朝は奇跡を起こす! いいじゃんネットの坂本史郎代表取締役の場合朝シフト仕事術

朝の時間を活用すると“奇跡”が起きる――。そんな奇跡を体験した人を紹介しましょう。いいじゃんネットの坂本代表取締役のケースです。

» 2011年07月20日 10時00分 公開
[永井孝尚,Business Media 誠]
いいじゃんネットの坂本史郎さん。“朝メール”の詳しい話はこちらでも読める

 2000年3月、37歳のときに、私(坂本史郎さん)はそれまで勤めていた会社を退職して起業しました。新会社で提供したのはメールをインターネット上に保管して携帯電話から利用できるようにするサービスです。今でこそ、このようなサービスはよくありますが、当時は概念が早すぎて受け入れてもらえませんでした。

 サービスの技術も想定よりむずかしく、用意していた財務資源は底を尽きます。意気揚々とチャレンジした最初のビジネスモデルは失敗してしまったのです。それでも慣れない受託開発を行いながら、何とか会社を続けます。

 「受託開発をしていてもらちが明かない。何のための起業だったのか」

 そう思って自社製品開発に再チャレンジしました。お客様に徹底的にヒアリングし、借金を積み増して費用をねん出し、何とか企業向け自社製品を開発しました。ところが、それがお客様に受け入れられ、黒字化するまでの3年間に資金繰り地獄を体験します。役員報酬は長期間大幅カット、これ以上は借金もできず、家族も生活に困ります。「息をしているだけで罪を犯しているように感じる」日々でした。

 起業して、40歳を過ぎて、親にお小遣いをもらわなければ生活ができないことになるなどとは、起業前には想像もしていませんでした。追い詰められてうつ病になりかけていた自分を励ますように始めたのが、朝型へのシフトでした。

 誰にとっても、1日は24時間しかありません。悩みながら夜をもんもんと過ごすより、スパッと早朝から全力で働いたほうが効率的なはずです。朝起きたときのすがすがしさと新鮮なエネルギーがあれば、仕事の質もポジティブになる予感がありました。

毎朝2、3時間かけて社員に向けたメールを書く

 2004年1月、「朝メール」を始めました。前日の社内各メンバーからの報告メールを1つにまとめて、全員にコメントをつけて返すものです。前日に何があったのか、その日は何にチャレンジするのか、日々私が考えていることをまとめたエッセーなどもつけています。

 「朝メール」をまとめるのは、毎回2、3時間かかります。ただ、早朝に実施することで、邪魔は少なく、うまく習慣化できました。毎朝、頭が少しボーッとした時間帯でも、決まった作業から始めると迅速に仕事へ入れます。

 かれこれ7年以上続けてきて分かりましたが、毎朝の習慣は、徐々に自分の周囲を変えていきます。毎日の変化は少しずつなのですが、3年スパンで見ると劇的に変わっています。

 過去の「朝メール」を読み返してみて分かったのは、今考えてることとそのころとで、あまり考え方が変わらないということです。考え方のブレが少ない。もしかしたらそれは、寝ることでいったんリセットボタンが押され、朝起きた後は、自分の本質的な価値観で物事を表現するからなのでしょう。

朝型に変えてよかったこと

 朝型に変えてから、夜寝つくのに困ったことがほとんどありません。早朝からフルに活動して、夜まで何とか頑張り、布団に入るや否や意識がなくなります。夜の11時ごろでしょうか。たいてい夢を覚えていることがないくらいの深さで爆睡します。ただ、朝型だからといって睡眠時間を極端に削ることは、身体にダメージを与えてしまうのでよくないと思います。

 また、早朝は通勤トラブルに巻き込まれることがまれです。私は朝5時台のJRで会社に向かいますが、この7年ほどの間に遭遇したトラブルは、台風で停まった1回と、車両故障が1回だけでした。通勤ラッシュで気力が下がることもありません。

 早朝には電話がかかってくることも少なく、社内会議もありません。邪魔されない時間が毎日とれることは、習慣を定着させるのにはとても重要です。人はとかく言い訳を見つけて、できなかったことを正当化させる生き物です。言い訳の要因となるものを取り除くのには朝がいいのです。

 酒席での決めごとが極端に減りました。従来は、夜にお酒を飲みながら、話を決めることが多かったと思います。当然、その場の勢いやムードで、なかにはいい加減な物事の決め方をしたこともありました。

