ナナオが放つ“3万9800円”のIPS液晶――「FORIS FS2332」を検証する独自の超解像技術で差別化(3/3 ページ)

» 2011年08月12日 18時15分 公開
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キャリブレータ−でその発色を確認する

「EIZO EasyPIX」でFS2332のキャリブレーションを行っている様子

 FS2332は、ナナオのカラーマッチング/ハードウェアキャリブレーションツール「EIZO EasyPIX」にも対応しており、写真鑑賞やWeb閲覧などの用途に合わせて、発色を最適化できる。そこで、EasyPIXを使って、FS2332の色域や再現性を調べてみた。

 EasyPIXは、測色器(キャリブレーター)とキャリブレーションソフトをセットにしたパッケージ製品だ。測色結果をもとに、ディスプレイ内部の発色パラメーターをハードウェア的に調整するため、精度の高いキャリブレーションが行える。当初は印刷用紙とのカラーマッチングがメインの製品だったが、最新版のソフトウェアでは色温度や輝度の目標値を数値で指定できるキャリブレーションが可能となり、使い勝手が大幅に向上した。また、EasyPIXに対応したEIZOブランドの液晶ディスプレイ(FlexScanシリーズ)も、かなり増えてきている。

 さて、EasyPIXによるキャリブレーションだが、ここでは「キャリブレーション(上級者向け)」を選んだ。このモードでは、輝度、色温度、色再現域、ガンマを指定し、指定した値に画面の発色を近づけるようにキャリブレーションできる。用途別のプリセット設定も用意され、選択肢は「写真を見る/調整する」「Webを見る」「文書を作成する」「ムービーを見る/編集する」の4通りだ。今回はプリセット設定の「写真を見る/調整する」と「Webを見る」を使った。

 「写真を見る/調整する」の目標値は、輝度が80.0カンデラ/平方メートル、色温度が5500Kだ。キャリブレーションの結果は、輝度が79.2カンデラ/平方メートル、色温度が5488Kと、ほぼ目標値と同じになった。もう1つの「Webを見る」は、目標値が輝度100.0カンデラ/平方メートル、色温度6500Kで、結果は輝度が100.3カンデラ/平方メートル、色温度が6500Kと、こちらも目標値とほぼ同じに調整できた。キャリブレーション結果は、液晶ディスプレイのICCプロファイルとしてOSに登録され、FS2332の発色が最適化されるというわけだ。

 さらに一歩進めて、EasyPIXのキャリブレーション結果で作成されたICCプロファイルをMac OS Xの「ColorSyncユーティリティ」で読み込み、実際の色域を確認してみた。比較するのはsRGBの色域だ。FS2332の色域は、sRGBの色域をほぼ包含しつつ、緑の方向と、赤/紫/青の方向に広がっている。sRGB色域の再現性という点では高くないが、発色そのものは美しく、目視でも明るさとコントラスト、彩度のバランスが良好だ。

EasyPIXで作成したプロファイルをMac OS Xの「ColorSyncユーティリティ」で読み込んだ様子。色が付いた領域がsRGB規格、グレーの領域がプロファイルの色域だ。いつもはプロファイルの色域に色を付けて表示しているが、今回は見にくいので逆にしている。「写真を見る/調整する」で作成したプロファイル(画面=左)と「Webを見る」で作成したプロファイル(画面=右)では、多少の色域の違いがあるが、いずれもsRGB規格を超えており、特に青から紫にかけての色域が広い

ナナオが配布しているFS2332用のプロファイルも同じようにsRGB規格と比較した。色温度5000K/ガンマ2.2のプロファイル(画面=左)と色温度6500K/ガンマ2.2のプロファイル(画面=右)が用意されているが、いずれもsRGBを超える色域に設定されていることが分かる

