性能と価格を両立したエンタープライズモデル「TS-1279U-RP」企業向けサーバは高すぎる? それならQNAPを使えばいいじゃない(1/2 ページ)

» 2011年11月30日 16時30分 公開
[瓜生聖,ITmedia]

QNAPが企業向けに投入するTurboNASのラックマウントモデル「TS-1279U-RP」

12ベイを備えたTurboNASシリーズの企業向けモデル「TS-1279U-RP」

 QNAPのTurboNASシリーズは、1ベイの個人向けモデルから、2ベイ、4ベイ、6ベイと搭載HDD数の多い個人用ハイエンドモデル、そして企業向けモデルまで幅広くラインアップされている。その中でも今回取り上げる「TS-1279U-RP」は、CPUにSandy Bridge世代のCore i3-2120(3.3GHz)を採用し、2Gバイトのメモリを搭載したラックマウント型で、10GビットLANのオプションまで用意するエンタープライズモデルだ(→価格などの問い合わせ先

 TurboNASシリーズの型番は数字の1〜2ケタ目がベイ数を表し、下2ケタがパフォーマンスを表す。例えば、「TS-419P+」と「TS-259 ProII+」ではベイ数の少ないTS-259 ProII+のほうがハイパフォーマンスモデルということになる。そのほか、ラックマウントモデルにはU、冗長電源モデルにはRPが末尾に付加されるが、現時点でx79の最上位シリーズにのみ付けられる修飾子が“EC”である。このECのついたモデルは、原稿執筆時で「TS-EC879U-RP」と「TS-EC1279U-RP」の2機種のみ。Intel Xeon E3-1225と4Gバイトメモリを搭載したエンタープライズ向けのフラッグシップモデルにあたる。


TurboNASラインアップ一覧(の一部)。現行製品だけでも相当な数があることが分かる。違いはベイ数の違いだけではない

 さて、実をいえば、このクラスのストレージは決して目新しいわけではない。10台以上のHDDが搭載できるディスクアレイはそれこそ“前世紀”から存在している。ストレージ容量や接続方式、RAID方式などに変化はあったものの、基本的に「HDDを多数搭載し、仮想的に1つの巨大ボリュームとして見えるようにし、それと同時に耐障害性を高めるために冗長化する」というコンセプトは変わっていない。

 TurboNASシリーズが特徴的であるのは、下位モデルのTS-110なども含め、すべてが同一スケール上に存在するバリエーションモデルであることだ。つまり、最初からエンタープライズ向け製品として投入したモデルの延長にTS-x79シリーズがあるのではなく、もともとは家庭用/SOHO向けから中小規模企業へと「幅を広げた」結果、最終的にエンタープライズ向けのハイエンドモデルであるTS-x79に到達した、といえる。

 この出自はTS-x79Uシリーズの強みの理由でもある。実はTS-x79Uシリーズは「高性能だから」というよりも「破格のコストパフォーマンス」という理由で大手メーカを中心として導入が進んでいる人気モデルなのだ。

エンタープライズ用途に求められる機能を網羅

 TurboNASシリーズの下位モデルは、プロセッサにARM系のMarvell社製プロセッサを搭載している。ミドルレンジ以上ではx86系だ。プロセッサのアーキテクチャは異なるものの、OSには組み込み用Linuxを採用しており、ブラウザベースのUIも共通している。設定項目も統一されており、データセンターやサーバルームでの運用を前提としたラックマウントモデルであっても、静音機能であるスマートファンや省電力機能のHDDスタンバイが利用可能になっている。

 このようにTurboNASシリーズは、共通プラットフォームを採用することで、多くのラインアップをそろえながらも安定したファームウェアを提供することに成功している。もっとも、ハードウェアのほうは信頼性とコストを勘案したうえで、レンジに合わせた設計をとっている。

 例えば、同じ4ベイモデルでも、家庭〜SOHO向けモデルの「TS-419P II」では100ワットACアダプタであるのに対し、企業向けモデルの「TS-459 ProII」では250ワット内蔵電源、ラックマウントモデルの「TS-459U-RP+」になると600ワット内蔵電源を2系統搭載している。

 また、ハイエンドモデルではエンタープライズ向け機能の充実も特筆すべき点だ。ネットワークでは802.1QのタグベースVLAN、デュアルLANによるポートトランキング(IEEE802.3adのほか、各種フェイルオーバ/ロードバランシング)、IPv6、LANポートごとのサービスバインディングなどをサポート。ユーザー管理としてはActive Directory、LDAP認証を、ファイル転送サービスではFTP/FTPS(FTP over SSL/TLS)/TFTP、そしてファイル共有/マウント方法では、WebDAV/CIFS/AFP/NFS/iSCSIと、エンタープライズで求められる機能をほぼ網羅している。

