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» 2009年09月25日 00時05分 公開

iPhoneは「キャズムを越える」のか神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)

[神尾寿,ITmedia]
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Appleのキャズムの越え方は「局所展開」

 しかし、iPhoneブームに地域ごとの「温度差」があるのもまた事実だ。筆者は今年の夏商戦期間中、九州、四国、中国、中部、東北エリアなどを回り、各地の販売会社やキャリア支社関係者の話を聞いたが、そこでは「iPhoneの影響はそれほど大きくない。店頭競争への影響は限定的」という声が大半だった。iPhoneの販売状況は昨年同期に比べて上向いているが、都市部のようにF1層が飛びつくような事態にはなっていないという。地方では、もともとドコモとKDDI(au)が強く、ソフトバンクモバイルが弱いという傾向はあるものの、iPhoneの地域格差は際だって大きい。

 実はこうした地域差の存在は、Appleにとって経験のないものではない。iPodと同じ普及・展開シナリオであり、同社にとっては“織り込みずみ”と言ってもいいだろう。

 「例えば、iPodは2004年以降、携帯オーディオプレーヤーの代名詞として売れ続けていますが、昨年頃から伸び率が大きいところが(都市部以外の)地方マーケットに移行しています。まずは都市部で(局所的に)普及・一般化し、その後、じわじわと地方に広がっていく。これがiPodの普及シナリオでした」(Apple日本法人マーケティング担当幹部)

 iPodの例をひもとけば、Appleのキャズムの超え方は世界観や魅力が伝わりやすく、グローバルなトレンドにも敏感な「アップルストアのある都市部で普及する」ことが第一ステップになる。実際、現在起きている都市部でのiPhoneの普及を見ても、女性層の認知度向上および獲得における「アップルストアの貢献度は予想以上に大きいものがある」(Apple日本法人)という。そして、都市部でキャズムを越えて高いシェアを取り、第二ステップとして販売チャネルを拡大して「地方市場への浸透」を図る。この段階ではライバルに対する優位的なブランド形成が済んでいるため、各地域市場でのキャズム越えはスムーズに行われるのだ。

 こうした都市部での局所的な普及と、その後の地方展開のマーケティング手法は、iPod/iPhoneに限らず多くのプロダクトやサービスで見られるものだが、Apple製品は特に徹底していると言ってもいいだろう。

 筆者は国内におけるiPhoneの普及/展開のペースは、AppleおよびiPodのブランド力の高さも追い風になり、iPod黎明期のシナリオよりも早く進んでいると見ている。その観点からすると、今のiPhoneはまさに都市部でキャズムを越えようとしており、一般層への本格普及が始まる前夜にある。iPhoneが新しいケータイとして、このまま爆発的な普及・成功シナリオに移行するか、それとも日本の携帯電話市場の中で一角を占める程度に収まるのか、その分水嶺にさしかかっている。

iPhoneはキャズムを超えるのか

Photo 普及と利用促進が進んでいるマクドナルドの「かざすクーポン」

 ここまで述べたように、日本におけるiPhoneは順調に勢力を拡大している。キャズム越えの必須条件となるF1層を中心とした女性への浸透も始まっており、昨年同期に聞かれた「日本市場でiPhoneは売れない・成功しない」という声は次第に小さく、消え入るようになっている。

 では、このままiPhoneはすんなりと「キャズムを越える」のだろうか。筆者はその前に2つ、ハードルになり得る要素があると考えている。

 まず、1つめのハードルは「おサイフケータイ」だ。非接触ICである「モバイルFeliCa」を内蔵するおサイフケータイは、そのサービス開始から5年が経過し、普及と利用促進が進んできている。とりわけ昨年から始まったマクドナルドの「かざすクーポン」は、主婦層や中高生の女性の支持を受けて、わずか1年あまりで300万ユーザーを越える大ヒットサービスになった。これまでおサイフケータイの主な利用者層は30代・男性であったが、それが女性層に拡大してきているのだ。

 この“女性層へのおサイフケータイ利用の広がり”は、iPhoneの日本市場への展開にとって最大のハードルになる可能性が高い。なぜならおサイフケータイのサービスは、絵文字やMMSメールのようにソフトウェアバージョンアップでの対応が不可能であり、ワンセグのように周辺機器でも対応できないからだ。とりわけ「かざすクーポン」のように通信サービスとの連携性の高いおサイフケータイだけの新たな利用スタイルが女性層に広がると、iPhoneにとっては強い逆風になるだろう。

 これは逆説的な見方ではあるが、これまでiPhoneにとって幸運だったのは、おサイフケータイの利用が女性層をはじめ幅広いユーザー層に広がっていなかったことだ。キャリアや端末メーカーが取るおサイフケータイのマーケティング戦略が30代男性向けが中心であり、女性層の取り組みで出遅れていたために、iPhoneは都市部でのF1層獲得という足がかりを作ることができた。だが今後、iPhoneの普及を上まわる速度で、おサイフケータイの利用促進とユーザー層の拡大が進めば、iPhoneのキャズム越えが難しくなる可能性は十分にある。

 そして、もう1つの課題が、地方展開でのiPhoneの一般普及において、“ソフトバンクモバイルが足かせにならないか”という部分だろう。

 ソフトバンクモバイルは料金や各種サービスの対応において、しっかりと「iPhoneのよさ」を引き出す取り組みをしている。現時点で、AppleとiPhoneにとってベストパートナーといっても過言ではない。だが、地方市場においては、高速通信エリアの充実度や販売チャネルのクオリティで、ドコモやKDDIより見劣りするのも事実だ。そして、iPhoneの魅力を引き出す上で欠かせないのが、この「高速通信エリアの充実」と「販売店のクオリティ」なのだ。

 筆者は2010年後半以降と予測しているが、近い将来、iPhoneの主戦場は東京など都市部中心から、徐々に地方市場に拡大していく。その段階でもiPhoneが成功するには、ソフトバンクモバイルの「地方での競争力」がドコモやKDDIに比肩しうるレベルまで高くなっている必要がある。今後も引き続き、ソフトバンクモバイルがiPhoneのベストパートナーで在り続けられるかどうか。これはAppleとソフトバンクモバイルの双方にとって、課題であり、試金石であると言えるだろう。

 このように地域差の存在や課題はあれど、iPhoneが一般普及に向けて順調に「成功シナリオ」を進んでいることは間違いない。都内の一部地域など、局所的にはキャズムを越えた場所もあるだろう。

 かつて“iPodの白いイヤホン”が電車内の日常風景になったように、iPhoneの画面をフリックする“iPhone族”が親指族に代わって最大勢力になる。そんな政権交代的な光景すら、現実感を帯び始めてきている。

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