総務省は3月14日、電気通信市場検証会議に付属する会議体「競争ルールの検証に関するワーキンググループ(WG)」の第26回会合を開催した。今後、このワーキンググループでは2019年10月に一部、2020年4月に全部が施行された改正電気通信事業法と関連する総務省令/ガイドラインの効果検証と必要な対応の検討を行いつつ、新たな論点として携帯電話端末における対応周波数帯(Band)の「制限」に関する検討を行うという。
携帯電話の通信は電波を使って行われる。電波は“有限”の資源であるため、一部の免許不要帯域(アンライセンスドバンド)を除いて、それぞれの国/地域の規制当局(日本の場合は総務省)が利用を希望する事業者を審査した上で利用帯域を割り当てる(免許を付与する)仕組みを取っている。
2022年3月現在、日本では携帯電話での通信向けに以下のBandが用意され、以下の通信事業者に割り当てられている(「KDDI」は沖縄セルラー電話を含む)。
【LTE用帯域】
【5G NR用帯域】
携帯電話が通信を行うには、大前提として上記のBandに対応する無線機器(モデムやアンテナ)を搭載する必要がある。しかし、対応する通信規格やBandを多くすると、その分だけ設計/開発、検証や製造にかかるコストが大きくなる。また、対応Bandを多くすると、その分だけアンテナの搭載数を増やしたり、搭載するアンテナを大型化したりする必要が生じる。
そのため、端末メーカーは一般的に出荷先(販売する国/地域やキャリア)に合わせて複数のモデルを用意している。Appleの「iPhone SE(第3世代)」には国/地域別に5つのモデル(型番)が存在しており、日本では専用の「A2782」というモデルを販売している。iPhone 13シリーズも国/地域別に5つのモデルがあり、日本ではカナダ、グアム、メキシコ、プエルトリコ、サウジアラビア、米領ヴァージン諸島と共通のモデルが販売されている。
一部のモデルを除き複数の国/地域で販売されることもあって、iPhoneは対応するBandが比較的多い。iPhone SE(第3世代)における日本専用モデル、iPhone 12/13シリーズにおける米国専用モデル、iPhone XS/XR以降の中国向けモデルのように特定の国/地域で販売されるモデルについても、世界中の主要なBandは広くカバーしている。「世界のいろいろな場所で使うためのスマートフォン」という観点では、iPhoneは理想的な1台といえる。
一方で、日本で販売されるAndroidスマホ、とりわけ国内キャリアに納入されるモデルは他キャリアで使われている一部のBandに対応しないことが多い。
2021年10月以降に発売された端末は原則としてSIMロックを禁止されているため、理論上はSIMカードを入れ替えるだけでキャリアを乗り換えられるようになった。しかし、他キャリアで利用されているBandの一部、または全部に対応しない端末が存在しており、他社のSIMカードを入れると以下の事象が発生する可能性がある。
この問題は、競争ルールの検証に関するWGでも指摘があった。場合によってはSIMロックに近い囲い込み(キャリアの乗り換え抑止)効果を発揮するからだ。
総務省の「電気通信消費者相談センター」にも、対応Bandの違いによる事実上の拘束効果についての相談や指摘が複数寄せられているようだ。
今回の会合では、総務省が主要なメーカーの端末におけるBand対応状況をまとめた資料を提示している。同省としては、SIMロックの原則禁止が実現したので次は対応Bandの問題にメスを入れようと考えているようだ。
ただし、端末の対応Bandを決定する権利は、それを設計/開発、製造する端末メーカーにある。国内外で必要な認証も、端末メーカーが取得している。そのため、今までの問題とは異なり端末メーカーの意向(考え方)が大きなポイントとなる。
今後、競争ルールの検証に関するWGの会合は以下のスケジュールで進められる予定だ。
どのように議論が進むのか、注目したい。
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