2009年度は、中期ビジョン実現に向けた“弾込め”の時期――ドコモの山田社長

» 2009年04月30日 16時19分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo 決算概況と2009年の注力分野について説明するNTTドコモ 代表取締役社長の山田隆持氏

 「(2008年度に手がけた)“変革とチャレンジ”の、手応えを感じた年であり、事業運営はおおむね順調であった」――。NTTドコモの山田隆持社長は、新ドコモ宣言で顧客満足度向上を至上命題とする戦略に舵を切った1年を、こう振り返った。

 市場成熟期のビジネスモデルとして取り入れた新たな割引サービスは、2009年3月末でドコモの全契約者の6割を占める3272万契約を達成。割引サービスと両輪を成す新販売方式のバリューコースも95%の選択率を維持し、契約数が2100万に達するなど順調に推移している。

 通期の解約率も「新たなビジネスモデルの推進や、顧客満足度向上の取り組みが着実に現れたおかげ」(山田氏)で0.5%という低い水準にとどまった。転出超過が続いた番号ポータビリティについても、2008年12月と2009年1月にプラスに転じるなど、「手応えをつかみ始めた」と山田氏は胸を張る。

 ただし、いくつかの課題も見えている。1つはARPUの減少だ。前年度に比べて音声ARPUが830円減少したことから、2008年度の累計総合ARPUは前年度比10.2%マイナスの5710円まで下落。これはバリュープランやファミ割MAXなどの増加によるもので、減少分を補うための施策が急務だ。

 携帯電話の総販売数も、新販売モデルの導入や消費の冷え込みが影響し、前年同期比21.8%減の2013万台にとどまるなど大きく落ち込んだ。新販売モデルが浸透したことから販売手数料は減少しており、端末販売収入は603億円増となったが、ドコモは販売の減少傾向に歯止めをかけたい考え。2009年度には減少幅を減らしたいとし、1970万台程度の出荷を見込む。

Photo ファミ割MAXなどの新割引サービスと新販売モデルは順調に加入者を増やしている(左)。総合ARPUは音声の減少分をデータARPUで補えず、前年度比マイナス10.2%の5710円となった(中)。端末の総販売数は2013万台まで落ち込んだ。山田氏は2009年度の減少幅をできるだけ減らしたいと話す

 2009年度の営業利益について山田氏は、2008年度と同水準の8300億円を見込んでいると説明。バリュープランの契約が増えていることから、音声収入は2008年度の実績からさらに2650億円減少し、基本料収入は1840億円減少すると予測する。この減少分を、パケット収入の増加と販売手数料の削減、ネットワーク関連コストの削減で吸収し、目標の達成を目指すとした。

Photo 2008年度決算のポイント(左)と、2009年度業績予測のポイント(右)

2009年は中期ビジョンの実現に向けた“弾込め”の時期

Photo 2009年度の注力分野

 2009年度の位置付けについて山田氏は、顧客満足度のさらなる向上と、中期ビジョンの実現に向けて“着実なステップを踏む年”と説明。具体的には(1)顧客満足度のさらなる向上(2)携帯電話の利用拡大に向けたさらなる取り組み(3)新たな収益源の創出(4)コスト効率化(5)CRSの5つを軸とした戦略で、“2010年の顧客満足度NO.1獲得と2012年の営業利益9000億円”をうたう中期ビジョンの実現を目指す。「2009年度は、2012年度の営業利益9000億円以上の実現を目指して、弾を込める時期だと思っている」(山田氏)

 顧客満足度向上の施策については、「“ドコモを使っていてよかった”という顧客が増えるような」(山田氏)施策を400億円規模で展開する方針。アフターサービスの充実を目指す「ケータイてんけん」の導入や、「パケ・ホーダイ ダブル」「Biz・ホーダイ ダブル」を月額490円から利用可能にする料金見直しなどの具体的な施策を発表した。

