「LOOX U」は、なぜスーツのポケットに入るのか?開発チームに誕生秘話を聞く(1/4 ページ)

» 2010年02月12日 15時00分 公開
[前橋豪,ITmedia]

ロングインタビューでLOOX Uの秘密に迫る

 富士通は2000年9月に「FMV-BIBLO LOOX」シリーズを投入して以来、モバイルPCの小型化・軽量化に積極的だ。2010年春商戦ではユーザー層のすそ野をさらに広げるべく、根強いファンが多いミニPCシリーズ「FMV-BIBLO LOOX U」のフルモデルチェンジを断行。“Real Pocket size PC”という大胆なキャッチフレーズも相まって、大きな注目を集めている。

 なぜLOOX Uはこれほどまでに変わったのか。今回は富士通のLOOX U開発チームに開発の経緯を聞いた。答えてくれたのは、開発全体のマネジメントを担当した小中陽介氏(富士通 パーソナルビジネス本部 PC事業部 モバイルノート技術部 プロジェクト課長)、ハードウェアの開発を取りまとめた小林伸行氏(富士通 パーソナルビジネス本部 PC事業部 モバイルノート技術部)、構造設計を行った飯島崇氏(富士通 PC事業部 PCデザイン技術部)、デザイナーの益山宜治氏(富士通デザイン 第一デザイン事業部 プロダクトデザイン部)の4人だ。

今回話を聞いたLOOX Uの開発者。写真左から、飯島崇氏、小林伸行氏、小中陽介氏、益山宜治氏


ジャケットの内ポケットを実測して決めたボディサイズ

―― 従来のLOOX Uとまったく違うデザインにしたのはなぜでしょうか?

小林 2007年に初代LOOX Uを発売し、2008年夏にAtom Zを採用した段階でさまざまな改良も加えましたが、基本的なボディデザインは継承してきました。そして今回のモデルになるわけですが、開発初期にディスカッションを行っていく中で、ボディデザインは継続しないことが早いうちに決まりました。もっと薄型軽量にしたい、持ち運びやすくしたい、ユーザー層を広げたいといった要望に対して、既存のモデルの延長線上では難しいと判断しました。

 最初のうちは、LOOX Uより大きなコンバーチブル型タブレットPCの「FMV-BIBLO LOOX P」シリーズと融合させる案や、後方に円柱状のバッテリーを配置したクラムシェル型の案なども出ましたが、新モデルとしてはあまり面白みがないのでやめました。

ボディデザインを決めるために作られたモックアップの一部。天面も底面もきちんと塗装されているところに、こだわりが感じられる。さまざまなサイズや形状のモックアップが作られたが、最終的には左下に近いデザインとなった

FMV-BIBLO LOOX Pに近いコンバーチブル型のデザイン。このモックアップではスティックとタッチパッドによるデュアルポインティングデバイスが描かれている
バッテリーを液晶ディスプレイのヒンジ部に配置したモックアップ。円形のヒンジがデザインのアクセントになっているが、本体に厚みが出てしまう
ヒンジ部にバッテリー配置したモックアップの液晶ディスプレイを開いた状態。ヒンジ部がかなり盛り上がっている

実際、LOOX Uは標準的なジャケットの内ポケットにすっぽり収まる

 こうして検討を重ねていくうちに、「スーツのジャケットの内ポケットに入る手帳サイズ」をターゲットにするという方向性が見えてきました。これなら、薄さや軽さを強調できて、誰でも気軽に持ち運べます。ジャケットの内ポケットに入るサイズなら、例えば女性が持つような小さなバッグにも入ります。

益山 初代のLOOX Uは見た目にもバキバキなデジタルガジェットというイメージが強く、こういったものが好きなユーザー層には受け入れられたと思いますが、訴求できるユーザー層そのものは広くありませんでした。今回は、どうすれば誰でも持ち歩きたくなるのかを考えた結果、ジャケットの内ポケットに入り、なるべくミニマムで軽いものを作ることになったのです。

小中 とはいうものの、スーツの内ポケットには標準規格がないらしく、服飾メーカーに問い合わせても標準的なサイズが分かりませんでした。そこで、ディスカッションをしていたメンバーのうち2人が、実際に紳士服売り場でスーツのポケットを実測して540着ものデータを集めました。すると、PCの奥行きと高さの合計が「130ミリ」以下であれば、91%のジャケットの内ポケットに収まることが判明したので、まずはこの値を死守することが目標になりました。

