新製品の発表が多かったAppleの2022年春の発表会。その中でも、最も強烈なインパクトを残したのが「Mac Studio」だろう。
筆者はM1 Ultraチップと128GBメモリを搭載する、まさに“夢のスタジオ”ともいえるMac Studioをレビューする機会を得た。卓上にちょこんと置けて、小さな音すらもしない本体は、その姿からは想像もできない、脅威のパフォーマンスを発揮する。そのことにびっくりすると同時に、実は今回の発表において「Studio Display」も十分に主役を張れる重要な製品だったことを改めて思い知らされた。
今回は、そんな“驚き”を読者の皆さんに共有したいと思う。Mac Studioに興味がない人は、ぜひともStudio Displayの部分だけでも読んでもらえれば、と思う。
Mac Studioは、すごい――残念ながら、これ以上の言葉が見つからない。それくらい、Mac Studio(もっというとM1 Ultraチップ)のパフォーマンスは圧倒的なのだ。どうすごいのか、詳しく説明していこう。
最近のAppleは、プロセッサの性能を8K(7680×4320ピクセル)の動画、具体的には「Apple ProRes 422」というコーデック(映像圧縮フォーマット)でエンコードされた8K動画を何本同時に再生できるかを指標として示すことが多い。
なるほど、これは良い指標だ。高画質な映像、それもフルハイビジョン(1920×1080ピクセル)の16倍となる8K動画を毎秒30コマ以上再生というのは、プロセッサに対しても膨大な負荷が掛かるし、映像データが保存されているSSDからも高速にデータを読み出さなくてはならない。要するに意外と総合的に負荷の掛かるタスクなのだ。
2021年に発表されたM1 Maxチップ搭載の「MacBook Pro」は、普通のPCでは1本の映像を再生するだけでも大変なProRes 422の8K動画を7本同時に再生できるとして話題になった。しかし今回、M1 Maxチップを2つ連結して2倍の性能を実現したというM1 Ultraチップを搭載するMac Studioでは、何と18本もの8K動画を映像を同時に再生できるという。2倍を超えて18本も再生できるのは、ソフトウェア側の改善も貢献しているとのことだが、いずれにしても驚異的であることには変わりない。
今回のレビューに当たって、検証用として18本の8K映像をあらかじめ1つの映像として合成した「Final Cut Pro」のプロジェクトの提供も受けた。再生してみると、公表された通りの18本の8K動画を再生できている。
確かに再生できてはいるのだが、「編集作業をしようとするとFinal Cut Proの動作が重たくなって大変なことにならないかな……?」と少し不安を覚えたが、結果的には無用な心配だった。18本の動画を同時に再生のシーンも含めて、再生ヘッダーを左右に動かすとプレビュー表示がそれに滑らかに付いてくる。動作の重さや引っ掛かりは全く感じない。編集や映像加工も軽快に行える。
試しにプロジェクトの最後、18本の8K動画が同時に再生されているシーンに幾つかの動画を追加で貼り付けてみたのだが、動画の合計本数が22〜23本くらいになるとやっと「重くなったかな?」という程度である。「18本同時再生」というアピールは、もしかすると控え目な公称値なのかもしれない。
あまりにも動きが軽快なので、「何かファイルに仕掛けがあるのではないか?」と思って、M1チップを搭載する「MacBook Air」でも同じプロジェクトを開いてみた。しかし、再生ボタンを押すと1〜2度ほど“止まった”映像が切り替わるだけで、基本的に途切れ途切れの音だけしか再生されなかった。どうやらタネも仕掛けもないらしい(編集を完了して1本の8K動画として書き出したものならスムーズに再生できた)。
そもそも、M1チップでも「速い速い」と言われていた所に、その上位となる「M1 Proチップ」があり、それを超えるM1 Maxチップがあって、そのM1 Maxチップからさらに2倍も速いM1 Ultraチップがある――比べる対象ではなかったのだと、改めて認識させられた。
M1 Maxチップを搭載するMac Studioは現時点におけるMacの最高峰といえる。限界を感じさせない性能は、とにかく圧倒的だ。このマシンがあれば、本格的な映像プロダクションですら編集に苦労する8K動画を楽々と編集できるかと思うと、チャレンジしたい気持ちが湧いてくる。価格を考えても、現状において4K/8Kの動画を編集する究極の環境といえる。
小さな箱に込められた夢のスタジオといっても過言ではないと思う。
もちろん、Mac Studioが真価を発揮するのは映像編集だけではない。
例えばアドビの「Photoshop」なら、30MB以上あるRAWファイルに対して、ニューラルフィルター(機械学習を用いて、風景写真を「雪景色」や「夕暮れ」変えられる)を掛けると、何とほんの数秒で処理が終了する。「Photoshop Lightroom」なら、1600枚近くある4500万画素ほどのRAWファイルを、矢印キーを押してナビゲートすると毎秒数十コマの滑らかなムービーのようにしてプレビューできる。キーから指を離すと、ピタっとその写真で止まって加工できる状態になる。
「Xcode」でプログラミングする人なら、現行のiPhoneやiPadのシミュレーターを快適に使える。発売中の全モデルのシミュレーターを並行して動かしても余裕がある。
ちなみに、これらの例に示した操作性はM1 Maxでもほぼ同じだという。要するに、M1 Ultraどころか、M1 Maxでもまだ“本気は出してない”状態らしい。
こうした型破りな性能は、おなじみの性能検証ソフトでも驚くほどの結果をたたき出す。
3Dレンダリングを通してCPUのパフォーマンスをチェックできる「CINEBENCH R23」というソフトがあるが、もし使ったことがない人はApp Storeで無料で入手できるのでぜひダウンロードして、自分のマシンで実行してみてほしい。
現行の多くのPCでは、光の反射などを細かく計算した絵を描き出すのに、ものすごく時間がかかることを実感できる。それに対して、M1 Ultraチップを搭載するMac Studioだと、心地よいペースで1マスを描き終える。しかも、ほとんどファンの音もせず、静かに淡々とこなすのだ。
CPUのマルチコア(スレッド)性能のテストでは、24コアの「Xeon W-3265M」(2.7GHz〜4.6GHz、24コア48スレッド)とほぼ同等で、「Ryzen Thredripper 2900WX」(3GHz〜4.2GHz、32コア64スレッド)に届かない結果となる。一般的なPCよりも、HPC(ハイパフォーマンスPC)やワークステーションと肩を並べる性能になっている。1コア当たりの性能では、これら2つのCPUも大きく引き離したダントツの性能を発揮する。
このMac Studioとは別に、Appleは(おそらくさらに高性能な)「Mac Pro」の開発を進めていることも明かしている。それを待ちたい人もいるかもしれないが、価格も性能も、いつ出るかも分からない製品を待たなくても、Mac Studioなら今すぐに比類ない性能を手にすることができる。
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