MVNOの定額無制限プランはどれだけ快適?――ぷららモバイルLTEとU-mobileのSIMをレビュー(前編)

» 2014年12月03日 13時45分 公開
[坪山博貴,ITmedia]

 徐々に普及しつつあるMVNOの割安な通信サービスの中でも、今注目度が高いのが、NTTぷららとU-NEXTの2社がサービスを開始した、速度規制のゆるいデータ通信量無制限のサービスだ。

 大手ケータイキャリア(MNO)のネットワークを借りて、データ通信や通話のサービスを提供するMVNOは、これまで主に低料金を武器にユーザーを獲得してきた。注目度が一気に上がり普及の原動力となったのが、通信速度を128〜200kbps程度に絞る代わりに、月額500円未満から利用できる、いわゆる「格安SIM」だ。現在は多くのMVNOが提供しており、さらに月に1〜2Gバイトは高速通信が可能な形に拡充されている。また、大手キャリアのサービスに準じる形で、月に3〜7Gバイト程度の高速通信が可能なサービスも、大手キャリアの2分の1〜3分の1程度の料金で提供されており、こちらも人気を得ている。

 一方、現在は多くのMVNOがドコモから回線を借りており、サービスのリリースタイミングにズレはあるものの、サービス内容に対する料金、つまりコストパフォーマンスには大きな差が出ていないのも実情だった。MNOが同じである以上、どのMVNOもそれほど変わらない価格でサービスを仕入れて販売しており、そうなるのは致し方ない部分もある。MVNOの企業努力だけではコストパフォーマンスの向上には限界があるわけだ。

 この状況を打破する形で登場したのが、大手ISPの一角であるNTTぷららの「ぷららモバイルLTE 定額無制限プラン」(月額2760円※税別、以下同)と、USENから独立分離する形でマルチメディアコンテンツの配信事業や、MVNOとしてモバイル通信サービスを展開しているU-NEXTの「U-mobile データ専用 LTE使い放題」(月額2480円)だ。両サービスとも月あたりの高速データ通信量を無制限としており、料金は月額2000円台、1年や2年といった定期利用契約がない点も共通している。

 ぷららモバイルLTEは最大通信速度が3Mbpsに抑えられているが、理論的にはSNS、Webブラウジング、動画配信サービスともに十分楽しめる範囲だ。また両者ともドコモのLTE/3Gネットワークを利用するので、端末によって差異は出るが、競合のWiMAX/WiMAX2+よりは格段にエリアは広い。これら2つのサービスに注目が集まるのは当然ともいえる。

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“夢のサービス”の前に立ちはだかる現実

 今回取り上げる2つの通信サービスは、ユーザーから見ればいわば「夢のサービス」だ。エリアと帯域(通信速度)ともに定評のあるドコモのLTE/3Gネットワークを利用でき、高速データ通信量は無制限。同じネットワークを使うMNOのドコモであれば、代表的な料金プランで「データMパック」なら高速通信が5Gバイトで5000円、現在は新規契約できなくなっている「Xiパケ・ホーダイフラット」が高速通信7Gバイトで5700円の月額なのだから、月額2000円台で高速通信が無制限のサービスは比べるまでもなくお得だ。

 ただ、現実はそこまで甘くはない。MVNOでのデータ通信サービスにはいくつかの形態があるが、今回取り上げている2つのサービスは、ドコモのLTE/3Gネットワークと自社ネットワークを接続し、自社ネットワークからインターネットに接続するタイプだ。ドコモのLTE/3Gネットワークと自社ネットワーク間は帯域(通信速度)に応じてMVNOがドコモに利用料金を支払う従量性となっている。厳密にはユーザーあたりの料金(SIMの発行料金などもある)も発生するが、この部分はMVNOもユーザーごとに徴収する“見えない基本料金”となっているので、MVNOの収益に大きな影響を与えるのはドコモのLTE/3Gネットワークと自社ネットワーク間の帯域ということになる。

 もちろんMNOのドコモと契約する場合にも、通常は「spモード」や「mopera U」というISPサービスをユーザーは利用する。とはいえ、これはドコモ自身が提供するサービスなので、ドコモにとっては追加コストが発生するわけではない。過去にはmopera UよりもほかのISPサービスを利用した方が通信速度が速いという状況に陥ったこともあったが、これは一時的なもので、現在ではこのような兆候は見られない。

 端末から基地局の無線区間、基地局からバックボーンの有線区間までは、MNO契約とMVNO契約のどちらも、通信速度に影響を与える要素は共通だが、そこからISPまでの帯域がMVNOでは大きなボトルネックになりやすい。この帯域を広く取ればそのぶんMVNOからMNOに支払料金が増えるので、MVNOの提供するユーザーへの料金に影響するし、広く取らないとユーザーから見ると通信速度が上がらない。この点で安価な料金での高速データ通信無制限サービスは最初から矛盾を含んでいる。ぷららが通信速度の上限を3Mbpsと定めているのも、1ユーザーが占有する帯域を抑えたいからだ。

 例えばドコモが2014年9月3日に公開している資料(外部リンク※PDF)では、Xiの卸料金は月額で回線あたりの基本料金が99円、パケット通信量情報などの取得が15円となっている。これはよいとして、帯域料金はMVNO側の設備負担の大きいGTP接続で10Mbpsあたり月額で123万4911円となっている。MVNO側の設備負担を無視したとしても、10Mbpsで約123万円の回線を、月額2000円台の料金で高速通信とデータ通信量無制限で提供する――。これがどれだけ大変なことかは理解できるのではないだろうか。

