こうした差を、キャリアが意図的に設けていたとすれば、他社への乗り換えを妨げていたことになりかねず、問題になる。SIMロックほどの直接的な制約ではないものの、エリアが狭くなるのであれば、端末の買い替えを検討する人も増えるだろう。少なくとも、端末そのままで他キャリアに移りたい人を思いとどまらせる効果はありそうだ。総務省の有識者会議でも、当初は意図的な対応なのかどうかが焦点になっていた。
ところが、キャリア側はこうした見方を否定。他社周波数への対応は、任意になっていることが明らかになった。一例を挙げると、ドコモの場合、自社の運用する周波数への対応は「必須」「推奨」「任意」の3段階に分け、メーカーに納入条件として明示しているのに対し、他社の周波数に関する規定は特に設けていないという。上記のように、AQUOS R6は他社の周波数に対応していることも踏まえると、この主張には説得力がある。
米国の制裁もあり、2020年以降はキャリア版の新モデルが発売されていないが、Huaweiの端末も同様に他社の周波数に対応していた。プラチナバンドはもちろんのこと、海外版が非対応だったau(UQコミュニケーションズ)やソフトバンク(Wireless City Planning)しか運用していないBand 41(2.5GHz帯)もカバーしているなど、ドコモ版というより、むしろ日本版と呼べる対応状況だ。あくまで状況証拠だが、こうした点からも他社の周波数対応にキャリア側が特段の制限を設けていないことが分かる。
一方で、キャリアに端末を納入する複数のメーカー関係者も、「特に制限は受けていない」と話す。納入先ではないキャリアの周波数に対応しない理由の1つは、コストだという。対応周波数を増やせば、アンテナやフィルターなどのハードウェアを変更しなければならないこともある。同一のハードウェアを複数のキャリアに納入している場合でも、「技適」などの各種試験、認証があり、ここでも検証のための手間やコストがかかる。キャリア側も、他社周波数への対応を義務化した場合、コストの上昇を懸念している。
納入台数の規模が大きければ、1台あたりにかかるコストは抑えられる可能性はあるものの、直接の販売先がキャリアになるメーカーが、あえてその手間をかけてまで「任意」の周波数の認証を通すかどうかは、対応は分かれるだろう。他社の周波数に対応することが少しでも販売を拡大するための“売り”になると判断すれば対応することもあるが、そうでなければやらないのが自然だ。メーカーごとに状況が異なるのは、このような事情がある。
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