3G通信内蔵の最先端デジタルサイネージ――COMELの「福岡街メディア」を見る神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)

» 2009年10月05日 00時10分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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パネル設置場所確保の秘訣とは?

 福岡街メディアは、リアルの街とインターネットを結び、新たな広告ビジネスを実現する革新的な取り組みとして、順調に成長している。しかし、デジタルサイネージの展開・運用では、その街に住む人々の行動導線にあわせた“パネル設置場所の確保”がもっとも難しい。なぜなら、特定の駅やショッピングセンターなどに設置するのと違い、多くの施設や店舗オーナーから設置許可を得なければならないからだ。福岡街メディアではこの難題をどのように解決したのだろうか。

 「福岡街メディアのパネル設置場所を確保するのにあたり、鍵になったのが『ソフトバンクホークス』の存在ですね。我々はソフトバンクグループとしてホークス関連のコンテンツを優先的に利用することが可能で、それを加工して他のメディアにない見せ方をすることができます。多くの設置加盟店のオーナー様からは、『ホークスの応援ができるならば、パネルを設置してもいい』と言っていただけました」(和久山氏)

 東京にいるとピンとこないかもしれないが、福岡の街と人々のホークスに対する愛は深い。福岡住民の70%以上の人がソフトバンクホークスのファンであり、街中のさまざまなお店がホークスのロゴを掲げて「ホークスを応援している」ことをアピールしている。福岡街メディアは、このホークスコンテンツをフル活用することで、視認率を高めるだけでなく、生活者の行動導線に合わせた理想的なパネル展開を実現したのだ。

 「また、もっと実利的なアプローチとしましては、パネルを設置いただいたお店には『ロケーションオーナーコンテンツ』という形で、店頭や店内設置のパネルに店舗広告をいれさせていただいています。駅や空港、市役所といった公共性の高い場所向けでは、時刻表や運行案内、地域公共情報などもいれるなどし、ご協力いただくことに成功しました」(和久山氏)

Photo 福岡地域におけるソフトバンクホークスへの“思い入れの強さ”が分かるのが、街のいたるところに見られる「ホークスロゴ入り看板」や「応援ののぼり」。COMELでは、このホークスコンテンツを積極的に活用することで、パネル設置場所の確保と高い注目率を実現した

デジタルサイネージ、新たな街メディアの成功事例

 このように福岡街メディアは、地域特性に合わせて柔軟なメディアインフラの構築、コンテンツの運用を行い、デジタルサイネージの成功事例になった。モバイル通信を使ったインターネットとリアルサービスの連携、新たな街メディアの取り組みとしても注目の事例と言えるだろう。

 それでは今後、COMELはこの成功事例をどのように生かし、事業展開していくのだろうか。

 「まず福岡街メディアでは、カメラ内蔵型のデジタルサイネージ端末を試験的に運用し、広告効果の測定がより高精度に行える仕組みを作りたいと考えています。ほかにもYahoo!とのコンテンツ連携などはいろいろと考えており、(パネルの)設置エリアはこのままで新しい技術・サービスの導入に取り組んでいきます。

Photo 天神バスセンターにはカメラ設置の試験機もある。リアルタイムニュースや食べログなどのコンテンツを用意し、注目度を高くしている

 そして、この福岡街メディアで実用化した技術やサービス、運用ノウハウなどは全国展開していきます。福岡の次に展開するのは首都圏ですが、それ以外の地域にも広げていきたい。

 福岡街メディアではパネルの設置・運用から、コンテンツの制作まで一手に手がけましたが、今後の地域・事業拡大においては、我々がプラットフォームの運営だけ行うという仕組みでもいいと考えています。COMELとしては、デジタルサイネージプラットフォームを、(新たなメディアとして)ビジネスにしていきます」(和久山氏)

 2000年代中期の一時期、「通信(ネット)と放送の連携」が大きな可能性を持つと言われていた。それはいまだに一面の真実をはらんでいるが、筆者は今後の、そしてより大きな可能性は、モバイルICTを活用した「通信とリアルの連携型ビジネス」にあると確信している。おサイフケータイや位置情報型コンテンツ/サービスの成功はその端緒であるが、3Gを内蔵したデジタルサイネージ分野にも大きな可能性があるだろう。

 リアルを指向する今後のモバイルICT産業から見ても、COMELの福岡街メディアはその先行事例として示唆に富んでいる。今後の取り組みを、期待を持って見守りたい。

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