Appleは3月25日(現地時間)、米カリフォルニア州クパチーノでスペシャルイベントを開催。動画配信サービスの「Apple TV Channel」や、Apple自身が制作に携わる「Apple TV+」、ゲーム定額配信サービスの「Apple Arcade」などの新サービスを発表した。
他にも、新聞や雑誌の定額サービスの「Apple News+」や、Apple Payを前提にした「Apple Card」などが披露された。あえてハードウェアを前週にまとめて発表し、スペシャルイベントでは新サービスの紹介に特化した格好だ。ここでは、その模様を振り返りながら、Appleの狙いを読み解いていきたい。
スペシャルイベントは、異例づくしの構成だった。発表後に行われるハンズオンもなく、発表されたサービスを振り返ってみても、サービスインが先になるものが多かった印象だ。イベント当日に始まったのはApple News+のみ。Apple TV+やApple Arcadeに至ってはサービスインが今秋と、ユーザーが体験できるようになるのはまだまだ先のこと。いずれも定額配信の「サブスクリプション型」が特徴だが、一部を除くとコンテンツのタイトルも明らかになっていない。
各サービスの詳細を発表するというより、Appleがこの事業に今まで以上に力を注ぐという宣言をした色合いが濃く、その意味でも従来のスペシャルイベントとは一線を画していた。これまでもティム・クックCEOは折に触れ、サービス事業に注力することを明かしていたが、それをもう少し具体的な形で披露したイベントだったと捉えることもできそうだ。
とはいえ、サービス事業も競合がひしめく分野で、サブスクリプション型も目新しいというわけではない。周知の通りだが、定額の動画配信サービスにはNetflix、Amazon、Huluといった“巨人”がいるし、Apple Cardに関しては、Apple Pay上で既にサービスを提供しているさまざまなクレジットカード事業者が直接のライバルになる。ゲームに関しても、スマートフォンを対象にしたサブスクリプションサービスは少ない一方で、専用ゲーム機では、ソニーや任天堂が定額サービスを既に提供済みだ。
では、Appleならではの勝算はどこにあると見ているのか。その答えは、ティム・クックCEOが冒頭で語ったフレーズに集約されている。同氏はiCloudやマップ、Apple Musicなどの既存サービスを挙げながら、これらは「ハードウェアとソフトウェア、さらにサービスをシームレスに統合した結果で、Appleが他の誰よりも得意とするところ」と語っている。iPhoneやiPadという膨大な数のプラットフォームがあり、垂直統合的にソフトウェアやサービスを手掛けているからこそ、「人々の生活を豊かにできる」(同)というわけだ。
ハードウェアやソフトウェアとのシームレスな統合は、新サービスにも貫かれている。例えば、Apple News+では、単に雑誌を既存のレイアウトのまま丸ごと配信するのではなく、他のサービスで培ったレコメンド機能の「For You」を載せたり、デジタルならではの映像を組み合わせたコンテンツを組み込んだりと、「iPhoneやiPadでニュースを読む、ベストな方法を提供しようとした」(同)という工夫がある。
Apple Cardも同様で、iPhoneでいくら、同様に使ったのかをグラフィカルなユーザーインタフェースで管理できることに加え、ポイントなどではない、2%の直接的なキャッシュバックを受け取れる仕組みを用意した。
もちろん、これらの新サービスにはAppleならではの厳しいプライバシーポリシーが適用される。Apple News+では、ユーザーが何を読んだのかがトラッキングできないようになっており、Apple Cardの購買情報もサードパーティーに提供するようなことはないと明言された。サービスに注力する上でも、以前からのプライバシー重視の方針は変えないということだ。
ゲームの定額配信サービスであるApple Arcadeでは、広告を一切配信せず、かつアイテム課金のような“もうかる”仕組みも取り入れないことが明言された。スペシャルイベントでは、家族で安心して遊べることがアピールされていたが、ここからは「ゲームの体験をよりよくしていきたい」(同)という思いが込められていることもうかがえた。
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