 それでいながらHDDにはSATAを採用し、価格を抑えているのがポイントだ。SATAはSASと比較すると信頼性や速度の面では劣るものの、低価格かつ大容量で入手性が高く、RAIDの構成や用途次第でユーザーの要求を十分に満たすことができる。対応するRAID構成は、1/5/6/10(非冗長構成ではRAID0/JBODもサポート)。RAID 5以上はホットスペアにも対応する。

本体前面/背面。前面のレバーから引き出せるホットスワップ対応ベイを12基備える。背面には、2基のギガビットLANをはじめ、USB 3.0×2、USB 2.0×4、eSATA×2、アナログRGBなどが並ぶ。2つの拡張スロットもある

出力600ワットの電源ユニットを2系統装備。本体内部は3基のファンによって強力に冷却されるなど、信頼性の高いハードウェア設計になっている

TS-1279U-RPのシステム情報画面。2系統のLAN、12台のHDD、3基のシステムファンの情報が見える(画面=左)。ボリューム管理画面。1TバイトのHDD12本でRAID 6を組んでみた。この場合の利用可能容量は、冗長化される2本分を引いた10Tバイト。幅広い用途に対応できる

エンタープライズモデルは高すぎる? ――QNAPが企業に選ばれる理由

 このバランスこそが、エンタープライズ向けTurboNASの人気の秘密である。これまでエンタープライズ向けオンラインストレージは、高信頼性/高速性を求めるあまりに高価過ぎたが、QNAPのTurboNASは新しい「基準」を提案した。すなわち、HDDをオプションとすることで求めやすい価格を実現し、より安価に、より柔軟に対応できるようになっている。

 このクラスの製品では一般的に、障害時の即時対応が不要であるような用途であっても、事実上オンサイト保守を契約しなければならないことが多く、高コストの要因になっている。しかし、高い性能と大容量を求めながら、その一方で手厚い保守を不要とするケースは意外に多い。

 例えば、すでに導入されている大容量オンラインストレージのバックアップ用途が挙げられるだろう。仮にテープメディアによるバックアップを行うと、容量によって運用方法やコストが大幅に変わってしまう。1回分のバックアップが1本のテープで収まらなくなればオートローダは必須であるし、フルバックアップが一晩で終わらないなら差分バックアップとフルバックアップを併用する必要が出てくる。一方、ディスク・トゥ・ディスクのバックアップであれば、TurboNASのリモートレプリケーション機能を使って高速に差分更新を行うことができる。

 もちろん、ミッションクリティカルな用途に使用するのであれば、それなりの対策を講じておく必要はある。手っ取り早いのは2台導入による冗長構成だ。冗長構成では2台間の同期をどのようにとるかという問題があるが、定期的なリモートレプリケーションだけでなく、RTRR(RealTime Remote Replication)を使えばリアルタイム同期も可能だ。また、TurboNASはシェルが利用できるので、死活監視によるアクティブ/スタンバイ切り替えスクリプトを設置することもできる。

 障害発生時のことを考えると「すべて一括して丸ごといつでも面倒をみてくれる」フルマネージドサービスが「おまかせで安心」と思うかもしれないが、これによって身動きが取りにくくなるケースもある。例えば、この種のサービスでは、保守対象ではないものを混入させることができないため、HDD交換やリビルドで回復するHDD障害であっても、保守を依頼しなくてはならない。特に営業時間内のみのサポートであれば、週末に発生した障害に手を付けられるのが月曜の朝になってしまう、ということさえある。

 一方、HDDは製品に含まれず、運用が簡単なTurboNASであれば、保守は自分たちでできる。データセンターに設置する場合にはHDD交換の手順をまとめ、予備のHDDを預けておけば作業代行サービスでも対応可能だ。費用もスポット対応、あるいはハウジングサービスの月額保守範囲内での対応も可能かもしれない。利用しているデータセンターに確認するといいだろう。

 機器自体の故障の場合はセンドバックによる交換になるが、TurboNASは使用していたHDDを別の筐体にそのまま入れれば移行が可能だ。これもHDDがオプションであるがゆえの柔軟性といえる。TS-x79シリーズはローエンドからミドルレンジ製品の延長にあるエンタープライズ向けモデルという点で、昨今増加しつつあるニーズに対応した新しいカテゴリの製品であるといえよう。

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