飯島 重量の目標については、ポケットやカバンに入れて持ち運びが苦にならないように、500グラム未満と設定しました。結果として、サイズ、重量ともに目標を達成できています。

最終的に採用された手帳サイズのモックアップ。実際の製品と並べてみても、サイズはほぼ実現できている
モックアップを開いたところ。ポインティングデバイスとボタンをキーボードの下に配置している点が製品と異なる

小中 このように新しいLOOX Uの開発にあたり、今までと一番違うのは「カタチから入った」ことです。これまではデザイナーから意見をいろいろと聞いても、技術要件から開発の方向性が決まることが普通でした。例えば、こういうサイズと重量のモバイルPCを実現するには、こういった形状にしなければならない――といった順番です。

 しかし、今回のLOOX Uはまったく逆の発想で開発しました。この底面のスッキリしたデザインを実現するには、バッテリーをどのように配置すればいいのか――といった順番になります。それほど、ボディのデザインとフィーリングを重視して作ったわけです。

―― 液晶ディスプレイを反対側に折りたたんでタッチ操作できるコンバーチブル型デザインこそ、LOOX Uの個性だと思っていたので、今回のデザイン変更は意外でした。

益山 基本的なボディデザインを変えずに薄くするというアイデアはありましたが、コンバーチブル型ボディより、標準的なクラムシェル型ボディのほうが、お客様にとってなじみ深いですし、訴求しやすいと考えました。実際、ポケットからサッと取り出して使いやすい形にまとまっていると思います。

小林 実は従来機種のお客様にアンケートをとったところ、タブレット機能は必須ではないとの意見が多く寄せられました。加えて、新モデルでは液晶ディスプレイがWindows タッチに対応し、それだけでもWebブラウズのユーザビリティは向上するだろうという判断があり、コンバーチブル型ボディは省きました。

益山 その一方で、立ったままで使えるという部分が重視されていることも分かりました。そこで、コンバーチブル型ボディは省きながらも、Windows タッチ機能は追加し、ポインティングデバイスの位置はLOOX Uのアイデンティティとして、両手で本体を持って左手親指で左右のクリック、右手親指でポインターの操作ができる設計を継承したわけです。従来機種のお客様でも違和感なく使ってもらえると思います。

1世代前のLOOX Uは、液晶ディスプレイを180度回転させて折りたためるコンバーチブル型ボディを採用している。薄さよりフットプリントの小ささを重視した形状だ
2010年春モデルのLOOX U。標準的なクラムシェル型ボディを採用しているが、ポインティングデバイスは旧モデルと同様、キーボードの上に配置されている

顧客満足度を上げるため、細部までこだわり抜く

―― こうした製品開発はいつからスタートしたのでしょうか?

小林 検討を始めたのは2008年12月からで、ちょうどLOOX UのWindows XPモデルを店頭に出したころです。具体的なカタチが決まったのは2009年の3月か4月ですね。Windows タッチ対応の液晶ディスプレイを搭載した新モデルなので、当初はWindows 7の発表に合わせてリリースしたいと考えていました。しかし、顧客満足度を上げるため、細部までやりすぎといえるほどにこだわったので、そのぶん時間がかかりました。

 例えば、抵抗膜式のマルチタッチ対応タッチパネルを初めて採用したり、液晶ディスプレイとタッチパネル用のガラスをボンディング(貼り合わせ)したり、といった技術の確立、薄型バッテリーの開発など、これまでにない試みをいろいろと行っています。

―― ということは、開発の初期段階でソニーから「VAIO type P」(現在はVAIO P)が登場したことになります。デザイン的にもスペック的にもLOOX Uの直接のライバルになると思いますが、製品化にあたって意識はしましたか?

小林 開発初期にだいたいのモックアップが出そろったところで、VAIO type Pを初めて見たことになります。我々が目指しているものと似ているのではないか、という議論はありました。しかし、ジャケットの内ポケットに入るサイズをターゲットにしたことで、最終的に大きく異なる製品に仕上がったと思います。

益山 実際のところ、開発中に意識はしませんでした。デザインはもちろん、本体の薄さや軽さ、タッチ操作が可能な液晶ディスプレイ、立った状態で使いやすいポインティングデバイスの配置など、違う部分は多いです。

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