―― 発熱対策で工夫したことはありますか。あわせて、AQUOS R9からサイズを維持しつつも、ベイパーチャンバーを搭載する上で苦労したことを教えてください。
鎌田氏 AQUOS R9で初めてベイパーチャンバーを搭載したところ、「端末が熱くなりにくくなった」「性能が長持ちするようになった」といったご好評の声をいただきました。そこで、私たちはこれをさらに進化させる必要があると考え、さまざまな検討を行う中で、今回は熱伝導性の高い銅ブロックをベイパーチャンバーに圧着させ、3D構造を採用することで、スマートフォンの最大の熱源ですとなるCPUの熱をさらに素早く拡散できる構造にたどり着きました。
この銅プレートは単に板を貼ったわけではありません。CPUの熱をいかに早く伝えることができるか、さまざまな形状をシミュレーションしました。単に形状を立体にするだけでなく、銅を圧着させたことで効果を上げています。
その結果、表面温度を最大約2度抑制し、パフォーマンスの持続時間も最大約2倍に向上させることに成功しました。25度の環境下など、条件はありますが、このような効果が確認できたことが今回の大きな成果です。
―― AQUOS R10のベイパーチャンバーはAQUOS R9と同じものでしょうか。
鎌田氏 はい。基本的に同じものです。サイズ変更や形状変更も検討しましたが、一番効果が出るのがこの構造であると判断しました。もちろん、このベイパーチャンバーだけでなく、他の放熱対策と合わせて効果を出しています。
―― ベンダーのものをそのまま採用したのでしょうか。それともシャープが独自にカスタマイズしたのでしょうか。
鎌田氏 このベイパーチャンバーは、市販のものをそのまま使っているわけではなく、シャープ独自のカスタム品です。ベイパーチャンバーを扱っているベンダーはもちろんいますが、基板設計と形状は非常に密接に関わるため、既製品の板をただ貼るだけでは十分な効果が得られないか、そもそもサイズが合わないといった問題が発生します。部品同士がぶつかることにもなりかねません。そのため、シャープがベンダーと密に連絡を取り、相談しながら設計しています。面積の拡大により効果が得られるなら、サイズの変更を検討します。
―― 薄い板のような形状ですか?
鎌田氏 はい。非常に薄い板状のものです。AQUOS R10のベイパーチャンバーの厚みは0.4mmで、ベイパーチャンバーに圧着している銅ブロックの厚みは0.3mmです。例えるなら、0.76mmのカード型Suicaよりも薄いです。内部は毛細のような管を利用して水を伝える構造で、その水を気化して循環させる仕組みになっています。この非常に薄い構造の中に、効率的な熱移動の仕組みが詰まっているのです。
―― 「生で見るより生々しい」という製品コンセプトにおいて、ピーク輝度3000ニトという数値はどのような狙いで設定したのでしょうか。
関氏 ディスプレイの輝度に関しては、近年、他社も含めて急速に向上していますよね。シャープでも、毎年登場する新しいデバイスに合わせて、最新のディスプレイを採用するようにしています。メリットとしては、屋外の明るい場所でも画面がより見やすくなること、HDR(ハイダイナミックレンジ)コンテンツを再生する際に、ピーク輝度を生かした鮮やかでクリアな映像表現が可能になることです。
―― そもそも、ピーク輝度とはどのような状態を指すのでしょうか。
関氏 有機EL(OLED)パネルは、その特性上、画面に表示されている内容によって輝度が変化します。例えば、画面全体を白く表示したときと、背景が真っ黒で小さな点だけを表示したときで、実は輝度が異なります。画面の点灯面積が狭くなるほど輝度が向上するようになっています。AQUOS R10では通常の全画面表示時で1500ニトの輝度が出ますが、点灯している面積が狭くなると、より高輝度になり、ピーク輝度としては3000ニトを達成しています。参考までにAQUOS R9のピーク輝度は2000ニトでした。
実際に表示される映像というのは、通常、画面全体の10%から高くても50%程度の領域に集中しています。そのため、R9からR10になったことで、この輝度の「振れ幅」を生かし、より鮮明な映像を楽しんでいただけるようになっています。
AQUOS R10のディスプレイの輝度は表示しているコンテンツや画面の状態に応じて、1500ニトから3000ニトの間で変化します。HDRコンテンツを表示しているときに最大3000ニトの輝度となります。ただし、画面全体を白色で表示した「全白(ぜんしろ)」の状態では、3000ニトにはなりません。この場合の輝度は1500ニトです。ただ、今の説明では、全白という言葉を使いましたが、メーカーによっては消費電力を抑えたまま明るさをアップする「ハイブライトネスモード」と表現する場合もあります。
―― バッテリーの持ち具合への影響はありますか?
関氏 するかしないかでいえば、あります。ただ、ディスプレイの表示内容によって輝度が変化するため、一概に「影響が大きい」とはいえません。画面の明るさが上がるときは電力消費も増えますが、そうでないときは消費が抑えられます。そのため、ピーク輝度が3000ニトに達するからといって、「極端にバッテリー持ちが悪くなるという顕著な影響は出にくい」と考えています。
―― 発熱への影響はいかがでしょう。
関氏 単純に3000ニトという高輝度を採用すると、発熱の問題が必ず発生します。今回、AQUOS R10で3000ニトのピーク輝度を実現できたのは、まさに「進化した放熱機構と一体で設計」しているからです。強力な放熱対策が講じられているからこそ、この高輝度ディスプレイを実現できています。
―― バーチャルHDR機能も対応していますが、HDRコンテンツ以外での実用的なメリットは何かありますか?
関氏 バーチャルHDRは、正直なところ、動画コンテンツを主なターゲットとしています。そのため、それ以外の用途では、その効果を発揮できません。
これまでのバーチャルHDRでは、鮮やかさや明るさを強調しようとすると、画面全体が明るくなってしまい、表現としては微妙なところがありました。以前は、全体を明るくする映像処理でしたが、AQUOS R10では、周囲の明るさを抑える処理が追加されました。これにより、周りの明るさを変えずに、強調したい部分だけを明るくするという、より賢く自然な表現ができるようになっています。
本来のHDR(ハイダイナミックレンジ)の定義からすると、以前の処理では全体を「やりすぎ」てしまっていた部分があったかもしれません。しかし、R10では、必要な部分だけを強調することで、より適切にハイダイナミックレンジの表現を実現しています。
―― どの映像コンテンツがバーチャルHDR機能に対応していますか?
鎌田氏 具体的なサービス名は公開していませんが、YouTubeなど一般的な動画コンテンツには対応しています。対応アプリはAQUOS R9から2.5倍に増えています。
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