シリコン飢餓とデバイスに忍び込むAIの幻影――不惑を迎えたWindowsと、AIに飲み込まれた2025年のPC業界を振り返る(3/6 ページ)

» 2025年12月31日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

TSMCを巡る「椅子取りゲーム」が深刻に

 高性能半導体におけるNVIDIAの独走を生産面で支えているのは、言うまでもなく台湾の半導体受託製造者(ファウンドリー)であるTSMC(台湾積体電路製造)である。

 しかし、同社の生産能力は2025年を通して常に“限界”に達していた。特に微細化が進んだ先端プロセスと、AIチップに不可欠な「CoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)パッケージング」を使った組み立てプロセスのキャパシティー争奪戦は、テックジャイアント同士の“代理戦争”の様相を呈している。

 TSMCにとって、Appleは依然として最大の優先顧客だ。3nmプロセスの大部分と、将来の2nmプロセスの初期生産枠を、Apple向けに事前に確保しているとされる。「iPhone 17」シリーズ向けの「Apple A19チップ」ファミリーや、Mac/ハイエンドiPad向けの「Apple M5チップ」の製造に充てられるこの膨大なキャパシティーは、他のプレイヤーにとっての大きな参入障壁となっている。

 ここにAIの巨人であるNVIDIAが販売面で大きく成長しているのだから、ライバルは“別の道”を探らざるを得ない。

M5チップ Apple Siliconは、生産面でTSMCに大きく支えられている。TSMCにとっても、Appleは最大の優先顧客となっている

 2025年の半導体業界は、TSMC一極集中のリスクを回避すべく他のファウンドリーへの“分散”を模索する動きが顕著だった。

 QualcommやAMDは、Samsung Electronics(サムスン電子)のファウンドリー部門への生産委託を拡大する動きを見せている。Appleでさえ、パッケージング工程の一部についてはIntel Foundry Services(IFS)の利用を検討しているという報道もあるほどだ。これらは数年前には考えられなかった事態で、半導体確保に向けた“必死さ”を物語っている。チップが調達できなければ、製品を作れないのだから当然である。

 NVIDIAのジェンスン・フアンCEOも「先端パッケージングは、依然としてボトルネック」と語っている。GPU本体の製造能力だけでなく、HBMとGPUを接続するCoWoSパッケージングの生産/供給の逼迫(ひっぱく)が、チップ供給の総量を決める制約の本質なのだ。

 そして、この「演算能力」を巡る奪い合いは、2025年後半になってメモリ市場にも波及した。

2025年末に起こった「メモリショック」 割りを食う一般PCユーザー

 2025年のPCパーツ市場において、GPU(グラフィックスカード)の供給不足以上に深刻な打撃を与えたのが、年末にかけて発生した記録的な“メモリ危機”だ。DRAM(メインメモリ)やNANDフラッシュ(SSD)の価格が高騰し、品薄となってしまった。このことは、自作PCユーザーやBTOパソコン市場を“直撃”している。

 このメモリ不足は、過去に見られたような「工場火災」「停電」といった、一時的なトラブルによるものではない。AIによる産業構造の変化がもたらした、構造的かつ不可逆的な供給のシフト、いわゆる「AIスーパーサイクル」の副作用でもあり、構造的な問題であることから、解決は簡単ではない

 現在のAIデータセンター向けGPUのグラフィックスメモリは、一般的なGDDR(グラフィックス向けDDR)メモリではなく、HBMを大量に搭載していることが多い。HBM自体は通常のPC向けDRAMと同じシリコンウエハから製造されるが、製造プロセスは複雑で、ダイサイズも大きく、歩留まりも低い。サムスン電子、SK Hynix、そしてMicron Technologyの3大メモリメーカーは、収益性を高めるべく、利益率が極めて高く、現状ではほぼ無限の需要があるHBMの生産を最優先した。

 その結果、限られたメモリの生産能力とウエハの割当はHBMに吸い取られ、標準的なDDR5メモリの生産量が相対的に激減したのである。これは「供給主導型の不足」と呼ばれる現象だ。

 PCの需要が爆発したわけではないのにモノがない――2025年後半の市販メモリモジュール市場を覆ったことで、一般の自作PCファンは”何も買えない”状況に陥っている。

DRAMウエハ DRAM用のシリコンウエハ。HBMも同じシリコンウエハから製造可能だ
HBM HBMは第3世代(HBM3E:左)に加えて、第4世代(HBM4:右)の量産準備も進められている

メモリ高に「円安」のダブルパンチ

 メモリの世界的な供給不足に加えて、日本では歴史的な円安が重なり、状況はさらに悲惨なものとなっている。輸入品であるPCパーツの価格は、基本的に為替レートに直結する。ドルベースでの価格上昇と円安の“相乗効果”で、店頭価格は跳ね上がった。

 2025年後半、製品によっては数倍の高騰が報じられ、一部報道によると国内ではDDR5メモリの市場価格が2.8倍に跳ね上がったと伝えられている。SSDはそこまでではないものの、2倍程度の価格上昇は珍しくない状況だ。

 この影響を最も強く受けたのが、薄利多売のビジネスモデルを持つBTOパソコンメーカーだ。ヤマダデンキ(ツクモ)やマウスコンピューターといった、国内のBTO PCビルダーはPCの新規受注を一時的に停止するという苦渋の決断を下している。

 これは単に部材がないというだけでなく、メモリやSSDの仕入れ価格が日々変動(≒上昇)するため、販売価格を固定して受注することが経営リスクとなるためだ。年末商戦という、書き入れ時に受注を止めざるを得ないことは、業界全体にとっても歴史的な出来事だと言える。

マウスコンピューター マウスコンピューターは2026年1月4日までPC全般の受注を停止している(参考記事

 海外ではさらに極端な動きも見られた。あまりのメモリ価格の高騰を受けて、一部のBTO PCビルダーが「メモリなし」でPC販売を開始したのだ。完成品PCとしては異例中の異例であるが、この動きは国内にも広がるかもしれない。

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