外観にほとんど変化が見られない第2世代のAirPods Proだが、イヤフォンとしての“核”となるドライバーユニットも「11mm径」と、サイズだけ見ると先代と変わりない。しかし、その設計は一新されており、低音域と高音域共に伸びやかかつゆがみの少ない音を引き出している。
元々、Appleのオーディオデバイスは「当たり障りのない音作り」をする傾向にあり、ほとんどの製品について高音域の刺激が強くなりすぎないように調整されている。その一方で、必要な情報も捨ててしまっているのか、情報量が少なく感じられる音になってしまいがちだった。
しかし今回、ドライバー自身の改良なのかアンプや基板設計の工夫なのかは分からないが、明らかに音の情報量が増えた。恐らくシステム全体のS/N比が良くなったことで、これまで捨ててしまっていた情報も素直に引き出せるようになったのかもしれない。
空間オーディオ用にリファインされたノラ・ジョーンズの「Don't Know Why?」を聞いてみると、伸びやかなノラの声からフワッと広がるニュアンスがより細やかに描写された。こだわりのリマスターが施されたアナログ系音源はいずれも楽しく、ビートルズの「Come Together(2019 Mix)」やダイアナ・ロスの「I'm Comming Out」を聞き始めると、デジタル音源がなかった時代の豊かな楽器音の表情が見えてくる。低音域も「11ミリ系」とは思えない伸びを見せる。
I'm Comming Outのモータウン・サウンドらしいグルーブ感あふれるベースの力強さを感じつつ、クラフトワークの「Trans-Europe Express」を聞いてみると、独特の粘りあるベース音がよりリズミカルに楽しめる。
もちろん、イヤフォンの枠を逸脱するエアの大きさはないが、立ち上がりのスピードとアタックのエネルギーにあふれる表現は、初代AirPods Proにはなかった熱量を感じさせる。
先に挙げた楽曲のほとんどは、古いにもかかわらず空間オーディオ化されている。TrueDepthカメラを備えるiPhoneとiOS 16の組み合わせで利用できる「パーソナライズ機能」を使って耳の形をあらかじめ登録しておくと、より豊かな音場表現をもたらしてくれるだろう。
第2世代のAirPods Proは、空間オーディオに最適化した設計が施されている。そのこともあり、Apple独自の仮想サラウンドとの相性が良いという。しかし、もはや「これは空間オーディオなのか?」と意識するのがバカバカしくなるほど、自然な音楽表現として受け入れられる。
空間オーディオを使ってステージ感を演出している、直近にミックスされたEDM(Electric Dance Music)なら空間オーディオの効果はなおさらに感じる所だが、演出として空間オーディオを使っている事例でなくとも、音楽表現として自然に受け入れられるものに仕上がっているという意味で好印象を持った。なお「Apple TV+」を始めとする空間オーディオを用いたサラウンドも、以前より前後の奥行きや上下の方向が明瞭になっていた。
同価格帯、あるいは少し上の価格帯のオーディオブランド製品と比較して、第2世代のAirPods Proは音の品質において優れているとは“明確には”言いきれない。しかし、音作りの巧みさが増し、音楽をより楽しく聞かせるようになったことは間違いない。
空間オーディオ技術との相性の良さ、Apple製品との相性の良さや通話品質の高さなどと掛け合わせると、iPhoneのパートナーとして他を選ぶ理由が見えてこないという程度に、音質は向上している。
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