現在の健康保険制度では、保険者によって「被保険者証」(普段「健康保険証」と呼んでいるもの)の様式に差異があります。医療扶助(※3)を受けて生活している個人(またはその家族)については、被保険者証の代わり(または被保険者証との併用のため)に「医療券」が支給されます。
あまり趣味のよい話ではありませんが、現行の健康保険証/医療券には持っている券面によって持参している個人(あるいはその家族)の属性がある程度分かってしまうリスクがあります。また、これらの券面は本人確認機能を備えておらず、別人の被保険者証/医療券を使って診療を受けてしまうという問題を排除しきれません。
(※3)生活保護(公的扶助)制度の1つで、医療機関での治療や薬剤にかかる費用を補助します
健康保険から若干遅れますが、2024年3月から医療扶助の資格確認もオンラインで行うようになる予定です。基本的なシステムは健康保険のオンライン資格確認制度から流用しており、被扶助者(患者)の資格確認も原則としてマイナンバーカードを使って実施されるようになります。
マイナンバーカードは全国共通の様式で、持つ人の属性によるデザイン差もありません。よって、医療扶助の資格確認をマイナンバーカードで行うようになれば、券面から個人の属性(や利用する制度)を把握されなくなるというメリットがあります。
マイナ保険証とマイナンバーカードを使った医療扶助資格確認では、今の健康保険証/医療券では困難なカードの真贋判定と本人確認もやりやすくなります。本人以外の誰かが保険証/医療券を使えてしまうという問題もおおむね解決します。
「だったら、今の健康保険証や医療券に顔写真を追加すれば?」と考える人もいるかもしれません。しかし、単に顔写真を付けるだけでは、容易に偽造されてしまう可能性があります。偽造を困難なものとするには、現行の運転免許証や旅券(パスポート)と同様にICチップを搭載し、券面の写真や免許内容をデータとして保存するなどの対策も欠かせません。
その点、マイナンバーカードには既に写真があり、その写真が本物かどうか疑わしい場合も、ICチップのデータと照合することで真贋判定を行えます。ゼロからこのようなカードやシステムを構築するよりも、既にあるマイナンバーカードと関連システムを流用して本人確認機能を強化した方が合理的ではあります。
こういった背景を踏まえると、意味のないようにも思えた「暗証番号のないマイナンバーカード」にも一定のメリットはあることが分かります。ただし、このカードが本来持つ電子証明書を活用した各種機能の多くを利用できないため、「暗証番号を覚えられない境遇にある人」「高齢者」や「重度の障害者」など、発行する対象は絞り込むべきだと考えます。
先述の通り、マイナ保険証では「他人の情報が表示される」「資格情報なし」となってしまう問題が発生しています。しかし、「マイナポータル」から自分の健康保険が正しくひも付けられているか確かめられます。
最新の保険証の情報を調べたい場合は、スマホアプリまたはPCのWebブラウザでマイナポータルにログインした後、「注目の情報」にある「最新の健康保険証情報の確認」をタップ(クリック)してください。現時点でひも付けられている情報を確認できます。保険証の情報に誤りがあったら、すぐに現在加入している保険者か、マイナンバー総合フリーダイヤルに問い合わせてください。
なお、マイナポータルでは過去の健康保険証情報も調べられます。ログインした後に以下の手順で確認してください。
マイナポータルにアクセスする環境を持っていない(利用できない)場合は、市町村/特別区の窓口に相談してみてください。
……と、書いていて気が付きましたが、「暗証番号のないマイナンバーカード」ではどうやって健康保険/医療扶助の資格のひも付け確認を行うのでしょうか。発行を開始する予定の11月までに、何らかの方針を示してほしいです。
就職/転職/退職によって健康保険の保険者が切り替わる場合は、できるだけ速やかに必要な手続きを行ってください。そうしないと「資格なし」状態での診療となり、医療機関で治療費などの全額負担を求められるかもしれません。
通常の健康保険証の場合、保険の切り替えが完了していても、新しい保険証が手元にないと資格なしとして扱われることがあります。その点、マイナ保険証はシステム上での登録(切り替え)が完了すれば新しい保険証として利用可能なので、保険の種類が切り替わる場合でも、保険の実質的な空白期間を極小化できます。
マイナ保険証にまつわる問題をよくよく見ていくと、マイナンバーカードやマイナンバー制度の瑕疵(かし)ではなく、連携するためのデータ登録に関するミスがほとんどです。
先述の通り、マイナンバーカードを持っていれば、データの誤りを自分の手でいち早く見つけられます。せっかく生まれた仕組みは、より良くなるように前向きに見守ることも大切でないかと考えています。
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