こうした状況の中で、中尾氏が中心となって行っている取り組みが紹介された。
まずは「Local 5G-In A Box」というプロジェクト。これは一般のPCでローカル5Gのスタンドアロン(SA)基地局を構成するというもの。コストの低廉化にチャレンジするプロジェクトだ。一般家庭にあるようなPCを使い、汎用(はんよう)CPUの上にソフトウェアの基地局、5Gコア装置を実現することで、一般家庭や大学、オフィスの中でも5Gの利用が進むことを目指している。
一般のPCを使ってはいるが、通信事業者が使っている5Gのプロトコルを実装しており、無線機器をPCに接続することによって5G通信が可能となっている。2台のPC版ソフトウェア基地局を電波暗室に持ち込み、メディアにも実験を披露した。
低廉化とともに、利用者の使い方に合わせたカスタマイズもローカル5Gでは重要になる。大手キャリアはダウンロードを中心に性能を高めているが、ローカル5Gではアップロード方向の通信帯域を広く求められるケースが多く、アップロードの実験も行っている。
キャリアの公衆5Gとローカル5Gを連携させた実証実験も行っている。中尾氏は、これまであまり通信が活用されてこなかった1次産業、特に漁業に着目。人手不足や労働の負担軽減を目指し、養殖業や一般漁業への5G活用に取り組んでいる。
その一例が、広島県江田島市のカキ養殖場で行われた、海中の高精細映像とドローン制御による養殖漁場の遠隔監視、低遅延通信による遠隔制御に関する実証実験だ。カキの育成状況を人力で確認するのは大きな負担となっている。それを解決する方法として水中ドローンを遠隔操作し、水中ドローンの先端に付けたカメラによって、カキの生育状況をモニタリングする実験を行った。
前出のPCベースのソフトウェア基地局を駆使する一方、ドコモの5G技術も連携させて、「非常に近い周波数帯を使うが、互いに干渉せずに、得意なところ、不得意なところをカバーし合うプロジェクト」になっているという。
中尾氏は、「ドコモさんとは十分に議論できていないが」と前置きしつつ、キャリアとの5G設備共用についても言及した。5G基地局のどの部分を共有化するかによってコストが変わってくる。全てキャリアの装置を使い、クラウドサービスのようにキャリアから設備を貸し出してもらう「いわゆるクラウド化によって、設備共用による価格破壊を起こしたい」との考えを語った。
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