 もちろんエンドユーザーから見れば「そんなことは知ったことではない」というのもひとつの正論だ。しかし今回取り上げる2つのサービスは、MVNOにとっても相当にチャレンジングなことをしていることは知っておいてもよいと思う。そしてこの2つのサービスはまだ始まったばかりであり、最適な帯域幅の確保、ユーザーへの帯域の割振りともに最適化を進めている段階だ。そんなことも頭に入れつつ、記事をお読みいただけると幸いだ。

主要駅での夜間の通信速度をチェック

 では、まず厳しい条件として、東京23区南部の主要駅と、横浜駅での夜間の通信速度をチェックした。計測日は11月10日〜13日で、ぷららは11月7日、U-mobileは11月10日にネットワークの増強工事を行ったほぼ直後になる。なので記事の掲載タイミングとは異なる傾向になっている可能性があることはご容赦願いたい。また今回の計測結果は日時と場所を可能な範囲で明記する。現状のユーザー数が増減する影響で、計測日によって大きく通信速度が変わる可能性が極めて高いからだ。

 まずは23区内の南部、渋谷駅、大崎駅、品川駅での計測だ。計測には2GHz帯/1.7GHz帯に対応するAndroidスマートフォン(ドコモのXperia Z1 SO-01F)を用い、アプリの「RBB SPEED TEST」を使った。どの周波数帯を利用するかはそもそも(普通のユーザーは)明示的に行えないので、確認はしていない。

 計測不能を除いてほぼ同一時間帯に原則3回計測を行い、その平均値をスコアとして採用している。また比較対象としてMNOであるドコモ契約のSIMでISPとして「mopera U」を利用しての計測も追加している。こちらの端末はHuaweiが日本で発売した「Ascend G6」を利用した。

 渋谷駅では駅前広場にほぼ面した星野珈琲の奥まった席と、ハチ公前広場で11月10日の22時30分〜23時の間に行った。まだまだ人は多く、無線区間のトラフィックの影響も無視できない状態。星野珈琲の方は電波状態があまりよくなく、その結果はドコモ契約の計測結果からも見て取れる。

photo 11/10 22:30 渋谷駅前屋内

 ここでは2社とも下りは1Mbps前後となり、大きな差は見られなかった。上りはU-mobileが勝っており、増強直後だったことが好影響を与えた可能性は高い。一方で駅前広場ではドコモ契約が平均35.18Mbpsをたたき出しており、上りも同様にドコモ契約が圧倒的に速い。ボトルネックが完全にMVNO側にあることも分かる。

photo 11月10日 23:00 渋谷駅前(屋外) 渋谷駅前(屋外)

 大崎駅ではホーム上の駅舎内にあるベックスコーヒー内で、11月11日の20時前後に計測を行った。ここではぷららが下り平均1.21MbpsとU-mobileの倍ほど速く、上りはU-mobileが上回った。ただしここでもドコモ契約は下り平均18.88Mbpsを記録している。

photo 11月11日 20:00 大崎駅構内

 品川駅では11月11日21時30分前後に東海道線のホーム上で計測を行っている。ここでは2つのサービスが上り/下りともに拮抗した結果になった。下り1Mbps未満と苦しい感じだが、まだまだSNSを利用したりWebを見たりする分には困るようなことはない。ここではドコモ契約も下り4.29Mbps、上りは2つのMVNOより遅い1.27Mbpsだった。電波状態は決して悪くないので、無線区間のトラフィックが過密な状態での計測になったことが分かるだろう。

photo 11月11日 21:30 品川駅東海道線ホーム

 横浜駅では11月12日の19時15分前後、11月13日の20時30分前後に加え、朝の通勤時間帯の11月12日の8時前後も加えている。横須賀線ホームの北側のほぼ同じ位置で計測した。夜間の下りはぷららが速く、朝はU-mobileが速いという結果になった。ただ夜間は2つのサービスともに1Mbpsを割り込んでおり、人の多い時間帯とはいえ、かなり苦しい結果だ。ドコモ契約はここでも大きく2つのサービスを大きく上回っており、通信速度のボトルネックがMVNOの設備側にあることが明白になっている。

photo 11月12日 8:00 横浜駅横須賀線ホーム
photo 11月12日 19:15 横浜駅横須賀線ホーム
photo 11月13日 20:30 横浜駅横須賀線ホーム

MNOでの128kbpsの速度規制下と比べればずっと快適

 ここまでの結果を総括して見ると、面白いのはぷららの上り速度がかなり安定していることだ。電波状態の悪かった渋谷駅前の星野珈琲店内以外では3Mbps台で安定しており、ぷらら側の上りの帯域にはまだ余裕があるが、最大3Mbpsという速度制限によってこの結果になった可能性が高い。一方、PING(RTT)の値はU-mobileが良好で、ドコモ契約に見劣りしないのは注目に値する。

 実用性と体感速度に大きな影響を与える下り速度に関しては、2つのMVNOサービスに関してはここまででが決定的な差は見えない。今回は基本悪条件下での計測になったが、1Mbpsを切ることが多かったのは良くも悪くも予想通りの結果でもあったし、実用性という意味ではスマートフォンでのメール(送受信)、Web閲覧、SNSの利用程度なら、今回の計測環境でもさほどストレスを感じることはなかった。実用性は主観が強く働く部分だとは思うが、少なくともMNOでの128kbpsの速度規制下と比べればずっと快適だったことは、筆者の経験からいえば間違いない。

 次回は、さらに多数の場所での計測結果と異なる切り口での使用感にも触れていく。

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