マイルがたまる格安SIM「JALモバイル」誕生の舞台裏 IIJとタッグを組んだ理由は?MVNOに聞く(1/3 ページ)

» 2025年06月04日 11時43分 公開
[石野純也ITmedia]

 契約している料金プランに応じてマイルがたまり、約1年ためたマイルを使って旅行に出掛ける――そんな使い方ができるサービスが「JALモバイル」だ。同サービスは、日本航空(JAL)とMVNO最大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)がタッグを組んで展開している。料金プランはIIJmioのものをそのまま選択でき、既存の回線とは家族割引も組める。

JALモバイル JALのマイルがたまる通信サービス「JALモバイル」

 一方で、マイルの取得や、年1回、通常7000マイルかかる「どこかにマイル」を1500マイルで利用できるのは、JALモバイルならではの特典。普段から“マイラー”をしている人には、お得感のあるサービスに仕上がっている。

 面白いのは、このサービスはJALがMVNOになったわけではなく、IIJもMVNEとして関わっていない。建て付けとしては、既存のIIJmioの上に、JALのサービスを乗せている形だ。IIJmioは、いわばホワイトレーベル的な存在として、存在感をあえて消しているように見える。通信事業者側から見たときの位置付けとしては、エックスモバイルが著名人などと展開しているサービスや、KDDI Digital Lifeのpovoが拡大しているコラボレーションに近い。

 では、JALとIIJはなぜこのような協力関係に至ったのか。JALのマイレージ・ライフスタイル事業本部 マイレージ事業部 事業戦略グループで主任を務める坂本まりん氏と、IIJのモバイルサービス事業本部 MVNO事業部 コンシューマサービス部 副部長を務める姜鍾勲(カン・ジョンフン)氏の2人に、サービス誕生のいきさつや両社の狙いを聞いた。

モバイルとマイルをためることは相性がいい

JALモバイル JALの坂本まりん氏

―― このサービスですが、どちらがきっかけになって実現したのでしょうか。

坂本氏 弊社からIIJさんにお声がけして実現しました。弊社では、JALマイルという動きを進めています。日常生活の中でマイルをためやすく、使いやすくする取り組みの一環として、日常でためられてうれしいサービスの1つにモバイルがありました。通信費は一人一人の固定費になっているので、モバイルとマイルをためることは相性がいいと思っています。それもあって、通信事業界の方々にお声がけしていきました。

―― 複数の会社を検討したと思いますが、IIJに決まった理由はありますか。

坂本氏 大きく2つの方向がありました。価格がちゃんと競争力があることと、ラインアップが充実していることです。IIJさんの料金プランは、ラインアップが充実していて、データ通信のみという形でも提供ができます。JMB(JALマイレージバンク)会員は数がかなり多く、年代や地域の幅も広いので、いろいろなライフスタイルの方がいます。それぞれに合ったものを見つけていただけるよう、この形になりました。

JALモバイル 料金プラン自体は、IIJmioの「ギガプラン」と変わらない。これに、マイルの特典が付く

―― というお話が来て、IIJとしてはどうでしたか。

姜氏 営業から話が来て、最初は驚きました。そんなに甘い話があるのかと(笑)。「それ、本当に大丈夫なの?」と逆に心配したぐらいですが、すぐに細かく話を聞いてみたいとなりました。営業だとどうしても優先順位はありますが、このお話はとてもありがたく、聞いた瞬間、JALの会員様にも喜んでいただけると思えました。

―― 通信費は毎月かかってくるものなので、マイルはためやすくなりそうです。

坂本氏 通信サービスは今や欠かせないもので、1人1回線のみならず、1人2回線以上の契約もあります。月々の固定費という観点では、光回線の「JAL光」や電気サービスの「JALでんき」もありますが、これらはそれぞれの家庭に1つなのに対し、モバイルは1人につき1回線以上になります。マイルは個人にたまっていくものなので、ここも相性がいいですね。JMBの特典を還元しやすいサービスだと考えています。

―― なるほど。モバイルだと個人にひも付きますからね。一方で、たまるだけでなく、使うところにもお得感があります。

坂本氏 まさに今回JALモバイルを始めるにあたって、通信に入り込むために重視したところです。通信は各社の競争が激しい分野です。弊社に一番期待いただけるのは何なのかというと、マイルをためているお客さまは結果として特典航空券に変えたいというご要望があります。今回のサービスはマイルがたまるのはもちろんですが、目的としている特典航空券にも手が届きやすくなります。たまってすぐに使えるというのが特徴になります。

「どこかにマイル」を特典に選んだ理由 JALを長く使ってもらうことが根底に

―― どこかにマイルにしたのはなぜでしょうか。

坂本氏 使いやすくするというのは、JALマイルライフの構想でした。そのためにJAL光などをやってきましたが、サービスリリース時に、使うところまで1つ1つ想定していたかというと、まだまだやれることの余地がありました。どこかにマイルはいろいろなところに行けて魅力的ですが、7000マイルかかってしまいます。一度使っていただいた方には、そのゲーム性も含めてお得さなどを分かっていただけます。そのためる、使うのサイクルをもっと認知してもらうために、必要マイル数を減額しました。

 光や電気だと、先ほどお話しした世帯と個人の関係があり、お父さんだけ1500マイルで、他の家族が7000マイルというような形になってしまいます。JALモバイルなら、それぞれのお得意様番号に特典が付与されるので、使いやすくなります。

JALモバイル 通常は往復7000マイルのところ、JALモバイルなら1500マイルで手に入る「どこかにマイル」。毎月25マイル以上を獲得できるプランを契約し、シークレットマイルを1年間獲得すると、1年で合計1500マイルを獲得できる

―― 料金が安い割には、マイルがたまりますよね。普通だと高い料金プランだけとなりそうですが、JALモバイルの場合、2GBプランでも1年で特典航空券になります。

坂本氏 パートナー選定で非常に重視したところです。月いくらぐらいで、どのぐらいのマイルが欲しいのかというバランスを考えました。マイル数が多くなるからといって、通信料金が今より高くなってしまうとご契約を見込めません。市場の中でも競争力が高い価格で提供し、なおかつこの価格でこのマイルなら消費者視点でもうれしいと思っていただけるようにしました。

―― 個人的にはお金を払ってでもいっぱいマイルが欲しいのですが(笑)。それはさておき、このサービスは通信自体でもうけようというものではないのでしょうか。

坂本氏 正直なところ、すごくもうかるかというとその観点でやっているサービスではありません。JMB会員のコミュニケーションとして、弊社をより長く使っていただけることが勝ちだと考えています。

―― サービス形態として、JAL自身がMVNOになるという手もあったと思いますが、その目的だとそこまで踏み込む必要はなかったのでしょうか。

坂本氏 弊社として利益が得られるからというのが判断基準ではなく、価値を還元するところが守られればよかったからです。MVNOとして参入すると、工数が増え、スピード感も落ちてしまいます。

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