店舗を変えるモバイル決済

FeliCaに対応、スマホが決済端末になる「Tap on Mobile」の可能性モバイル決済で店舗改革(1/2 ページ)

» 2021年07月07日 10時46分 公開
[小山安博ITmedia]

 店舗のキャッシュレス化を進めようとする中、課題の1つとして挙げられるのが決済端末の更新だ。これまで、現金のみのキャッシュレジスターだった店舗も、一部の電子マネーなどに対応していたレジの店も、キャッシュレス化を拡大しようとすると、それに応じた決済端末の導入が必要になる。

 特に個店のような小さな店舗の場合、レジ周りが狭く、複数決済に対応したリーダーを増設するようなスペースがない場合もあり、導入に対するハードルが高い。そうした現状に対して、より手軽にキャッシュレス化、特にクレジットカード対応を可能にする「Tap on Mobile」「Tap to Phone」などと呼ばれるソリューションが登場している。

Tap on Mobile スマートフォンをクレジットカードの決済端末として利用するTap on Mobile

 これは、スマートフォンをクレジットカードのリーダーとして扱い、タッチ決済に対応させるというもの。店側は対応スマートフォンさえあれば、手軽にクレジットカードのタッチ決済に対応できる。サービス提供者によって呼び名は多少異なるが、基本的には同じものだ。

 海外だとクレジットカードのタッチ決済対応のみだが、日本カードネットワーク(CARDNET)が3月末まで実証実験を行っていたTap on Mobileは、QUICPay、QUICPay+、nanaco、楽天Edy、WAONといった電子マネーをサポートしている点が特徴。Suicaというビッグプレイヤーは非対応だが、それでも国内の多くのキャッシュレスユーザーをカバーできる。

 スマートフォンを決済端末として使うことには、どんな可能性があるのだろうか。

スマホが決済端末になるのでコストを削減できる

 国内では、Tap on Mobileのサービスが既に提供されている。JCBやGMOフィナンシャルゲート(GMO-FG)はマレーシアSoft SpaceのTap on Mobileを採用。JCBはまだ実証段階だが、GMO-FGは「Fasstap」サービスとして本格提供を行っている。

 続いて実証実験という形で2021年3月末まで実店舗でのサービス提供を行っていたのが日本カードネットワークだ。同社ではIBMやTFペイメントサービス(TFPS)と協業し、独自のTap on Mobileとして提供。国内のFeliCaによるタッチ決済に対応している点が特徴だ。

 使い方は、アプリをスマートフォンにインストールし、TFPSのクラウド型決済プラットフォームの「Thincacloud」に接続してスマホを決済の端末として利用する。決済時は、支払金額などを入力してスマートフォンのNFC読取り部を客側に提示。客側は自身のスマートフォンをかざすだけで決済が行われる。

 最大のメリットは、スマートフォンだけで決済が行えること。決済端末のスペースも不要で、テーブルでの決済も行えるハンディタイプの決済端末として利用できる。

 もともとCARDNETでは、2年ほど前からスマートフォンの決済端末化を検討してきたという。当時はまだ、クレジットカードのタッチ決済は海外でも一部を除いて主流というほどではなく、長期の検討課題として進めてきたそうだ。同社の加盟店にも使ってもらい、実用化に向けた課題などを洗い出していこうとしてきた中、Visaがタッチ決済という形で非接触決済に注力し始め、さらにコロナ禍の状況で非接触決済への期待が高まっていたことが、実用化の後押しをしたという。

 店舗が決済の非接触化を進めようとすると、どうしても決済端末の入れ替えが発生する。それにはコストがかかる点が課題となっていた。そうしたコスト課題に関して、手持ちのスマートフォンを利用できるTap on Mobileには大きなメリットがある。実際、Visaなどが海外で提供しているTap on Mobile(Tap to Phone)は、主に新興国向けに提供されており、決済端末に対するコストの削減を担っている。

 問題は、既存の仕組みだとNFCを使ったクレジットカードのタッチ決済にしか対応していないこと。普及が始まっているとはいえ、クレジットカードのみのサポートだと、日本の利用者が満足してもらえないとCARDNET側は判断した。

 そこでFeliCaへの対応を目指して各社と協力。Edy、QUICPayなどに対応した。Suicaに関しては、Suica検定が必要で現時点ではカバーできなかったが、プリペイドの電子マネーからポストペイドのQUICPayまでをサポートする形でTap on Mobileを実現した。

セキュリティに配慮して、指定した場所だけで決済

 常時持ち歩くスマートフォンがレジとなるため、セキュリティのために事前に指定した場所だけで決済できるようなGPS連携機能を搭載。ただし、CARDNET側も「根本的な課題がある」と指摘。一般的な店舗のように場所が固定されていればともかく、移動販売や宅配での利用が難しくなってしまうからだ。実際、実証実験ではそうした店舗形態とのシナジーがあると判断しており、そうしたギャップも課題だという。

 もう1つの課題が、店舗の形態によっては決済のテンポが合わないという点だ。例えば食事のテークアウト店でレジに金額を入力して、客が決済をしている間にレジ店員が袋詰めする、という作業をしていた店がTap on Mobileを導入すると、スマートフォンを店員が手に持って客のスマートフォンとタッチするまで確認する必要が出てしまう。

 こうした課題に関しては実証実験段階では解決できず、「業種業態、店の規模などで、Tap on Mobileが合う、合わないという店がある」と同社では話している。

 では、「合う店」とはどんな店か。基本的にレジに長蛇の列が並ぶような店は向かないだろう。テーブル会計ができる飲食店は向いている。ハンディーのメリットを使って、店員側が客の方に行って決済する場合に一番便利だ。

 使い方によっては、並んでいる人の中で、対応電子マネーで支払いたい人のところに店員が行って支払いを済ませれば、レジ待ちの列をさばくこともできる。ただし、現状ではPOSレジとの連携ができていない点は課題だとしている。そのため、やはり小規模店との組み合わせが現実的だろう。

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