5Gが創出する新ビジネス

5GのライバルはWi-Fi? 将来的には固定と融合する? 5Gの発展を占うInterop Tokyo Conference 2020(1/2 ページ)

» 2020年06月26日 09時12分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 「5G」の商用サービスが始まったばかりだが、今後、どのような進化を遂げていくのか。「Interop Tokyo 2020」のカンファレンスイベント「Interop Tokyo Conference 2020」において、「5G:標準化の最新動向 〜著者降臨シリーズ(1)〜」と題したセッションが実施。企の代表取締役であるクロサカタツヤ氏と、エリクソン・ジャパンのCTOである藤岡雅宣氏が5Gの標準化に関する最新動向について解説した。

5G 「Interop Tokyo Conference 2020」の5G最新動向セッションに登壇したクロサカ氏(左)と藤岡氏(右)。新型コロナウイルスの影響からイベントはオンラインでの開催となった

5Gは4年半で世界10億人に普及の見込み

 藤岡氏はまず、5Gの全体的な概要について説明。5Gはモバイル通信の第5世代を表しており、高速大容量通信(eMMB)、超低遅延(URLLC)、多数同時接続(mMTC)といった特徴を持つことから、コミュニケーションだけでなく産業界での利用が期待されている。

 日本では2019年にプレ商用サービスを開始し、2020年3月に商用サービスが始まったが、世界的には2018年にサービスが始まっており、現状では42カ国・82の事業者がサービスを開始しているとのこと。エリクソンも40の事業者のネットワーク構築を手掛けており、93の事業者とも契約を結んでおり、その数は急速に伸びているとのことだ。

 またエリクソンでは、4Gの加入者数が10億人に達するまで6年かかったのに対し、5Gでは4年半といっそう急速に普及すると予想しているとのこと。2024年には19億人、2025年には26億人が5Gを利用すると予測し、5Gはかなりのスピードで普及が進むとみているようだ。

5G エリクソンの予測では、世界全体における5Gの加入者数は、4Gより早く4年半で10億人を突破し、2024年には19億人に達するとのこと

 さらに藤岡氏は、5Gの規格の標準化動向についても説明。モバイル通信の標準化を取りまとめているのは国連傘下の「ITU」(International Telecommunication Union)であり、5Gは「IMT-2020」として認定されているモバイル技術を指す。現在われわれが「5G」と呼んでいる技術は、携帯電話の業界団体である「3GPP」(3rd Generation Partnership Project)が仕様を定めたものだ。

5G モバイル通信の国際標準技術の認定をしているのはITUだが、そのうち一般的「5G」と呼ばれている技術規格は3GPPで標準化がなされたものになる

 それゆえIMT-2020として認定されたモバイル技術仕様は、他にもコードレス電話の規格や鉄道向け無線規格など、いくつか存在するとのこと。だが藤岡氏によると、市場支配力があるのはやはり3GPPが標準化した規格になるとのことだ。

 その3GPPで標準化がなされた「リリース15」以降の仕様が5Gとなり、4Gにおける通信方式の「LTE」に相当する5Gの通信方式が「NR(New Radio)」になるという。リリース15の段階では高速大容量通信など基本的な部分の標準化にとどまっているが、現在標準化作業がなされている「リリース16」、さらにその後の「リリース17」「リリース18」で5Gの高度化がなされていくと藤岡氏は説明している。

4Gの「LTE」に相当する5Gの通信方式「NR」とは

 5Gの通信方式であるNRは、高速大容量通信のため広い帯域幅を確保できること、52.6GHzまでの非常に高い周波数帯を用いることを前提に設計されていることが特徴となっている。

5G 3GPPが定める5Gの通信方式が「NR」。4G向けの通信方式となるLTEよりも高い周波数に対応しているのが大きな特徴だ

 日本でも5G向けとしては3.7〜28GHz帯と非常に高い帯域が割り当てられているが、規格上は4Gで利用している低い周波数帯もNRの対象となるそうで、日本でも「8月くらいには使えるようになるのではないか」(藤岡氏)とのこと。ただし低い周波数帯はそもそも空きがないことから、5Gで新しい帯域を割り当てる際は「ミリ波より上(の周波数帯)にしか行きようがない」(藤岡氏)。今後は「日本でいうと39.5〜43.5GHzが、来年度(2021年度)くらいに追加で割り当てられるのではないか」と藤岡氏は話している。

5G NR用として規定されている周波数帯。高い周波数帯だけでなく、4G向けの低い周波数帯も対象となっており、米国などでは既に低い帯域も使われているとのこと

 その高い周波数帯を有効活用するため、多数のアンテナ素子を用いた「Massive MIMO」などのアンテナ技術、そして個々のアンテナから端末に向けて直線的に電波を射出する「ビームフォーミング」などの技術などが用いられている。そのためには端末の位置を追従ししながら電波を射出する「ビームトラッキング」という技術が用いられるのだが、クロサカ氏によるとこの技術は「非常に高度なことをやっている」のだそうだ。

 5Gが開始したばかりの現在は、4Gネットワークの中に5Gの基地局を設置したノンスタンドアロン(NSA)での運用となるが、今後は基地局からコアネットワークまで全てが5G仕様となるスタンドアロン(SA)運用に移行する必要がある。藤岡氏によると、NSAからSAへ移行する際は「LTEで使っていた基地局をNRで使えればスムーズにいく」ことから、LTEの帯域をNRと共用する「ダイナミックスペクトラムシェアリング(DSS)」が有効と説明。加えてデュアルコネクティビティなどの技術で5G用の高い帯域と4G用の低い帯域を組み合わせれば、エリアカバーの拡大にもつながるとしている。

5G DSSによる低い帯域の活用と、複数の電波を束ねて活用するデュアルコネクティビティやキャリアアグリゲーションなどの技術を用いることが、5Gのカバレッジを広げることにもつながってくるという

 またSAに移行すればコアネットワークも5G専用のものとなるが、藤岡氏によると5Gのコアネットワークは、汎用(はんよう)のサーバとソフトウェアで構築する「ネットワーク仮想化」が前提になるとのこと。用途に応じてコアネットワークを仮想的に分割する「ネットワークスライシング」などの技術を用いることで、従来よりも自由度の高いネットワークを実現でき、インターネットとの親和性も高くなることから世界的に関心が高まっているとのことだ。

 もう1つ、SAに移行する際は音声通話をどのような形で実現するかも課題となる。NSAの現在ではLTEのネットワークを使って通話する形が取られているが、SAに移行した初期段階は、音声着信があったときだけLTEに接続する「EPSフォールバック」を用い、5Gでのエリア整備がある程度整った段階で、5Gのネットワーク上で通話をする「VoNR」(Voice over NR)へと移行する形になるのではと藤岡氏は説明。日本では2023〜2024年頃がそのタイミングになるのではないかと話している。

5G 5Gでの音声通話はSAへの移行後、初期段階では着信があったときだけLTEに接続する「EPSフォールバック」、エリア拡大後はNRで音声通話をする「VoNR」を使用する形になるとのこと
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