ソフトバンクは、8月22日、埼玉県のさいたまスーパーアリーナで開催されたバスケットボールの日本代表戦で、5Gのプレサービスを提供した。
一般ユーザーを巻き込み、プレサービスと位置付けたのは、「FUJI ROCK FESTIVAL '19」(以下、フジロック)に続いて2回目。屋外で複数箇所に基地局を設置した前回とは異なり、今回のプレサービスはスタジアム内に1カ所基地局を設け、5Gならではの試合映像を配信した。いわば、ユーザーを巻き込んだ実証実験といえそうだが、このプレサービスはどのような狙いで展開したのか。ソフトバンクに聞いた。
ソフトバンクが5Gの「プレサービス」と銘打ったのは、フジロックに続いて2回目になる。フジロックで行われたプレサービスの様子は別途記事にしているため、詳しくはそちらを参照してほしい。前回はテーマが音楽フェスだったのに対し、今回はスポーツ大会がテーマ。5Gで、広義のエンターテインメント体験をどう変えるかに主眼が置かれているところが、フジロックのプレサービスとの共通点だ。
一方で、同じエンターテインメントでも、音楽とスポーツではジャンルが異なり、楽しみ方も変わってくる。同じ5Gでも、用意するコンテンツやユーザーに見せる世界観は、異なることが想定される。また、前回はフジロックの会場だったため、限定されてはいるものの場所は広範にわたり、移動基地局車なども設置できた。これに対し、バスケ日本代表戦は、さいたまスーパーアリーナ内で実施される。屋内で基地局の設置場所はフジロックより限定され、かつ人口密度も高くなる。
こうした違いを踏まえ、設備構成もフジロックでのプレサービスとはやや異なっていた。冒頭で挙げたように、基地局は1局で、5Gはダウンロードにのみ使用。周波数帯も、ソフトバンクが4G用に使う3.5GHz帯が選ばれた。帯域幅は40MHz幅で、現行の4Gと同じ。3.7GHz帯を100MHz幅分利用したフジロックのときより、帯域は抑えている。
あえて4Gと同じ3.5GHz帯を利用したのは、周辺環境を考慮してのことだという。ソフトバンクの担当者によると、「衛星や他事業者との干渉もあって、ここが一番だと判断した」という。もともとアンテナを含めた基地局が設置してあり、「交渉がしやすかった」(同)ことなども、プレサービスに3.5GHz帯を利用した理由の1つだ。5Gは、制御信号(コントロールプレーン)のやりとりにLTEを使う「NSA(ノンスタンドアロン)」方式を採用した。アンカーバンドとして使ったLTEは1.7GHz帯で、この点はフジロックのときと変わらない。
5Gの電波を使ったサービスは、日本代表戦の開始と同時に提供された。スタジアム上部に設置された基地局から、試験用の端末に5Gの電波を飛ばし、その端末を経由してWi-FiでVRゴーグルやARグラス、タブレットに接続。5Gの高速通信を生かしたサービスを、事前に応募したユーザーが体験した。
VRはフジロックのときと同じで、実際の試合映像を見ながら他のユーザーとコミュニケーションが取れるコンテンツ。ゴーグルには、Oculus Questが使用された。目の前で試合が繰り広げられているのに、わざわざゴーグルをかけ、VRの映像を見る必要が本当にあるのか……といった疑問はわくが、映像の没入感は高いため、自宅などの遠隔地で試合を楽しむことはできそうだ。試合を見ながら遠くに離れたユーザーとコミュニケーションが取れるのも、VRならではといえそうだ。
これに対し、nrealのARグラスを使ったコンテンツは、没入感はないものの、目の前で繰り広げられている実際の試合を観戦できるのがメリットだ。グラスには、会場で撮影した別視点の映像が投影された。現実世界に対する補完的な情報を加えるという点では、ARらしいコンテンツといえる。現時点では技術的に実現が難しいかもしれないが、選手のデータや得点情報、シュートやパスの軌跡などをデータで現実世界に重ねることができるようになれば、観戦の仕方がガラッと変わるかもしれない。
実際、さいたまスーパーアリーナには、ソフトバンクが5Gで目指す世界観をデモとして展示。「リアルタイムスタッツ」と銘打ったコンテンツが展示されていた。これは、選手の映像にリアルタイムでデータを重ねるもので、高速でかつ低遅延が特徴の5Gを生かしたサービスといえる。展示では映像に対してCGのデータを付与していたが、将来的にはARのスマートグラスに応用することもできそうだ。残念ながら、5Gのデモコーナーは実際の電波がつながっていたわけではなく、あくまで“イメージ”でしかなかったが、実際に足を止める来場者も多く、注目されている様子はうかがえた。
もう1つ、試合会場で提供していたのが、タブレットによる多視点の映像だ。コートをグルッと囲むように設定された全30台のカメラからの映像を合成し、自由視点の映像を作成。ユーザーはそれを自由に操作でき、実際の試合を観戦しながら、別視点の映像を同時に見ることができた。自由視点のコンテンツはデータ量が大きく、受信するには5Gのような高速通信が必須になる。
ただし、コンテンツを生成しているためか、目の前の試合と映像には、10秒以上のタイムラグがあった。タブレットに映っているのは、わずかだが過去の映像になってしまっているというわけだ。ゴールした瞬間を別視点で振り返るときには許容できるタイムラグかもしれないが、現実の試合と視点を変えた映像を交互に見ながら、より詳細にプレイを分析するといった使い方には向いていないかもしれない。
こうしたコンテンツを通じ、ソフトバンクは「1人でも多くの方に5Gを体感していただきたい」(モバイルネットワーク本部長 野田真氏)という。商用サービスに向けた実証実験と同時に、ユーザーに対して5Gの魅力を事前にアピールし、期待感を醸成していくのがプレサービスの狙いといえる。
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