一方、超低遅延を実現する上で用いられる技術は「モバイルエッジコンピューティング」(MEC)だ。
ネットワーク遅延が発生する理由は大きく2つあり、1つは通信をする端末と、その処理をするクラウドとのネットワーク上の距離によって発生する遅延だ。モバイル通信は、無線区間以外はほぼ光ファイバーを用いて通信しているが、光とはいえ日本から米国や欧州など、非常に遠い場所と通信をすると、どうしても遅延が発生してしまう。
そしてもう1つは、クラウドの処理に時間がかかることで発生する遅延だ。例えば監視カメラの映像をクラウドで処理し、離れた場所の端末で視聴するような場合、クラウド側で映像を圧縮してから映像を送ることが多いので、その処理時間が遅延につながってしまうのだ。
そうした2つの負担を軽減するために用いられるのがエッジコンピューティングである。要は端末に近い場所にエッジサーバと呼ばれるものを設置し、そこでクラウドでこなす処理の一部を負担することによって、クラウドにかかる処理負担を減らしながら、通信する距離も縮めて遅延を小さくするのである。
そのエッジコンピューティングを、モバイル通信に持ち込んだのがMECである。MECでは基地局など端末により近い場所にエッジサーバを設置し、そこで処理の一部を負担することで低遅延を実現する訳だ。
そして多数同時接続、ひいては他の2つを含め5Gの特徴をフルに生かす技術とされているのが「ネットワークスライシング」である。
5Gではスマートフォン以外にも幅広い利用用途が想定されているが、実は5Gの3つの特徴を同時に必要とするものはあまり多くなく、例えば8Kの映像配信に多数同時接続は必要ないし、工場に設置してデータを取得するセンサーに高速大容量通信は必要ないはずだ。しかし従来のモバイルネットワークの仕組みでは、映像配信でもセンサーでも一律に同じネットワーク容量が割り当てられてしまっていたことから、無駄が多く効率が悪かったのだ。
また今後、5Gで超低遅延を活用し、遠隔運転などのクリティカルな作業を実現する上では、スマートフォンの利用が増えて混雑しているからといって、遅延が増えてしまうようでは使い物にならない。それゆえ5Gではネットワークの無駄をなくしてより多くの機器を同時に使えるようにし、なおかつ用途に応じた適切なネットワークの割り当てをする必要が出てきているのだ。
そこで登場するのがネットワークスライシングだ。これはネットワークの容量を仮想的に分割し、用途に応じて適切な容量を割り当てる技術であり、例えば映像配信には大容量、センサー用には小容量と、適切なネットワークの容量が割り当てられることで、多くのデバイスとの通信を同時に効率よくこなせるわけだ。
またネットワークを分割して割り当てることで、重要性が高い自動運転用の通信は、混雑が生じても確実に通信が継続できるよう一定の幅を確保するといった対応も可能になる。そうしたことから5Gが持つ3つの特徴を生かす上で、ネットワークスライシングは欠かせない技術といえる。
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