ドコモがhome 5Gを投入した背景には、他社への流出が続くことに対しての危機感があったとみられる。井伊氏は、1月のグループインタビューで「FTTH(光回線)を持っているからいいという安心感があって、危機感が足りない」と語っており、海外の事例を引きながら、「アクセスの5G化は、われわれが(電波を)吹いてしまえば十分ビジネスができる」と力説していた。デジタルネイティブの若年層をターゲットにしたahamoと同様、ドコモにとって足りないピースを埋めるためのサービスだったというわけだ。
事実、ドコモはこの分野の後発だ。KDDIは傘下のUQコミュニケーションズの回線を軸にしながらホームルーターを提供。ソフトバンクも「SoftBank Air」が好調だ。SoftBank Airは、Softbank光との合算で契約数が発表されているため、正確な比率は不明だが、各種調査会社の数値を見ると、ホームルーターの中で高いシェアを占めていることが分かる。井伊氏も、グループインタビューで「SoftBank Airには脅威を感じている」と語っていた。
home 5Gのサービス内容を見ると、競合に対して優位性を出せるような設計になっていることが分かる。1つ目は、料金のシンプルさだ。先に述べたように、home 5Gは4950円のワンプライス。他社のような期間限定割引がない分、一時的に割高に見えるかもしれないが、長く使った際の料金はhome 5Gの方が安く、料金が変動しないため金額が分かりやすい。正価で比較すると、auの「ホームルータープラン 5G」は2年契約N適用時で5271円、ソフトバンクは5368円なので、home 5Gの方がリーズナブルに設定されていることが分かる。
2つ目は、無線のスペックだ。発表会に登壇した光ブロードバンド事業推進部の松本夏実氏が「追加料金なく、ドコモのネットワークでおうち時間を楽しんでいただける」と語っていたように、home 5G HR01は、ドコモの持つ主要な周波数帯を一通りカバーしている。これに対し、SoftBank Airは比較的帯域幅の広いTDD方式のBand 41(2.5GHz帯のAXGP)やBnad 42(3.5GHz帯)が中心で、FDD方式はBand 1(2GHz帯)のみ。KDDIのホームルータープラン 5Gも、エリアを広げるためには、1100円の「プラスエリアモード」を契約する必要がある。一部に周波数を絞るのではなく、ドコモのネットワークを丸ごと使える点は、大きな違いといえる。
もう1つの差別化ポイントは、5Gだ。5Gに対応したauの「Speed Wi-Fi HOME 5G L11」とは条件が互角だが、SoftBank Airは、上記のように周波数が限定で、5Gには未対応。あくまで理論値だが、最大の通信速度はドコモのhome 5G HR01が4.2Gbpsなのに対し、auのSpeed Wi-Fi HOME 5G L11は2.7Gbps、SoftBank Airの「Airターミナル4」は962Mbpsにとどまっている。シンプルで分かりやすい料金体系と、ドコモの広いエリア、さらに5Gを含めた通信速度で差別化を図っているというわけだ。
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