2020年9月の菅政権発足以降、携帯大手に強い圧力がかけられたことで急速に進んだ、携帯電話料金の引き下げ。菅政権発足から現在までの政権、総務省、そして携帯各社の動向を振り返り、菅政権による携帯料金引き下げが何をもたらしたのか、どのような問題を起こしているのかを改めて追ってみよう。
2020年末から2021年初頭にかけ、携帯各社の料金を巡る動きが短期間のうちに慌ただしく変化している。その発端となったのは、2020年9月に病気で退任した安倍晋三氏に代わり、安倍政権下で官房長官を務めていた菅義偉氏が、新たな内閣総理大臣に就任したことに間違いない。
携帯電話料金の引き下げに非常に熱心なことで知られる菅氏が国のトップとなったことで、携帯電話料金引き下げは政権公約となり、かねて菅氏が寡占状態にあるとして批判していた携帯大手3社に対し、非常に強い圧力をかけるようになったのだ。それを象徴したのが2020年11月20日、菅政権下で総務大臣に就任した武田良太氏の記者会見であろう。
そこに至るまでの流れを振り返ると、まず2020年10月27日に、総務省が料金引き下げに向けた取り組みを示す「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公開。それを受ける形で翌2020年10月28日、KDDIとソフトバンクの2社がサブブランド「UQ mobile」「Y!mobile」を通じ、菅総理が日本の料金が「高い」としていた通信量20GBで、月額料金を4000円(税別、以下同)前後と大幅に引き下げたプランを発表した。
これら施策に対し、武田大臣は2020年10月30日の記者会見でいったんは評価する姿勢を見せたが、2020年11月20日の会見でその態度を一変。「多くの利用者が契約しているメインブランドについては、全くこれまで新しいプランは発表されていないんです。これが問題なんです」と発言。サブブランドへの移行には手数料がかかることを問題視し、サブブランドでの料金引き下げが「羊頭狗肉」であると強い言葉を使って批判したのだ。
その大臣発言の影響を強く受けるさなかの2020年12月3日に発表されたのが、NTTドコモの「ahamo」だ。ahamoは複雑な割引が一切なく、月額2980円で20GBの高速データ通信と1回5分間の無料通話が利用できるなど、非常にコストパフォーマンスが高いことから発表当初より大きな評判を呼んだ。
だがahamoは、低コスト化のためドコモショップでの契約やサポートができないオンライン専用プランであるなど、従来のプランとは決定的な違いが存在していた。しかも発表会の内容からは、ahamoをサブブランドとして提供しようとしていたのではないか? という痕跡もいくつか見られたのだが、にもかかわらず、ドコモはahamoをサブブランドではなく、メインブランドの料金プランの1つとして打ち出したことから、不自然さを指摘する声が多く挙がった。
しかしahamo発表直後の2020年12月4日、武田大臣、そして菅総理はともに記者会見で、ahamoに関して「メインブランドで、2018年度から70%を超える値下げを実現した」と絶賛の声を寄せている。そうしたことからドコモは、先の武田大臣の発言を受けて急きょ、ahamoをメインブランドで提供するに至ったのではないか? とみる向きは少なくない。
その後ドコモは、当初ahamoが対象とならなかった「ファミリー割引」のグループ対象にするなど、メインブランドのプランにふさわしい仕組みへと変更を進めているようだ。だがメインブランドのプランでありながら、ドコモショップでのサポートができないという不自然さに変わりはなく、サービス開始後ショップ現場での混乱が起きることなどが現在も懸念されている。
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