──ThinkPadの開発にも参加されていたと聞いています。
渡辺氏 ThinkPadについては、日本でもユーザーが多かったThinkPad 220やThinkPad 230Csといった日本市場を意識したラインアップではなく、グローバルで展開する法人向けの製品を開発する部署に所属していました。担当は、製品保証にかかわる部門で、製品のスペックがユーザーの要望を満たすことができるのかのチェック、法律で定める基準を満たしているのかの確認、そして、気温や湿気、ホコリや衝撃などの環境から受ける各条件に耐えられるかのテストなどを行っていました。
ただ、製品開発に参加していたのは“三代目”までで、その後はThinkPadのブランドマネージャーを務めた後、開発や企画だけでなく、販売も含めた全体の取りまとめにかかわることになりました。
──製品の開発から販売まで担当する総合的な仕事に移るのに、抵抗はなかったですか。
渡辺氏 新しい分野にチャレンジするのは好きなので、特に抵抗はありません。ただ、それでも実際の業務における意識改革は相当に必要でしたね。特にユーザーと交流する販売パートナーから得られる情報は、開発の現場にいるとなかなか得られないものが多く、参考になりました。
──IBMから、レノボ・ジャパンの代表取締役社長になったときも、同じような意識改革は必要でしたか。
渡辺氏 一番大きな変化は、“スピード感”です。IBMではある程度の時間をかけて大きな売り上げを達成しますが、レノボのビジネスはとにかく短い時間で状況が大きく変わります。そのため、IBM時代は、時間をかけてでも、完璧な方法を考えて絶対に間違えない決断をしてきましたが、レノボ・ジャパンでは、スピードを重視して、満点ではなくても80点の答えで進めて行く必要があります。このことは、レノボ・ジャパンでスピードと激動の日々を経験して自分で気づいた答えです。
──レノボ・ジャパンは、グローバルのレノボ本社、そして、日本でもNEC・レノボグループ、NECパーソナルコンピュータと連携してビジネスを展開することになりますが、ラピン氏、高塚氏との情報共有は、渡辺さんのビジネスにおける意思決定にどのような影響を与えていますか。
渡辺氏 本国本社と日本支社の関係は、レノボ・ジャパンだけでなく、ほかの外資系PCメーカー共通の事情なので、このことが特に制約条件とはなりません。ただ、レノボ・ジャパンは、ほかの国に比べて高い権限を与えられているので、決定のスピードは速いです。
NEC・レノボグループとレノボ・ジャパン、そして、NECパーソナルコンピュータの三角構造は、確かにユニークですが、意思決定の支障とはなっていません。レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータで競合する問題が起きた場合は、NEC・レノボグループのラピン氏が調整します。ただ、それぞれのメリットになることを全員が考えているので、問題に対する答えば三人とも同じになります。
NECの製品とはユーザーですみ分けができているので、競合は起きません。NECの製品は初心者でも使えるモデルをそろえ、レノボ・ジャパンのモデルは自分で問題を解決できるユーザーが選びます。コンシューマーユーザーで競合するという見方もあるようですが、販売を担当するパートナー企業が異なるので、こちらもすみ分けができています。競合するラインアップはこの先も用意しません。お互いにメリットはありませんから。これからも、ユーザーがそれぞれのブランドに期待する製品を投入するのが、ユーザーにとっても分かり易いと考えます。
──ThinkPadシリーズは、登場して20周年を迎えますが、この先20年の第1歩として投入した「ThinkPad X1 Carbon」は、ThinkPadが築いてきたこれまでの20年を継承するモデルといえるでしょうか。
渡辺氏 これまでの20年を受け継いで、今後の20年に伝えるモデルになっています。従来のThinkPadが重視してきたコンセプトは、ThinkPad X1 Carbonにも受け継がれています。これは、これまでのコンセプトを今後も継続するというレノボのメッセージでもあります。
技術の進化とユーザーの求めに応じて、ThinkPadの機能は変わります。ボディの薄型化を進めていくのもその流れですが、キーボードを重視するのはこれからも変わらないのです。
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