通信品質対策を本格化したドコモだが、他社に後れを取ってしまったのも事実だ。ネットワーク品質の改善には地道なチューニングや時間のかかる基地局増設も必要となるだけに、全国レベルでの対応には年内いっぱいまで時間がかかる。発表された対策は、いずれも王道といえるものだが、他社と比べ、後手に回っている印象はぬぐえなかった。先に述べたように、トラフィックがキャパシティーを上回ってしまってから、ようやく重い腰を上げているようにも見える。
例えば、通信品質が劣化している場所を特定する取り組みは、ソフトバンクが対策の鍵として挙げていたものだ。同社はAgoopがアプリ経由で取得したビッグデータを分析し、メッシュに区切ったエリアごとに通信品質を改善している。実データを分析し、素早く対策することで劣化を気付きにくくするという取り組みといえる。ドコモのそれは機械学習による予測が含まれるため、その点では品質劣化を先回りしている格好だが、実測値ではないため、見逃しが発生しないか不安が残る。
実データとして取得しているのは、決してメジャーとはいえないドコモスピードテストアプリのみ。ユーザーの多くが使っているようなアプリではないため、データに抜けが出てしまう心配がある。SNSの分析でそれを補うことができればいいが、細かな場所まで投稿している例は限られており、どこまで細やかな対応ができるのかは未知数だ。実際、大都市圏以外で通信品質が低下している理由を尋ねられた際に、小林氏は「具体的に把握していないのでお答えできない」と回答している。改善すべきエリアを特定できていなければ、対策の取りようがない。
SNSの分析によって導き出された回答が、鉄道動線だったことにも肩透かしを食らった。ユーザーがモバイル通信を利用する環境を考えれば、鉄道沿線は当然のように対策を済ませているべき場所だからだ。事実、KDDIは5Gのサービスイン当初から、鉄道沿線を含めた生活動線のエリア化を重視することを表明していた。実際、KDDIやソフトバンクの回線を使って山手線などの主要路線に乗っていると分かるが、現時点では、4Gにつながっている時間の方が少ないほどだ。厳しい見方をすれば、ドコモの通信品質対策は他社より2、3年遅れているといえる。
ドコモは当初、5G専用に割り当てられた3.7GHz帯(n78)や4.5GHz帯(n79)を使ってエリアを徐々に拡大していく方針だったため、鉄道沿線のように、広い範囲を5Gでカバーしきれないのは理解できる。ただ、結果として駅や沿線上に5Gのセルエッジができ、通信のさまたげになってしまうケースもあった。また、専用周波数を使うのはあくまで当初の方針。ドコモが2022年3月に4Gからの周波数転用を開始してから、既に1年半ほどの時間が経過しており、この間に鉄道沿線の対策が進まなかった点には疑問が残った。
通信品質の改善を図る観点では、部門間連携ももっと取る必要もあるのではないか。先に挙げた、通信品質の劣化を検知するためのアプリがその1つ。ドコモには、ドコモスピードテスト以外にもさまざまなアプリがあり、一部は端末にプリインストールされている。同意の取り方を工夫する必要があるが、こうしたアプリを活用する手もあるはずだ。ソフトバンクが使うAgoopのデータのように、他社の通信状況までは取得できないものの、自社エリアの改善には活用できる。
さらに、ソフトバンクは新料金プランの「ペイトク」導入時に、無制限プランに200GBの制限を加えた。200GB制限のプランを無制限と称することに違和感は覚えたものの、0.3%のユーザーが全体のトラフィックの6%を占めている実態を知ると、納得感も出てくる。ネットワークを守るために、やむなく入れた制限というわけだ。対するドコモは、「データコントロールはirumoで入れている」一方で、「eximo」は容量制限なく利用できる。小容量のirumoを抑えても、効果は限定的。トラフィックとキャパシティーのバランスが崩れているのであれば、eximoこそより厳しいコントロールをした方がいいはずだ。
年内には2000カ所や鉄道動線の対策を終える予定のドコモだが、上記のような疑問は解消されていない。実際、9月末で2000カ所のうち70%は対策が完了している一方で、通信品質に対する不満は少なからず聞こえてくる。年内で対策を終了させるわけではなく、継続的に改善は図っていく方針だというが、ドコモはエリアや通信品質の高さを売りにしていただけに、あまりに対応が長引いてしまうと、ユーザー離れにつながる懸念もある。他社との差を埋めるには、さらなる対策の強化やスピードアップも必要になりそうだ。
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