「いかにも中国! 」なIT教育事情山谷剛史のアジアン・アイティー(2/2 ページ)

» 2007年05月30日 11時45分 公開
[山谷剛史,ITmedia]
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PCのハードウェアを教える学校と中古PCショップの関係

日本では見かけることがほとんどない“修理系”専門学校の募集広告

 このように、ソフトウェア開発や資格取得を目的とした学校が中国の各地にある。「でもそれって日本でも似たようなものだよね」と思うあなた。中国のIT教育事情はもっと深い。この国には“PCのハードウェアを勉強する”学校が中国各地に存在する。PCのハードウェアといってもPCの自作に関する知識を勉強するために高い学費を払うわけではない。彼らは“PCの修理屋”を目指しているのだ。

 PCのハードウェアを勉強してどこで働くのか。すべての卒業生がPCメーカーの修理部門で働けるほどサポートセンターが中国各地にあるわけではない。もっとも、システム部門を用意できる体力を持ったPCメーカーがそれほどない。

 彼らはPCメーカーに就職するのではなく修理屋として起業するのである。中国の電脳街には、PC本体はもとより、ディスプレイからシリコンオーディオプレーヤーまで何でも直す(とアピールしている)修理専門店がある。また、中古PCショップもそのほとんどが修理屋を兼ねている。電脳街を歩いてみれば、そこらじゅうに修理屋があることに気づくだろう。

電脳街でよく見かける典型的な修理屋さん
比較的大規模なPC修理専門店ではノートPCの修理も扱う

 中古PCショップでは、PC本体やパーツの買い取りと販売を行う傍ら、客からPCの修理を依頼されれば、問題のあるパーツを店内にある安価な中古パーツと交換して対応する。ときにははんだごてを使ってコンデンサなどの電子部品を取り替えることもある。

 PCの修理屋が個人でも営めるのは、修理を依頼されるPCが自作のデスクトップPCばかりというのが一因としてある。中国ではノートPC所有者がデスクトップPCに比べてまだまだ少なく、そのノートPCも多くがベアボーンであるため、個人のPC修理屋でも対応できるのだ。もっとも、ある程度の規模をもつ修理専門店では、デスクトップPCはもちろん、ノートPCの修理や、デジカメ、プリンタ、シリコンオーディオプレーヤーなど、ありとあらゆるデジタル機器の修理に応じてくれる。店内にはノートPC用の液晶パネルをはじめとする部材がストックされていたりする。

 このような、“独立系”修理屋が中国全土に数多くあるにも関わらず、PCメーカーや周辺機器メーカーのサポートセンターも大都市なら必ずある。ユーザーはPCメーカーのサポートセンターに修理を依頼するか修理屋に依頼するかを選択できるわけで、PCメーカーとしては、コストと手間がかかるサポートは修理屋に任せたいところでもあるが、サポートセンターの数が充分でないなどサポート面で力を入れないメーカーはインターネットでユーザーに非難されることになる。中国の消費者はサポート面に力を入れないメーカーには厳しい。

 本屋のコンピュータ関連書籍の一角では、各プログラミング言語のコーナーやメジャーなソフトウェアの解説本コーナーと一緒に、PCの修理屋になるためのハードウェアに関する教則本のコーナーが用意されている。そこで売られている修理屋マニュアルには、多くの場合、PCで使われている接続バスやインタフェースコネクタ、チップソケットなどの規格の紹介や、それらの正しい接続方法といったハードウェアから、Windowsや中国でメジャーなソフトウェアのインストール方法といったソフトウェアまで網羅している。修理マニュアルらしく、DOSコマンドの解説やユーザーからよく聞かれる質問とその回答も掲載されている。中古PCショップや修理屋の店内には、そういったバイブル本が少なくとも一冊は置いてある。

修理屋さんの内部。ここでは豪快にも危険なディスプレイを直している
書店のPC関連コーナーには「修理屋さんハンドブック」的な書籍も販売されている

「近所のPC教室」がないわけは?

 日本の住宅地ではけっこう見かける中高年向けPC教室だが、これが中国ではあまり見ない。検索サイトで探してもないぐらいなので、おそらく存在しないか非常にレアなのかと思う。「デジカメの写真をPCに保存してみよう」「ワードで招待状を作ってみよう」などといった生活の需要に密着した中高年向けPC教室がないのはなぜか?

 中高年世代のPC利用率はほかの世代と比べて低いのは確かだ。CNNICが半年ごとに発行する中国インターネット統計でインターネット利用者層の実態を見てみると18歳〜24歳をピークにそれ以上の年齢が占める割合は減少し、インターネット利用者全体で40歳以上はわずか2.5%しかいない。

 1960年代から1970年代にかけて、中国では大学が閉鎖され知識人が粛清された。40歳以上の世代はこういう国内事情によって、とくに理数系の教育を受ける機会を奪われた世代でもある。PCそのものやPCに関連する知識に対して躊躇する気持ちがあったとしても不思議ではない、と中国国内では考えられている。

 日本などでは、中高年を対象にPCを優しく教える場所として「近所のPC教室」は存在するが、現在の中国では仕事のために技術を習得したい若い世代しかPCを学ぼうとしていない。先の述べた事情を考えると、中国では今後も中高年向けのPC教室やそれに準じたビジネスが出現するのは難しいかもしれない。しかし、中高年世代がPC教室に通う必要性を感じたときこそ、中国においてPCを使ったIT技術が本格的に普及したことを意味するだろう。

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