海外や日本の通信事業者は、どのようにモバイル回線の速度を計測しているのか?:総務省「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」(1)

» 2014年01月06日 19時38分 公開
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 近年、モバイルインターネット通信は高速化が進み、事業者による広告などで最大通信速度を表示しているが、実際に利用する際の実効速度との乖離が大きく、また、事業者やメディアなどによる独自の実効速度の調査結果が公表されているものの、調査基準や方法などにはばらつきがあり、単純な比較ができない状況が続いている。その結果として、利用者のサービス優良誤認に繋がり、適切にサービスを選択できず、不利益が生じたり利便を損なう可能性がある。

 総務省は、これらの課題を解決すべく「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」を発足し、11月から14年3月まで計5回の会合を開催して、「モバイルの実行速度等のサービス品質の計測等の在り方」について一次報告を取りまとめるとしている。

 そこで、これら研究会の公開情報のまとめと、研究会を主催する総務省(総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課)への取材訪問(12月12日)内容をレポートする。

photo 研究会を主催する総務省データ通信課の井上氏、佐藤氏、下谷氏

 まず、本稿では、第1回会合についてレポートする。

「スマートフォン安心安全強化戦略」における課題と提言〜モバイルの実行速度等のサービス品質の計測等の在り方〜

 総務省は、2013年9月4日に「スマートフォン安心安全強化戦略」を公表した。

 利用者情報に関する課題、スマートフォンサービス等の適正な提供に係る課題、アプリ利用における新たな課題という3つのテーマへの対応について、検討がなされている。

 このうち、スマートフォンサービス等の適正な提供に係る課題の1つとして、利用者視点を踏まえたインターネットのサービス品質の表示にかかわる指摘があり、「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」が開催されている。

  • 関連資料

第II部スマートフォンサービス等の適正な提供に係る課題への対応(別紙1-3・P129)

「第4章 今後の方向性1 利用者視点を踏まえたサービス品質・エリア等の表示(1)通信速度」

http://www.soumu.go.jp/main_content/000247673.pdf

 今回の研究会の総務省からの主旨説明においても、「スマートフォン安心安全強化戦略」提言の概要(P21)が引用されており、スマートフォンやモバイルデータの利用者からのクレームにおいて、通信サービスに関わる項目として、「通信速度」が非常に高い関心事項であることが伝えられている。

photo
photo 「スマートフォン安心安全強化戦略」提言の概要(P21)より

 また、研究会の検討事項と開催スケジュールは以下の通りで、事前申込で研究会を傍聴することもできる。次回第3回会合は、日時未定ながら取材確認したところ1月下旬の開催を予定している。

  • 検討事項

計測手法(計測員による実地調査、一般ユーザによるモニタリング調査など)

計測条件(時間帯、エリア、回線種別、端末、移動速度、屋内・屋外など)

データのサンプリング・スクリーニング手法など

  • 研究会スケジュール

11月1日 第1回会合(主旨説明、諸外国事例、通信事業者ヒアリング)

11月25日 第2回会合(調査会社ヒアリング、諸外国事例追加調査報告、計測方法の論点整理)

1月下旬 第3回会合(計測方法の詳細、広告表示の方向性、一次報告骨子の検討)

2月 第4回会合(一次報告案の審議)

3月 第5回会合(一次報告のとりまとめ)

  • 第1回会合出席者(敬称略)

座長: 相田仁(東京大学)

構成員: 北俊一(野村総合研究所)、木村たま代(主婦連合会)、長田三紀(全国地域婦人団

体連絡協議会)、新美育文(明治大学)、廣松毅(情報セキュリティ大学院大学)、 福田健介(国立情報学研究所)、横田英明(MM総研)

オブザーバー: 山粼拓(NTTドコモ)、吉田智將(KDDI)、水口徹也(ソフトバンクモバイル)、大橋功(イー・アクセス)、菅田泰二(電気通信事業者協会)、今井恵一(テレコムサービス協会)、立石聡明(日本インターネットプロバイダー協会)、山本学(代理:川田由美子 日本ケーブルテレビ連盟)、明神浩(電気通信サービス向上推進協議会)

説明者: 阿波村聡(野村総合研究所)

