現在開催中のCEATEC JAPAN 2010。3D関連の家電製品、技術をはじめ、映像・情報・通信の総合展示会にふさわしく最新技術がめじろ押しだが、急速に盛り上がりつつある電子書籍に関する展示も多い。CEATECで初めて明らかとなった、というものは少ないが、ここでは注目のブースを紹介しよう。
「世界のデファクト技術をベースに、日本ならではのきめ細かなノウハウと高いテクノロジーを融合させ、世界で通用するモノの象徴としての意味を込めた」とシャープが自信を持って12月の市場投入を目指す電子書籍サービス「GALAPAGOS」は、5.5インチのモバイルタイプ、および10.8インチのホームタイプの専用端末がかなりのスペースを割いて展示されており、この電子書籍端末に触れようとブースは多くの来場者が足を止めていた。
端末の詳細は、「外観とUIを速攻チェック――写真で見る『GALAPAGOS』端末」で紹介したためここでは割愛するが、展示されていた端末は単なる電子書籍リーダーとしてではなく、Androidが持つ汎用性を生かしてそのほかのアプリも用意されていた。
例えば、同社がauに向けて提供しているスマートフォン「IS01」にも搭載されていた「mixi for SH」のほか、「Yahoo! ショッピング」「Yahoo! オークション」などサービスを利用するアプリがインストールされている。Androidマーケットなどから自由にインストール可能なのかについては明確な回答は得られなかった。
実機を触ってみた印象としては、まだ十分にチューニングされていないためか、操作に対するレスポンスが悪い――端的に言えば「もっさり」している――ように思えた(後述するGALAXY Sなどと比べてもそう感じる)。ただ、同社が開発した電子書籍フォーマット「XMDF」を発展させた「次世代XMDF」に対応していることもあり、画像+テキストの記事からテキストのみを抽出することで可読性を高める「ハイブリッドビュー」など、電子書籍を“読む”という点では優れたユーザー体験をもたらす仕上がりとなっている。また、モバイルタイプは実機も多く展示され、人通りが絶えないにぎわったブースとなっていた。端末価格の発表が待たれる。
シャープのブースにいた説明員も「気になる」とこっそり漏らしたのが、NTTドコモ。実際、NTTドコモのブースには、シャープのブースに負けない人だかりができていた。その注目はCEATECの開催同日に発表があった韓国Samsung Electronics製のAndroidタブレット「GALAXY Tab」とスマートフォン「GALAXY S」に集まっていた。
これらの製品の特徴については、「写真で解説する『GALAXY S』(外観編)」や「写真で解説する『GALAXY Tab』」を参照してほしいが、NTTドコモはこれらの端末を皮切りに本格的なiPhone攻略に打って出ようとしている。さらに5機種を11月の冬モデル発表会で明らかにする予定で、ユーザーの多様なニーズに合わせたラインアップをそろえたといえる。
こうした端末の上で提供されるサービスが、例えばspモードやAndroidアプリストアの「ドコモマーケット」であり電子書籍サービスもそこに含まれる。同社は大日本印刷とともに電子書籍事業への参入を表明しているが、データフォーマットやビューワを含めたユーザーの反応を確かめるため、電子書籍配信のトライアルを10月下旬からスタートさせる。トライアルサービス期間中に50タイトル程度を提供するとしており、ビューワも複数(説明員によると少なくとも6種類)用意すると説明員は話してくれた。
実際に展示されていたGALAXY端末には、ACCESSの「NetFront Magazine Viewer v2.0 for Android」をビューワに採用した電子書籍や、iPadやiPhone向けの電子書籍アプリとして提供されていた村上龍氏の長編小説「歌うクジラ」が用意されていた。GALAPAGOSほど電子書籍を押し出しているわけではないため、来場者の多くは端末のできが気になるようだった。
このほか、東芝は欧州などで発売予定のスレート端末「FOLIO 100」を参考展示。10.1インチのパネルを採用したこのモデルは日本では発売せず、小ぶりなモデルを2011年早々に発売するとしている。
展示されていた端末には、Yahoo! JAPANが10月5日に開催した「Yahoo! JAPAN DAY」で同社の電子書籍戦略の一環として明かされた「Yahoo!ブックスタンド」が組み込まれており、電子書籍端末としての利用も想定していることが分かる。このほか、同社が凸版印刷と提携して開始する電子書籍配信サービス「Book Place」のデモも展示されていた。
