2017年9月に登場した、英WileyfoxによるWindows 10 Mobileの新機種(IFA 2017にて)

 一方でMicrosoftの関心は、Windowsユーザーのほとんどが利用するiPhoneやAndroidに移っている。2015年にはCEOのサティア・ナデラ氏がSalesforceのイベントでiPhoneを使用。最近では創業者のビル・ゲイツ氏がAndroidの使用を公言した。共通しているのは、これらの端末がMicrosoft製アプリを満載している点だ。

Microsoft 米ニューヨークのMicrosoft Storeでは「Galaxy S8」を販売している(2017年8月撮影)

 こうしたiPhoneとAndroidへの取り組みは、Microsoftのモバイル市場における存在感を着実に高めている。アップルはiPad Proの発表会で、ビジネス活用の例としてMicrosoft Officeのアプリを取り上げた。直近ではWebブラウザの「Edge」がiOSとAndroidに対応し、Androidではホーム画面アプリの「Microsoft Launcher」も登場した。

Microsoft もはやiPad ProでMicrosoft Officeのアプリを使うことは当たり前になっている

 Windows 10 Mobileに愛着のあるユーザーからは不満も出そうだが、MicrosoftのモバイルアプリはもはやiOSやAndroid向けの方が、数としても機能としても充実しつつある。ここまで来れば、端末としてはiPhoneやiPad、Galaxyを使いつつも、アプリやクラウドをMicrosoft製にそろえることで、Windows PCとシームレスに連携させたい人は増えてくるはずだ。

 モバイル市場におけるシェアといえば、「OSシェア」や「端末メーカーシェア」で語られるのが一般的であり、この点でWindows 10 Mobileには見る影もない。だがモバイル端末で使われるアプリ、特にビジネスに欠かせない生産性ツールのシェアという観点では、Microsoftの存在感は日に日に大きくなっているというわけだ。

 このようにMicrosoftは、モバイル市場に独自のOSを普及させるというこだわりを捨てたことで、iOSとAndroidへの対応にブレーキを踏む必要がなくなった。AppleやGoogleにとってMicrosoftは、心強いパートナーであると同時に、再び恐ろしいライバルになろうとしていることは間違いない。

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