総務省: 吉良総合通信基盤局長、安藤電気通信事業部長、菊池総合通信基盤局総務課長、吉田事業政策課長、玉田消費者行政課長、竹村料金サービス課長、河内データ通信課長、松井電気通信利用者情報政策室長、柴崎事業政策課企画官、山口データ通信課企画官、佐藤データ通信課課長補佐

野村総研による海外動向レポート〜北米ではおなじみのSpeedtest.net(Ookla)をベースに〜

 野村総研は、「諸外国におけるモバイルインターネット回線速度計測の状況」をレポートしている。

 動向として、「固定回線については、欧米主要国において既に政府による計測が実施されており、 モバイル回線においても政府による計測が本格化しつつある。」とのことで、モバイル回線については、以下のような現状となっている。

諸外国におけるインターネット回線計測の概要
国 実施概要
米国 2013年より、スマートフォンにアプリをダウンロードする形態で実施予定
ドイツ 携帯電話に特化した政府としての調査はなされていない。上記固定回線の調査においてモバイルブロードバンドは計測されている
イギリス 2010年にモバイルブロードバンド回線の品質調査を人海戦術、専用ソフト等の方法を併用して実施
フランス 1997年以降、携帯電話の音声通話等の調査を人海戦術で実施
その他 イタリア、スペイン、スウェーデン等においては、政府が一部キャリアに調査を課す形で実施(政府自らの計測は実施していない)

photo 資料1−4 諸外国におけるモバイルインターネット回線速度計測の状況 より

 イギリスでは、2010年にPC利用でのモバイルブロードバンドの計測を実施しており、「固定ブロードバンドの代替手段となっているなかで、消費者に正しい情報を提供すること」を目的としているという。

 日本国内においても、モバイルルータが普及しており、一人暮らし層を中心に固定網の代替手段としている傾向があることからも、理論値ではなく実効速度がユーザの期待値通りなのかを正しく伝えていく必要性があるだろう。また、各キャリア(通信事業者)の違いについて、社名を含む測定結果を公表している。

 フランスでは、音声通話品質の調査を1997年以降から実施しており、2012年にはMMSの送信時間、Webサイト表示時間、ファイルの送受信時間、ビデオストリーミング品質に関する調査を実施している。

 計測場所は、屋内外の静止時の他、音声のみ自動車での移動や、高速移動(高速道路上やTGVなどの電車移動)でも実施しており、利用シーンを広く想定している。利用端末が4キャリアで提供されているGALAXY S2を選択している点も、フェアな比較を行う上では重要だろう。 

 但し、イギリスとは異なり、計測結果での通信事業者名は公表していないため、利用者は、この結果から事業者を選択することはできないため、あくまでも事業者ごとの違いがあることを掌握するに留まることになる。

 アメリカでは、準備段階という報告ながら、日本国内でも知名度の高い、Ookla社のSpeedtest.netアプリをベースとした、政府(FCC)独自の専用アプリでの計測を計画している。(後日、第2回会合にて、11月から実施している事が報告されている。)

 0ベースでアプリを開発するよりも、コストや使い勝手などの面で、市場で定評のあるアプリをカスタマイズして流用することは、調査標準ツールとして向いているだろう。 あとは、一般向けアプリと異なるサーバ側のインフラを用意することで、サーバ側の混み具合などの影響を回避・抑制することが期待される。

各事業者からのヒアリング結果 計測方法や考え方に各社のばらつきが大きい現状

 NTTドコモ、KDDI、SoftBankおよびEMOBILE(イー・アクセス)からのプレゼンテーションが行われているが、各社の考え方や実際の計測内容には、当然ながらばらつきがある。

 各社の現在の計測方法と、策定している計測方法について各社の考えが各資料に記載されているが、例えば、第1回議事要旨では、計測を静止状態のみとするか、移動中も計測するかという質問があった。

 KDDIは「静止・移動中問わず計測すべきと考える」とポジティブな回答をしているが、ドコモは「移動中の計測については、実施が困難であることから、定点による静止状態での計測が良いと考える」とやや消極的、SoftBankは「計測の場所や方法を計測者に明確に説明することが課題」と必要の有無については回答がなく、EMOBILEは「全く必要ないとは言い難く(中略)実証実験の際に判断すればよいと」という様子を見てといった違いがあった。

