ナナオ(EIZOブランド)の「FlexScan SX」シリーズは、同社のカラーマネジメント対応ディスプレイ「ColorEdge」シリーズの技術を多数採り入れ、汎用の液晶ディスプレイとしては高度な色再現性と表示の安定性、そして多機能を誇るハイグレードラインだ。
ColorEdgeの高度なハードウェアキャリブレーションツール「ColorNavigator」には対応しないが、ディスプレイ自体の表示品質はそれに近いレベルを保っており、ColorEdgeよりは安価なため、デジタルフォト用途に加えて、幅広いクリエイティブワーク環境で導入されている。
そのFlexScan SXシリーズにこの春、新たなフラッグシップモデルとなる「FlexScan SX2762W-HX」が加わった。同社としては初めて、2560×1440ドット表示の27型ワイドIPSパネルを採用するとともに、ボディデザインやインタフェースも改良。EIZO独自の高画質化技術や使い勝手を高める諸機能も充実しており、先進的な大画面・高解像度ディスプレイに仕上がっている。
まず注目したいのは、やはり27型ワイドの大画面だ。表示面積は約596.74(横)×335.66(縦)ミリと広大で、A3ノビを実寸で表示したうえ、ツールパレット用のスペースを広く確保できる。
画面解像度は2560×1440ドット(アスペクト比16:9)と非常に高く、SXGA(1280×1024ドット)サイズが水平に2画面ぶん確保でき、下部または上部に余白が十分残るため、高解像度のフォトレタッチやHD動画のタイムライン編集などにはうってつけだろう。1画面で豊富な情報を得られるのは快適だ。スクロールや拡大/縮小の手間も省けるため、作業に没頭できるメリットも大きい。
これだけの大画面になると、正面から見ているつもりでも、画面の中央と端で視野角のズレが生じてしまい、視野角が狭い液晶パネルでは表示品質が崩れてしまうものだが、SX2762W-HXの液晶パネルはIPS方式なので、色度やコントラストの変動が少なく、表示域を目いっぱいに活用できる。視野角の公称値は上下/左右で各178度だ。SX2762W-HXは縦位置表示の機能も持つ(詳しくは後述)が、もちろん縦位置で使っても視野角に問題は見られない。
また、大画面のディスプレイは輝度や色度のムラも気になりやすいが、EIZOおなじみの「デジタルユニフォミティ補正回路」により、表示の均一性を整えてから出荷されるのは見逃せない。また、バックライトの経時変化による輝度変動を常に補正する「ブライトネス自動制御」、周囲の温度による色度変化を抑制する「温度センシング」、輝度変動に伴う色度変化の抑制といった表示安定化機能も持つ。電源オンから短時間で輝度を安定させる「輝度ドリフト補正」についても、より短時間で安定するよう改良されている。実際、目視でじっくりチェックしたところ、低輝度や高輝度の設定でもムラのない均一な表示ができていた。
さらに、16ビットLUT(ルックアップテーブル)による豊かな色彩と滑らかなトーンの再現性も備えるなど、こうした画質の作り込みは汎用ディスプレイの領域を超えているといえる。
色域はAdobe RGBカバー率で97%、NTSC比で102%と広い。プリセットの画質モード(FineContrast機能)としてsRGBモードを用意しているので、用途やアプリケーションに応じて即座に色域の切り替えが可能だ。Adobe RGBとsRGBの色域をどちらも再現できるのは、デジタルフォトやクリエイティブワーク用のディスプレイとしては重要なポイントとなる。色域変換の精度については、後ほど検証する。
基本スペックは、輝度が270カンデラ/平方メートル、コントラスト比が850:1、視野角が上下/左右で各178度、応答速度が黒→白→黒で12ms、中間階調域で6msとなっている。輝度計を用いて、輝度の調整幅も確認したところ、最低まで絞ると60カンデラ/平方メートル、最高まで上げると280カンデラ/平方メートルという結果だった。これなら、暗所で使ってもまぶしくて困ることはない。
応答速度についてはオーバードライブを搭載していることもあり、動画などでブレが目立つことはほとんどなく、HD動画の編集や再生も問題なかった。さすがにFPSのような動きの激しいゲームでは少々力不足も感じるが、FlexScan SXはクリエイティブワーク向けのシリーズなので、ハードなゲーム用途を期待するのは筋違いではある。
一方、懸念されるのは高解像度ゆえの表示の細かさだ。液晶パネルの画素ピッチは0.2331×0.2331ミリとかなり細かく、それも影響してか、ワイド画面のIPSパネルでよく指摘される表面の粒状性も多少見られる。筆者の体感では気にならなかったが、視力や使用環境、アプリケーションにも左右される要素なので一概にはいいがたい。細かい作業を長時間行うような用途ならば、念のため実機を確認しておくとよいだろう。逆にいえば、大画面で密度の高い表示が行えるので、精細な映像コンテンツなどは見ていて予想以上に高画質に感じられることもあった。
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