同様にi1 Proで作成したプロファイル(目標値は輝度80カンデラ/平方メートル、色温度6500K、ガンマ2.2)もsRGB規格と比較してみた。sRGBモード(画面=左)とUser1モード(画面=右)で作成したプロファイルだが、いずれもRGBのピークの色域が大きく広がった。Adobe RGBにはとどかないが、sRGBを大きく超える色域が出せることが分かる

i1 Proでプロファイル(目標値は輝度80カンデラ/平方メートル、色温度6500K、ガンマ2.2)を作成した際のキャリブレーション結果。sRGBモード(画面=左)とUser1モード(画面=右)で作成したプロファイルだ。いずれも目標値に対して高精度の結果が得られた。左のガンマのグラフを見ると、RGBのラインがかなりそろっており、グレーバランスがよいほうだが、明るくなるにつれて各ラインが少しずつずれる(精度が少し下がる)。また、sRGBモードはシャドウから中間調が少し明るい。なお、ソフトは最新の「i1Profiler」ではなく、従来の「i1Match」を使用している

 そもそもFS2332は特定の色域再現というよりも、エンターテインメント性とコストパフォーマンスを重視した製品だ。広色域と色再現性に注力した同社の「FlexScan SX」シリーズや「ColorEdge」シリーズとは、性格がまったく異なる。これらのシリーズは広色域の液晶パネルを採用し、内部でsRGBやAdobe RGBなどの色域をシミュレートする機能を搭載しているため、色再現性が高い(だからこそ、グラフィックスや写真、デザインといったクリエイティブワークで高い評価を得ている)。色域や再現性について、FS2332を同列に論じるのは筋違いだろう。

EasyPIXで「Webを見る」に調整後、左からカラーグラデーション、モノクログラデーション、グレー単色を表示した様子。10ビットLUTにより、階調表現力はなかなかのもの。グレー単色の表示では、若干のむらが見られたが、通常の利用では気にならないレベルだった

エックスライトのカラーマネジメントツール注目製品

「i1Basic Pro」

 今回の測定に用いたエックスライトの「i1Basic Pro」は、測色器の「i1Pro」が付属し、ディスプレイの高度なキャリブレーションが行えるパッケージだ。2011年6月にカラープロファイリングソフトが新世代の「i1Profiler」に進化し、i1Profilerシリーズとしてモデルチェンジした。

 i1Basic Proはi1シリーズの中ではエントリーモデルにあたるが、i1Proはスペクトル方式を採用した測色器で、フィルター方式のエントリーモデル「i1Display 2」に比べて、検出精度がかなり高い。i1Basic Proをベースとして、より高度なカラーマネジメント環境を構築したい場合は、必要に応じて機能を拡張することも可能だ。i1シリーズの製品情報はこちら

 日本国内ではこれらの製品を加賀電子が取り扱っており、クリエイター向けオンラインショップ「KGDirect」や「CGiN」で購入できる。両サイトでのi1Basic Proの販売価格は10万4790円だ。



個人用のハイコストパフォーマンスなエンタメ液晶としておすすめ

 冒頭でも述べたが、FS2332は個人で使うエンターテインメント向けのフルHD液晶ディスプレイとして、高いレベルでまとまっている。特にインターネットで動画をよく見る人にとっては、Smart Resolutionが非常に有用だ。単純に解像感を高めるだけの超解像とは違い、動画(表示)の内容に応じて自然に高画質化してくれ、ざらつきといった超解像の弊害はほとんど感じない。

 そのほか、広視野角パネルや多系統の映像入力、付属のリモコンのおかげで、日ごろの使い勝手が高いのも大きなポイントだ。これが一番重要という人もいるだろう。

 現在、フルHD解像度に対応して2〜3系統の映像入力を持った液晶ディスプレイは、安いものだと1万円台で買えてしまうが、予算を多少上乗せしてでもFS2332を選ぶ価値は大いにある。液晶ディスプレイとして基本的な性能がしっかりしているだけでなく、自動処理による適切な超解像技術をはじめ、付加機能が実に“使える”からだ。幅広いユーザーにとって「この価格でよい買物をした」と満足感が得られるだろう。

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