キャリア計測方法
項目 NTTドコモ KDDI SoftBank EMOBILE
測定頻度 2か月に1度または四半期に1度 定期的に実施(場所により毎日・1週間単位。全国では年1・2回) 不定期(新サービス・新商品など) 月1回・平日に実施
測定回数 5回 3回 5回
時間帯 平日最繁時間帯(18-20時)および通常時間帯(10-16時)、レジャー施設は日曜(16-18時) 閑散時・混雑時
場所 全国500〜1,000。駅、空港、繁華街、主要大学、大規模施設など 駅、ランドマークスポットなど 北海道、東北、関東、東海、関西、中国、九州の各エリア (9箇所)。
ターミナル駅、空港、地下街、主要スポット、社員宅で測定。
機種 各社売れ筋またはフラッグシップ2機種 主力機種(現在はiPhone5sなど) 主力機種
内容 上り・下り速度(上下カット)
Web表示時間
主に下り速度 上り・下り速度
ツール 特定の通信速度調査アプリ 自社ツール アプリ:Speedtest.Net、Web:BNR Broadband Networking Report RBBのスピード測定サイト
測定員 社員 社員または業務委託先社員
移動中 実施が困難であることから、定点による静止状態での計測が良い 移動中の通信速度も把握したいというユーザーのニーズもあり得ることから、計測場所(状態)を公表できるのであれば、静止・移動中問わず計測すべき
測定条件の統一化(場所、機種、測定内容、時間)
わかりやすい結果表現方法
今後の理論値や独自計測時の扱い
計測の場所や方法を計測者に明確に説明することが課題 全く必要ないとは言い難く、他の計測条件が決まってくることにより、どのような分析が可能か見えてくると思うので、実証実験の際に判断すればよい
懸念 公平性、測定場所の事前公開、コスト、測定場所の基地局からの距離が各社異なる点など 利用者ニーズ、公平性、正確性・測定負担を考慮
諸条件により大きく変動すること
ユーザ認知度の向上
機種、測定内容、ツール、事業者差分、ユーザリテラシーの向上など
※KDDIの空欄は、広報部門に問い合わせしており、回答があり次第追記予定。

 通信規格の違いや機種ごとの違いなどについても、各社の考え方がなされているが、ドコモは「機種を決めれば通信規格も決まる」「複数のキャリアが販売している機種」、KDDIは「通信規格を考慮した計測方法」、SoftBankは「ユーザニーズの高い端末で通信規格に問わず」、EMOBILEは「通信規格や周波数帯域が各社で同じ条件にならないため差分を埋める基準を策定すべき」としている。

 続いて、構成員から「選定された機種の結果をもって事業者の選定になる」「代表的な機種による計測だけで良いのか整理しておく必要がある」「機種による差はあると考えるべきなのか」と述べられているが、ドコモは「機種ごとが望ましいがコスト面から難しい」、EMOBILEは「機種を揃えても環境によって大きく変わる」としている。

 以上、第1回会合のまとめとなるが、各社プレゼン資料は、記述項目やボリュームにかなり差があったものの、SoftBankが得意と思われる上り速度の計測を軽視している点など興味深い内容が含まれている。

 議事要旨についても、質疑応答がまとめられているが、研究会の座長を務める相田氏(東京大学)は、「調査員のトラヒックパターンを分析して、通信事業者が何らかの対応を行う可能性もまったくないとは言えないため、本当にフェアな計測はなかなか難しい。」という指摘などが含まれており、興味のある方は、下記リンク先から参照して頂きたい。

【特集】総務省「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」

(1)背景と検討事項・海外動向・通信事業者ヒアリング

http://app-coming.jp/ja/articles/detail/626

(2)調査会社ヒアリング・諸外国事例追加調査報告

http://app-coming.jp/ja/articles/detail/627

(3)訪問取材レポート

http://app-coming.jp/ja/articles/detail/630

(4)取材後記〜優良誤認がなく利便を損なわない実効速度表示のありかた〜

http://app-coming.jp/ja/articles/detail/631

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