 朝に考えるようにした結果として、お酒の力での結束ではなく、理性的な結束で、物事を決めるようになります。水が合わない人は離れていき、考えが合う人が集まるようになります。その結果、理性的な考えで結束した集団は意識統一がしやすく、お互いに協力し合う、風通しのよい組織になります。メンバーの安定感が高まります。

早朝出勤のすがすがしさ

 私は毎朝、始発電車か2番目の電車に乗るようにしています。早朝の駅までの15分ほど道のりは、天体ショーが楽しめる至極の場です。冬であれば星が、春秋であれば夜明けが、夏であれば早朝のシンとした涼しさで囲まれた空が。それぞれに毎日毎瞬変化して私を包み込むように楽しませてくれます。

 公転して自転している地球。その薄い大気圏中に張りつくように存在している小さな自分。こういったことを毎朝感じながら職場に向かうのです。この環境を日々感じているだけで、奇跡を起こすムードは十分に盛り上がってきますよね。

 そして、現に奇跡は起きているのです。

売上も利益も劇的に伸びた!

 ビジネスは数字が大切です。朝のクリアな目で数字を見ると、ちょっとした間違いなどに気づきやすいものです。数字を決めるのも朝です。朝一番にオフィスの自動掃除機のルンバのスイッチを入れるのが私の仕事の1つですが、数字のお掃除も毎朝実施しているわけです。

 当社の売上高と営業利益のグラフを示してみましょう。これはみんなの日々の努力の成果です。私が早朝から働いているということも、数パーセントは貢献しているのではないでしょうか。スタートは太陽マークをつけた2004年です。それ以前は売上が伸びず、スケールアウトするほどの赤字が積み重なっていました。

 どうでしょう。朝は奇跡を起こすと思いませんか?

 このようにいいことだらけと思われる朝の活動ですが、1点だけ難点があります。人と3時間の時差を持っているひとり万年サマータイムなので、夜が弱くなります。夜10時過ぎに外で飲んでいると、一般の方の深夜1時に相当します。夜のおつき合いに弱くなるのです。

連載「朝シフト仕事術」について

 本連載は7月16日発売の書籍『残業3時間を朝30分で片づける仕事術』から抜粋したもの。“朝活”が大ブームの今、医者、起業家、脳科学者が書く朝活の本も売れているが、本書は日本IBMに勤務する現役ビジネスパーソンが現在進行形で朝時間を有効活用していることが特徴だ。その成果・効果を大公開。実体験を元に、朝は夜の6倍生産性があがる理由を分析した。

 著者自身も20代30代のころは、仕事の忙しさが残業に反映されていると思い込み、“残業自慢者”でもあった。しかし、残業 → ストレス → 飲む → 寝坊 → 満員電車 → ぎりぎり出社 → 仕事の山という負のサイクルにどっぷりとはまっていたことに気づく。それをきっかけに、時間の使い方、仕事のやり方を研究しはじめ、朝時間にシフト。家族と過ごす時間、自分のための時間が増え、ライフワークをしっかりと楽しんでいる。そんな朝時間の有効性を共有する「朝カフェ次世代研究会」を主宰し、朝時間仲間をどんどん増やし、仕事とプライベートを充実させる啓蒙書。生活を見直したいと考えるビジネスパーソンにおすすめの1冊だ。



著者紹介 永井孝尚(ながい・たかひさ)

 日本IBMソフトウエア事業部マーケティング・マネージャー。1984年3月、慶應義塾大学工学部卒業後、日本IBM入社。製品開発マネージャーを担当した後、現在、同社ソフトウエア事業部で事業戦略を担当。2002 年には社会人大学院の多摩大学大学院経営情報研究科を修了。朝時間を活用することで、多忙な事業戦略マーケティング・マネージャーとして大きな成果を挙げる。一方で、ビジネス書籍の執筆や出版、早朝勉強会「朝カフェ次世代研究会」の主宰、毎日のブログ執筆でさまざまな情報を発信。さらに写真の個展開催、合唱団の事務局長として演奏会を開催するなど、アート分野でも幅広いライフワークを実現している。主な著書に『バリュープロポジション戦略50の作法 - 顧客中心主義を徹底し、本当のご満足を提供するために』などがある。


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