SIM単体契約のキャッシュバックやポイント還元は以前から実施されており、2023年12月のガイドライン改正で大きく緩和されたわけでもない。では、なぜ突然解約率の数値に反映されるようになったのか。理由の1つには、端末単体販売の割引に制限がかかったことありそうだ。ガイドライン改正以前は、端末単体への割引がほぼ無制限に行われていた。比較的高額な端末を売却すれば、SIM単体契約へのキャッシュバックやポイント還元以上の“利益”を得られる。
ガイドライン改正以前は、あえて利益供与の上限が2万円に制限されたSIM単体契約を選ぶ必要性が薄かったといえる。一方で、2023年12月の改正で端末単体への割引も含めて制限は4万円になり、結果として10万円を超えるようなハイエンドモデルにはある程度の価格がつくようになった。現状では、残価設定型のアップグレードプログラムを組み合わせて実質価格を抑えるのが主流だ。この場合、端末を返却せずに売却するとかえって支払いが増えてしまう恐れもある。相対的に、SIM単体契約のお得度が増したというわけだ。
また、ドコモがirumoのSIM単体契約にdポイント還元を行っているように、獲得競争に参戦するプレイヤーの数も増えている。楽天モバイルも、紹介キャンペーンでMNPをする側に1万3000ポイントを付与。紹介したユーザーにも7000ポイントを与えている。もともと、家族を招待することが多かったキャンペーンだが、ここに「最強家族プログラム」が加わり、契約者数の獲得に拍車が掛かった。こうした動きも、SIM単体契約の流動性を高める要因の1つといえそうだ。
還元をやめれば済む話だが、「電気通信事業法の中ではSIM単体の契約のインセンティブは2万円が上限で、構造的には(キャッシュバックが)できてしまう」(宮川氏)。「本当はみんなでインセンティブを止めるのが一番いいが、どこか1社が最初に止めるのは勇気がいる」(同)。競争上、1社だけがキャッシュバックやポイント還元をやめると、そこが草刈り場になってしまう恐れがある。
とはいえ、「マルチブランド解約率の1.11%が大問題かというわけではなく、SIM単体の流動性を見ながらやっていく」(高橋氏)という見方もある。解約率を押し上げたといっても、コンマ数%の話。総額も2万円までに規制されているため、獲得コストが大幅に上がるわけでもない。むしろ、端末を最大で4万円値引く方が一時的にはコストは大きくなる。その意味では、各社とも様子見をしている段階といえる。
逆に、この数値がさらに上がってくれば、ガイドラインの改正でSIMのみ契約の規制強化を求める声が上がる可能性もある。スマホの割引は通信量の増加によるARPU(1ユーザーあたりの平均収入)向上の効果や、より効率的な通信方式への移行を促す効果もあるが、SIM単体契約ではそれも見込みづらい。現金やそれに近いポイントでユーザーを獲得するのは、不毛な戦いのようにも思える。その意味で、解約率の動向は今後も注視ておきたい。
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