今回のCEATECを電子書籍という観点で眺めてみると、近々市場に登場する話題の端末はある程度お披露目されたことになる。しかし、勝負の要は端末のできではなく、その上のコンテンツ、さらに言えば、コンテンツをユーザーに届けるプラットフォームだ。このレイヤが現在の主戦場であることは、AppleやAmazonに代表されるIT業界の巨人たちが日々ここで激戦をくり広げていることからも容易に想像できるだろう。
AppleやAmazonはKindleやiPhone/iPadといった端末と強く結合させて自社のプラットフォームレイヤの価値を高めつつ、コンテンツレイヤのプレーヤーに低価格路線を強いているが、それを受け入れざるを得ないほどプラットフォームレイヤの価値は高まっている。日本国内でも紙の出版を何とか維持したいという出版業界が、ここにきてようやく電子書籍・電子出版に本腰を入れる姿勢を示しているが、それはこうした海外企業のプラットフォームレイヤが少なからず影響している。
Androidをベースをするものが多く、機能的にはさほど変わりはないといっても過言ではない各社の端末。電子書籍リーダーとしてのユーザー体験を最高なものにすることを念頭に置いて作られたGALAPAGOS端末と、一般的なスマートフォンはそもそもの立ち位置が異なる。すでに多くのユーザーがスマートフォンをインターネットの利用が主の汎用端末とみなしているであろうこと、またはSkypeのようなアプリの存在を考えれば、両者はすでに交わっているともいえるが、現在はちょうどそうした変化の時代だといえる。
電子書籍を“読む”というのは、本質的にはコンテンツの表現力を決めるデータフォーマットあるいはビューワ、そしてプラットフォームレイヤの質量である(コンテンツそのものが重要であることは言うまでもない)。GALAPAGOS端末はOS部分にAndroidを用いているものの、データフォーマットとビューワはシャープが自前で開発した。つまり、GALAPAGOS端末はAmazonのKindle同様、端末との結びつきを強くし、XMDFで培った一日の長を生かそうとしている。そして、XMDFが標準的なものになればなるほど、シャープは電子書籍市場の中でよい位置にいることができる。この部分はアライアンスを組みながら事業を進めようとしているNTTドコモやKDDIなどと比べると、独立独歩であるといえる。
XMDFが標準的なものになっていくかはともかく、プラットフォームレイヤは、DVDレンタル・書籍チェーン最大手の「TSUTAYA」を有するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と提携することを10月5日に発表している。両社は、「TSUTAYA GALAPAGOS」というコンテンツストアを運営するための合弁会社を11月に設立するとしており、まずは電子書籍約3万点をGALAPAGOS端末の投入に合わせて提供する。電子書籍だけでなく、映像、音楽、ゲームなどのコンテンツも扱っていく方針を示しており、電子書籍事業のブランド名として付けられたはずのGALAPAGOSが既に事業の枠を広げていることが分かる。
一方、NTTドコモは通信事業者であるため、よい端末があれば積極的に採用していくのが基本姿勢で、電子書籍について言えば大日本印刷と組み、かつてのiモードのように魅力的なプラットフォームを作り上げようと奮闘している。
また、Androidを採用したスマートフォン「IS03」を発表したKDDIのブースでは、電子書籍やそのプラットフォームレイヤについて目立った展示はなかった。ただし、同社はソニー、凸版印刷、朝日新聞社と連携して事業企画会社「電子書籍配信事業準備株式会社」を7月に設立、プラットフォームレイヤを強化する姿勢を示している。
このプラットフォームの恩恵を受けられるのが、ソニーが既に米国で販売し、日本国内での販売も年内に予定する電子書籍端末「Sony Reader」だけか、それともKDDIからリリースされるスマートフォンで利用可能にするのかはまだ分からない。電子書籍配信のトライアルを始めようとしているNTTドコモと比べると歩みはややゆっくりとしている。一方、AppleのiPhone/iPadを擁するソフトバンクは、電子雑誌を定額制で購読できる「ビューン」を展開し、その運営会社には7月、毎日新聞社、電通、西日本新聞社が出資しているが、今回のCEATECでは大きな動きがなさそうだ。
CEATEC JAPAN 2010は9日まで開催される。2010年は電子書籍元年と報じられることも少なくないが、会場に足を運んで実機に触れ、どのプラットフォームが情報流通を制すのか、あるいは世界的な競争の中で勝ち残れるのかを考えるのも楽しいのではないだろうか。各社が今後どのような展開を見せてくるか、注目したい。
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