現時点で5Gを活用した取り組みを進めているのは、あくまで自社のサービスに最新技術を取り入れてより磨きをかけたいという、明確な意志を持つ企業が多いというが、一方で実際に5Gの商用設備を活用した具体的な事例も出てきており、アイデアを検証するPoC(概念実証)の段階を超え、業務にどの程度活用できるかという実践段階へと、5Gのフェーズが変わってきていることは確かなようだ。
とはいえ、KDDIの高橋氏はかねて「5Gを主語で話す人を信じてはいけない」と話しており、KDDIでは法人ビジネスにおいても、あくまで顧客のDXをどのような形で推進できるかを重視して検討を進めている。「5Gはそれを実現するための手段でしかない」と野口氏は話しており、5Gありきで検討を進めるわけではない。
5Gビジネスの開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」での取り組みも、他社のパートナープログラムとは取り組み方が異なっているとのこと。KDDI DIGITAL GATEでは他社のように、パートナーに5G環境を提供して自由にプロダクト開発を進めてプロダクトの数を増やすことを重視するのではなく、アジャイル開発でプロトタイプを作成、1つ1つのプロダクト開発にじっくり取り組むことを重視しているのだそうだ。
それゆえKDDIは大企業向けの大きなプロダクトに取り組むことが多いそうだが、より小さな規模のプロダクトを、KDDIの回線を使って開発する取り組みはどのようにしてカバーしているのか。野口氏によると、そちらはグループ会社のソラコムが押さえる形になるようだ。
ソラコムは2020年7月14日、KDDIの5Gネットワークを活用したMVNO事業を2020年度中に開始することを発表している。野口氏はソラコムの事業に関して「とてもオープンで裾野が広く、すぐ試せるという異なるアプローチを取っている」と話し、5GビジネスにおいてもKDDIとすみ分けができていると説明。一方で、ソラコムでの取り組みからより大きなプロダクトに発展させたいとなったときは、KDDIと連携して対応できることが強みになるとも話している。
コロナ禍でもDXの推進が必要と考える企業は多く、KDDIもNSA環境下の現状にありながら、大規模なプロジェクトを中心とした5Gの活用が積極的に進められているようだ。一方で、テレワーク需要の高まりで前提とする環境が大きく変化するなど、コロナ禍によって企業ニーズに幾つかの変化が出てきているのも確かだろう。
野口氏が話しているように、5Gは万能薬ではなく、企業のDXを実現するための素材の1つにすぎない。エリアの拡大やMECの整備などはもちろんだが、変化するニーズに対して5Gを活用できる方法を見いだすことも求められている。
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