2025年に世界各国で登場したスマートフォンの大半は「物理SIMカード+eSIM」という仕様になっている。しかし、世界最大のスマートフォン市場である中国国内で販売されているスマートフォンはeSIMに対応していない。iPhone 17はもちろんのこと、ここ数年のiPhoneもデュアルSIMカード仕様となっている。唯一例外になるはずだったiPhone Airは、2025年9月中旬時点で、中国での発売時期は未定になっている。
もちろん中国にもeSIMはある。センサーなどのIoT機器に多く採用されている他、コンシューマー向けにはApple WatchなどスマートウォッチにもeSIM搭載モデルが販売されている。しかし中国の4キャリアはスマートフォン向けのeSIMサービスを提供していない。
これは中国政府が市場を規制しているためだ。中国ではSIMカード契約(プリペイド方式が大半)には身分証明書を使った実名登録が必須となっている。eSIMはオンラインでの契約や即時発行ができるため、従来の物理SIMに比べて本人認証や契約管理、データ保護の厳格な運用が難しい点が課題となる。また、オンラインで容易に切り替え・発行できるeSIMは、政府当局による制御等が従来より行き届きにくくなる。そのためeSIMの導入には慎重な姿勢を見せている。
また中国政府はこれまで、MVNOキャリアの導入やMNP(携帯番号ポータビリティ)の試験運用、そして2022年には第四のキャリアとしてChina Broadnetを参入させるなど、通信業界の健全な競争環境と技術革新の育成に力を注いできた。
一方、eSIMスマートフォンは海外企業が提供するグローバルeSIMなどを容易に導入できてしまう。もしもeSIMスマートフォンの導入によって規制の網をかいくぐった海外企業が一気に参入してしまえば、公正な競争や通信産業の発展を支えてきた国内主導の市場体制が崩壊してしまう。
このように契約管理と市場保護の理由から、中国で販売されるiPhoneはAirを除いて今後もしばらくは物理SIMカードのみの対応となるだろう。
なおeSIMスマートフォンが販売されていなくとも、中国の消費者はeSIMについて一定の知識を持っている。スマートウォッチの一部にeSIMが搭載されている他、中国メーカーのスマートフォンのほとんどに海外向けデータ通信サービスのeSIMが搭載されているからだ。
このサービスは中国販売モデルのみに搭載されており、海外用eSIMを買わなくとも本体のアプリを起動すれば、その場でローミングプランを購入できる。
物理SIMカードが無くても通信できるサービスを多くの中国の消費者は使っており、今後にeSIM対応スマートフォンが登場してもすんなりと受け入れる下地はできているように感じられる。
iPhone 17の日本モデルと中国モデルの違いは、各国の通信構造と規制の違いを如実に示している。利便性や管理効率を求める日本と、市場保護と規制強化を重視する中国、両国市場の差異がiPhone 17の販売戦略に大きく影響を与える結果となった。
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