インタビュー
» 2014年10月06日 00時00分 UPDATE

開発陣に聞く「AQUOS CRYSTAL」:この感動を多くの人に伝えたい――AQUOS CRYSTALの“フレームレス構造”に賭けたシャープの本気 (1/2)

フレームレス構造を取り入れた液晶パネルは、実は3年前にサンプル品を開発していた。その時点で「商品化は難しい」という判断になったが、「この感動を伝えたい」という熱意で再び開発に着手し、完成したのが「AQUOS CRYSTAL」だ。同モデル開発の舞台裏をシャープに聞いた。

[小竹佑児,ITmedia]

 ソフトバンクと米Sprintの共同調達モデル「AQUOS CRYSTAL」が好調に売れている。このモデルの開発を担当したシャープが目指したのは「フレームレス構造」の実現だ。一般的なスマートフォンの画面周囲には「額縁(フレーム)」があるが、AQUOS CRYSTALにはフレームがほとんどない。日本メーカーらしい確かな技術力によって開発されたこのモデルは、どのような経緯で誕生したのか。その舞台裏を開発チームに聞いた。

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photo シャープ製の「AQUOS CRYSTAL」
photo AQUOS CRYSTALの開発陣。左上から清水氏、前田氏、プーレン氏、澤近氏、小山氏

従来の「EDGEST」とは別軸で「フレームレス」を展開

photo パーソナル通信第三事業部 商品企画室 室長 澤近京一郎氏

―― まずは、このモデルの開発に至った経緯を聞かせてください。

澤近氏 弊社では、従来モデルから狭額縁化に取り組んでいまして、2013年12月に額縁を極端に狭めた「EDGEST(エッジスト)」デザインを初めて採用したモデル「AQUOS PHONE Xx 302SH」を発売しました。その後、ボディを小型化した「AQUOS PHONE Xx mini 303SH」、側面に金属フレームを採用した「AQUOS Xx 304SH」にも、このEDGESTを引き継いだのですが、それと平行して、さらにフレームを狭めるための研究も別に行っていました。それが商品として結実したのが、今回の「AQUOS CRYSTAL」です。

―― 従来のEDGESTとは別にフレームレスを展開するということですか?

澤近氏 そうですね。フレームレスをやるからEDGESTをやめるというわけではありません。先にも申し上げましたが、302SHから304SHまで、EDGESTは進化してきました。こちらはこちらでひとつの方向性として継続していきます。

―― フレームをここまで狭くするために、どのような技術が導入されているのでしょうか。

清水氏 主に2つの技術を導入しました。ひとつは「新開発の狭額縁液晶パネル」、もうひとつは「エッジカット処理を施した前面パネルによるレンズ効果」です。

photo 要素技術開発センター システム開発部 主任研究員 前田健次氏

前田氏 新開発の狭額縁液晶パネルでは、フレームの大きさを従来モデル(304SH)の60%まで狭めることに成功しました。なぜ、ここまで狭められたかというと、フレーム部分に内蔵されている、液晶を駆動するための回路を小型化できたからです。回路技術の進歩により、従来よりもフレームを狭めることができました。

―― 技術的なハードルは高かったのではないですか?

前田氏 今回はかなり“攻めた”フレームを採用しましたからね。液晶パネルの上にあるカバーパネルやタッチパネルなどは、従来のフレームサイズを前提として開発していたのですが、フレームレス構造ではそれらを使うことはできなかったので、すべてゼロから作り直しています。

photo 左が304SH、右がAQUOS CRYSTALの液晶パネル。AQUOS CRYSTALではさらに狭額縁化されていることが分かる

前面パネルは厚さとエッジのカット処理に苦慮

photo デザインセンター 通信デザインセンター 所長 小山啓一氏

―― エッジカットを施した前面パネルはどのような経緯で開発されたのですか?

小山氏 初めに狭額縁液晶パネルのサンプルが完成してから、それに対してカバーレンズを付けるとこんな風に見える――という技術サンプルを開発部門が作ったんですね。それを初めて見たときに「すごいものができているな」と感動しました。そのサンプルは、フレームがほとんどなくて、画面だけが動いているような感じだったんです。これが約3年前のことです。

 しかし、当時は薄型化に注目が集まっていたので、これを商品化するのは難しいのではないかと考えられていました。状況が大きく変化したのは、通信システム事業本部の考え方が変わった時期ですね。経営自体も変わってきて、やっぱりこの感動を伝えたい、チャレンジしようという流れになりました。

―― 前面パネルのエッジをカットすることによって何が変わるのでしょうか?

小山氏 前面パネルには透明体のアクリルを採用しているのですが、側面部にカットを入れることで、液晶パネルからまっすぐ出てくる表示が、より画面いっぱいに見せることができます。レンズで拡大したような見え方になることで、さらに狭額縁感を強めることができるんですね。この技術がデザイン的に素晴らしいのは、カットした面の部分にも映像が写ることです。映像がより立体的に見えるので、クリスタルの中に何かが封じ込められているような美しさがあります。

photophoto 動いている映像をそのまま手に取っているような感覚になる(写真=左)。斜めにカットした部分にも映像が映り込んでいる(写真=右)

―― これを実現するうえで難しかった点はありますか?

小山氏 一番ポイントになったのは、こぼれるような映像の見え方ですね。もともと前面パネルは、2ミリ以上ないとレンズ効果が出ないことがわかっていました。しかし、2ミリ以上のパネルを使うと本体が厚くなってしまいます。どのぐらいまで薄くして、どの角度でカットすれば、サンプルと同じような効果を得ながら商品化できるのかを考えて、厚みやカットする角度を少しずつ変えて、何度も試行錯誤しました。

―― 最終的な厚みは何ミリになったのですか?

小山氏 1.5ミリに落ち着きました。厚すぎると、遠くにあるものをタッチするような感覚になってしまいますし、逆に薄くしすぎると逆にレンズ効果が弱まるといった問題が出てきます。それらを考慮して、ベストなバランスである1.5ミリのパネルを採用しました。

photophoto 厚みやエッジカットの角度が異なる前面パネルのサンプル。これは一部で、実際にはこの10倍以上のサンプルを作成したという
photo デザインセンター グローバルセンター グローバルデザイン開発室(田辺) 係長 プーレン フィリップ氏

―― エッジを削る角度も映像の表示に影響するのではないですか?

小山氏 そうですね。液晶パネルの映像はまっすぐ表示されるのですが、エッジカット処理を施した前面パネルを乗せることで、外側に映像が拡大されます。このとき映像がどれぐらい外側に行くのか、クリアに表示できるのかはポイントでしたね。「この角度にすると全然外側に映像が写らないなぁ」ということもありました。

―― 前面だけでなく、背面のパネルも凝ったデザインになっていますね。

プーレン氏 前面の未来的なデザインに合わせて、大小2種類のディンプル(くぼみ)を付けています。皮などのナチュラル感のある素材も検討しましたが、ディンプルの大きさに変化を持たせたほうが、より前面パネルの雰囲気に合うのではないかと思いました。

小山氏 これまで見たことがないような未来感のある端末を見たときに、裏側が皮というのも変ですよね(笑)。未来を感じるテクスチャーということで、このデザインを採用しました。

photophoto 背面パネルのサンプル。ディンプルの大きさが均一のものや、配置された領域が異なるもの、皮シボのようなテクスチャーのものなどがある
photo 実際の製品で採用された背面のデザイン
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