Photo 顧客の携帯電話をベストコンディションに保つためのサービス「ケータイてんけん」。簡単な修理はその場で行うほか、料金のコンサルも行う。パケ・ホーダイ ダブルは、加入のハードルを下げ、あまり使わなかった月の負担を軽くするために月額490円から利用できるようにした

Photo スマートフォン向けの定額プランも月額490円からに変更。PC接続のデータ定額はプランは、2年間ドコモと継続契約することを条件に月額料金を割り引く「定額データプラン スタンダード割」を用意する

課題のパケットARPU向上に向けた施策は

 中期ビジョンを実現させるための課題として山田氏が挙げるのは、パケット利用の拡大に向けた取り組みだ。音声ARPUの落ち込みをカバーするためにもパケットARPUの向上は急務であるとし、使いやすい料金体系の導入や端末機能の向上で、ユーザーのパケット利用の拡大を目指す。「端末の表現が向上するインラインFlashも、夏モデルからの導入を検討している」(山田氏)

 パケットARPUの増加につながる動画コンテンツについては、エイベックスとドコモの合弁会社が提供するBeeTVの取り組みを推進するとともに、観光やナビゲーション、医療など、エンタテインメント分野以外での活用も進める。

 データ利用の拡大が見込めるスマートフォンも、成長市場と位置付けて注力するとし、ラインアップを拡充する方針。データ通信カードやモジュールと合わせて、販売促進を強化するとしている。

Photo パケットARPUの向上に向けた取り組み

法人市場の累計契約数、700万を目指す

 携帯市場が成長期から成熟期へと移行し、これまでのような右肩上がりの成長が見込めなくなったことから、携帯キャリアは新たなビジネスモデルの導入を急いでいる。ドコモも新たな収入源につなげるためのさまざまな施策を打ち出しており、中期ビジョンの実現に向けて取り組みを強化する考えだ。

 その1つが、携帯電話のパーソナル化サービスとしてドコモが提供する「iコンシェル」。4月に100万契約を突破するなど好調に推移しており、さらなる機能のブラッシュアップで2009年度の380万契約達成を目指す。具体的には「電車に乗らない、車も渋滞しない場所で必要とされる情報は何かを探るような形で」(山田氏)地域で必要とされる情報の充実を図るほか、2009年度下期には、位置情報に連動した情報を配信するための機能を拡張するとしている。

 法人市場も成長が期待できる分野とし、契約数拡大に向けた営業体制の構築も含めて、取り組みを強化。2009年度の法人名義の累計契約数700万(40万純増)の達成を目指す。

 携帯電話を軸とした融合サービスについては、フェムトセルを利用したホームエリア向けサービスを2009年度下期から順次提供する計画。新端末との連動も含めてサービスを拡大する。

 モバイルの貢献度が高い「環境」「医療」「金融」「安心安全」「教育」の分野で、情報流通を効率化するための基盤構築・事業化を推進するソーシャルサポートについては、2009年度に「健康・医療」「環境・エコロジー」「金融・決済」の3分野で外部パートナーとの連携を進め、2009年度中にはいくつかの事業の立ち上げを目指すという。

 ほかにも、従来からの注力分野である国際ビジネスやクレジットビジネスの強化を図るとともに、イオングループとの提携オークローンマーケティングへの出資のような形で、モバイルとの親和性が高い分野への出資・提携を推進する考え。こうした施策を通じて事業領域の拡大を加速させ、新たな収益源の確保につなげるとしている。

Photo 新たな収益源の確保に向けた重点分野

Photo ドコモが2009年の注力分野とする「ソーシャルサポート」「クレジット」「国際サービス」。ソーシャルサポートは2009年度中の事業立ち上げを目指す。クレジットは3月末で898万契約に達したDCMX会員を2009年度には1180万に伸ばしたい考え。取扱高8000億円を目指す。国際ビジネスは、国際通信やローミングに加え、受け取り配当金や連結分も考慮した収益規模で、2009年度の収益1000億を目指す

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