ところで、このような開発担当者の転職先でもう一つよくあるのが、全くの異業種メーカーに移籍し、そこの新規事業として、これまで行っていたようなPC周辺機器やスマホまわりのビジネスを立ち上げるパターンだ。新しいビジネスを立ち上げて柱にしたい会社と、経験を生かして一から製品ラインアップを手掛けたい開発担当者とで、うまく利害が一致するパターンである。
この場合、既に社内にある営業部隊および販売ルートを使えるため、販売面ではベンチャーほど不利ではないことに加えて、会社肝いりの新規事業故、潤沢な予算が立ち上げに割り当てられており、当初は採算も度外視だったりと、船出こそ順風満帆であることが多い。
しかしこの場合も、製品ラインアップごと立ち上げて新規参入しようとしているのに、一つ一つオリジナル製品を作っているわけにいかず、結局取り売りばかりになってしまうのが関の山だ。そしてもう一つ、こうしたケースにつきものなのが、ハードウェアのバージョンアップや型落ち品の処分といった不可欠な施策について、異業種では理解されにくいという問題だ。
PC周辺機器の業界に長年いる人にとって、顧客への販売後もソフトウェアアップデートで不具合を改修したり、あるいは新機能を追加したりするのは、半ば常識といっていい。しかし他業界から見てみると、既にユーザーの手に渡った製品に追加でコストをかけるというのは、考え方自体がまずあり得ない。
つまり、そんなことをしても1円の売り上げにもならないし、新製品への買い替えの機会を減らすだけじゃないか……というわけである。このように、社内での理解が得られないことによって、担当者の意欲がポッキリと折れてしまい、ソフトウェアのバージョンアップが果たされないままになってしまうことはよく起こる。
またこれとよく似ているのが、本体機器の終息によって市場価値を失った周辺機器やアクセサリーの処分にまつわる問題だ。昨日まで通常価格で販売されていた周辺機器やアクセサリーが、一夜にして市場価値ゼロになるというのは、同じ製品を何十年にもわたって販売し続ける業界からすると、実に異常であり、補填(ほてん)を入れて処分するといった施策は承認されにくい。
PC周辺機器やアクセサリーの専業メーカーならば、あらかじめ市場価値を失った在庫が全数廃棄になった場合のコストも加味して売価を決めるのが普通だが、そうした考え方のない他業界では全数売れることを前提とした価格設定を行っていて、終売の時点でそれまで出ていた利益をふっ飛ばして赤字に転落することも多い。
このように、開発担当者にとっては、多くの転職先は茨の道であり、そこに至って初めて、もともと在籍していた会社が恵まれていたことに気付くわけである。しかし時既に遅し、はるか以前に退職してしまっている開発担当者は、理想とする会社に巡り合うために転職を繰り返すか、あるいは夢を諦め、取り売りビジネスにどっぷりつかっていくわけである。
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