コラム
» 2010年11月09日 08時00分 UPDATE

縦書き実現へと向かうEPUBと標準規格の魅力

電子書籍のファイル形式の1つである「EPUB」に、アジア圏から熱い視線が向けられている。縦書きやルビ、禁則処理などの機能がEPUBでサポートされるのかどうかがポイントだが、これはかなり確度が高い。アジア圏のニーズを吸収した国際標準に注目したい。

[村田真,ITmedia]

EPUBの縦書きサポートは現実に近づいた

 Googleの「Google Books」やアップルがiPhone/iPadに用意している電子書籍リーダーアプリ「iBooks」で電子書籍のファイル形式として採用が表明されている「EPUB」。IDPF(International Digital Publishing Forum)が策定しているこのオープンなファイル形式に、アジア圏での注目が高まっている。

 中国、韓国そして台湾のIT業界ではEPUBのサポートに積極的な姿勢を見せている。例えば、韓国では2010年5月、EPUBによる電子書籍を作成・公開・販売できる電子書籍作成販売プラットフォーム「upaper」が立ち上がった。日本でこれに相当するのはpaperboy&co.が2010年6月に開始した「パブー」だが、いずれのケースでも出版社がEPUBを本格的に採用するまでの動きには至っていない。とはいえ、これをもってEPUBの価値を見誤ってはならない。EPUBの世界は、半年前と現在は比較にならないほど変化を遂げている。

 EPUBはXHTMLやCSSといった国際標準をベースとしているため、現在仕様の策定が進められているCSS3に、縦書きやルビ、禁則処理(line-break)、行調整(text-justify)、圏点(傍点:text-emphasis)といった機能が追加されるかどうかは、アジア圏におけるEPUBの今後を占う上で非常に重要なポイントとなる。幸いにして、先月台北で開催されたEGLS(Enhanced Global Language Support)サブグループで議論された内容が、EPUBワーキンググループのサンフランシスコ会議で承認された。これによりEPUBの縦書きサポートがよりいっそう現実に近づいたといえる。

 上述した文字の処理は、日本語だけでなくアジア圏の言語で必要になる機能である。とはいえ、こうしたニーズを特定の国、例えば日本のみの要件としてとらえてしまうと、国際標準に盛り込まれる可能性は低くなってしまう。逆に考えれば、EPUBがアジア圏のニーズを盛り込んだ標準仕様にならなければ、グローバルな市場でアジア圏のコンテンツは競争力を失いかねない。それ故、中国、韓国、台湾もこれに加わることで大きなうねりを起こしているのだといえる。

 こうしたEPUBにおける進展は、日本をはじめアジア数カ国との協力を得たことによる成果といえるだろう。中国、韓国、台湾ではそれぞれ電子書籍の標準化のための団体が設立され、活発に動き出しているので、今後アジア圏の国々が協力してEPUBの進化に少なからず影響を与えていくことになるだろう。

 日本ではEPUBといっても今のところ特定のデバイス――例えばiPad――でしか読めないというイメージがあるが、年末辺りからEPUBをサポートする電子書籍リーダーも数多く登場する予定だ。今後は、EPUBを読むことができるソフトウェア間の相互関係を築けるかどうかに注目したい。

グローバルな視座でEPUBはどうなのか?

 では、グローバルな視座でEPUBの現状を考えてみると、例えばアップルがiPhone/iPadに用意している電子書籍リーダーアプリである「iBooks」ではEPUBがサポートされている。ただし、欧米の現状をみると、電子書籍リーダーとしてはAmazonのKindleが優位に立っているといってよい。

 Amazonによると、2010年上半期の電子書籍売り上げは前年同期の3倍になったとしており、売り上げを着実に伸ばしている。さらに重要なのは、Kindle Storeで販売された電子書籍(Kindle本)の数が、Amazonで売れたハードカバーの部数を上回っていることをAmazonが明らかにしているという点だ。この流れを加速させるべく、Amazonは139ドルという低価格のKindleを市場に投入し、アップルなどとしのぎを削っている。恐らく、Amazonはクリスマス商戦に向けて欧米での勢いをさらに増していくことだろう。

 そのKindleが採用している電子書籍のファイル形式はAmazonの独自規格(AZW形式)だが、iPhone/iPad/Androidをはじめとしたモバイルデバイス向けにKindleアプリを用意しており、シームレスに読書ができるのが魅力だ。

 欧米で支持を得ているKindleだが、アジア圏で同じような人気を維持できるとは限らない。AZW形式は、縦書きがサポートされていないだけでなく、非公開のファイル形式なので、EPUBのように企業や団体を通して世界のニーズに応えるための働きがけがしにくいことが懸念されるからだ。また、Amazonのジェフ・ベゾスCEOは中国側の規制などを理由にKindleを中国で発売する予定はないと話しており、アジア圏でのKindleの普及は不透明な状況にある。これはつまり、Kindleでは縦書きのサポートが先送りになる可能性も十分に考えられることを意味している。

 縦書きをサポートしており、かつ国際標準となっている電子書籍ファイル形式としては、シャープのXMDFがある。シャープが10月に入って発表した電子書籍端末「GALAPAGOS」では、次世代XMDFに対応するなど、電子書籍ファイル形式として国内の話題に上がりやすい。しかし、XMDFは国際規格(IEC62448 Ed.2 Annex B)とうたっているものの、実際のところほぼ日本国内でしか採用されていないという現実がある。また、日本政府はXMDFとドットブックを基本的なファイル形式の根幹とした電子書籍交換フォーマットを国際規格化する案を検討しているが、上述したAZW形式と同様、世界のニーズに応えるための働きがけがしにくいことも懸念され、その必要性や意義も含め、その動向は注視される。

 日本について言えば、理想書店が人気だが、こちらは独自規格なので先行きは不透明である。日本だけでなくさまざまな国で独自の電子書籍規格を打ち出しており、電子書籍のファイル形式は乱立しているのが現状なのだ。長期的にはそうしたものの中からAZW形式と肩を並べるようなものも登場するかもしれないが、作る側の立場になって考えてみると、可能な限り多くのファイル形式をサポートするしかない状況にある。これが非効率であるのはいうまでもない。仕様をわれわれのニーズに合わせて組み立てることができる唯一の形式がEPUBである。

 既にEPUB 3.0の仕様は固まり始めている。W3CのCSS Writing Modes、CSS Text、HTML5などを参照することが正式に決まったため、縦書き、ルビ禁則処理がEPUB 3.0で実現可能になる。この実現もEGLSサブグループで活発な動きをみせた参加企業や個人による努力の結果といえるだろう。

 EPUB 3.0は2011年1月に公式のドラフトを提出し、フィードバックを反映しつつ、2011年5月には最終仕様が確定する予定となっている。ドラフトの進行状況やCSSワーキンググループとのやりとりの詳細を、11月15日に開催される「Web Directions East 2010」の中の「EPUB 3.0到来:HTML5とCSS3でつくる次世代電子書籍の規格」セッションで述べる予定だ。

Web Directions East 2010について

「ウェブの可能性を活かし未来を創る人」と「世界のキーパーソン」が集結する世界最高峰のカンファレンス・ワークショップとして、11月13〜15日の日程で開催される。15日のカンファレンスでは、本稿の著者である村田氏など4名による「EPUB 3.0到来:HTML5とCSS3でつくる次世代電子書籍の規格」セッションのほか、世界中のWeb業界のエキスパートたちによるセッションが用意されている。参加申し込みは以下から。

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