文化財の発するメッセージ、「iPhone+位置情報」で受信:クウジットの実証実験

» 2010年02月05日 18時20分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo 学芸員により選定された7作品を動画とともに解説する「ロケーション・アンプ for 法隆寺宝物館」

 「空間が発するメッセージ」を、ITで伝えたい――。クウジットが提供するITソリューション「ロケーション・アンプ」には、そんな思いがこめられている。モバイルデバイスの各種センサーを使って空間を認識し、その場所に関連する情報を提供することで、「その空間ならではの体験や興味を増幅させる」のが同ソリューションのテーマだ。テレビ番組「ブラタモリ」と連動した「ブラタモリ提供ブラアプリ」(関連記事)や、文化庁メディア芸術祭のナビゲーションアプリ「JMAF navi」(関連記事)など、2010年に入って導入事例が増えている。

 1月21日から東京国立博物館の法隆寺宝物館で実施している実証実験では、iPhone向け展示ガイドアプリ「ロケーション・アンプ for 法隆寺宝物館」を来館者に使ってもらい、得られたフィードバックをサービスの向上に役立てようとしている。独立行政法人新エネルギー・産業総合開発機構(NEDO)によるイノベーション推進事業の一環として行われるもので、クウジットの末吉隆彦社長によれば、2月7日の実験終了までに1000人ほどのアンケートが集まる見込みだという。「多くの参加者が自由記述も含めて熱心に記入してくださっている」と、末吉氏も実験に手応えを感じているようだ。


photophoto 自分の居場所や向きと連動するフロアマップ。明るい空間(写真=左)と暗い空間(写真=右)とで、画面の色使いが変わる

 同アプリは、相田みつを美術館向けの館内ガイドとして導入されている「DaMoNo」(関連記事)と同じく、無線LANの電波情報から位置を割り出す「PlaceEngine」の技術を使っている。館内の要所要所には無線LANのアクセスポイント(AP)が設置されており、各APからiPhoneが受け取る電波の強度の違いなどからユーザーの位置を導き出す。そして、展示エリアごとの案内が自動的に始まるのだが、実際に体験してみるとコンテンツの切り替わりがスムーズなことに感心した。

photophoto 汎用の無線LANのAPと電源さえあれば、測位可能な空間を簡単に構築できる。コンセントがなくても、モバイルバッテリーがあれば丸3日ほどAPを動かすことができるという。天井などに設置されているほか、床の機材は箱で包まれ、展示の雰囲気を損なわない

 電子コンパスと連動したマップ画面に従って進むと、バイブレーションで展示エリアに到着したことを知らせ、作品の動画解説が始まる。この一連の動作のタイミングがちょうど良く、ストレスを感じさせない。測位の仕組みを日々改良していることに加え、均一で障害物の少ない館内構造が、無線LANによる測位に適しているのだという。

photophoto 最初に紹介される作品は、国宝の「灌頂幡」。仏具としての背景や描かれた意匠について、動画で分かりやすく解説してくれる
photo iPhoneを裏、表とひっくり返す動作で画面が切り替わり、テキストによる展示室の解説を読むことができる

 ガイドでは東京国立博物館監修のもとに選ばれた7つの作品が紹介される。何も知らない初心者が素通りしてしまうような作品に、どんな歴史的価値があり、どんなドラマが詰まっているのか――それを“その場所”で知ることができるのが今回のアプリの醍醐味だ。法隆寺宝物館は設計者である谷口吉生氏のコンセプトにより、作品の説明文などが目立たないように配置されているというが、モバイル端末を活用すれば、景観を壊すことなく幅広いユーザーに観賞の楽しみを提供できる。「造詣の深い人はなにもなくても空間の発するメッセージを知ることができるが、そうではない人にもメッセージを届けたい。その場ならではの興味や関心に応えることができれば」と、末吉氏は語る。


photophoto 重要文化財の「金銅仏」の前では、ユーザー参加型のアンケートイベントがある。心に残った仏像を選ぶことができ、来館者に人気のある仏像には後光がさす演出が施されている
photo 重要文化財「摩耶夫人」は、ともすると見落としてしまいそうな展示室の端にあるものだが、貴重な作品としてアプリが場所を知らせ、解説してくれる

 作品の鑑賞をじゃましないよう、動画はそれぞれ2分程度と短くまとめた。図解やアニメーションなども交えて、作品の見どころを分かりやすく説明してくれる。明るいエントランスなどと暗い展示室内とで画面の明るさや色合いが調節されており、水紋のような画面の演出や、ゆったりとした動画の動きと相まって、館内の雰囲気とよく合っていると感じた。第2展示室にある重要文化財「金銅仏」の紹介では、好きな仏像に投票できる参加型の機能も設けられており、来館者に人気のある仏像を知ることができる。

photo クウジット代表取締役社長の末吉隆彦氏

 こうした機能を持つ同アプリは、ユーザーアンケートで良い評価をもらえているようだ。しかし一方で、「紹介する作品の数を増やしてほしい」という意見も多くあったと末吉氏は言う。無線LANによる位置測位では、隣り合う作品の位置を区別できるほどの繊細な測位は難しい。すべての展示物の紹介を、わずらわしい操作なしにユーザーに届けるには、画像認識などの新しいアプローチが必要だろう。

 また、今回は人気投票だけと比較的控えめだったユーザー参加型の機能も、ITならではの付加価値として今後の取り組みに期待が高まる。位置情報のソーシャル、エンターテインメント的な活用は、リピーターの獲得や、作品や空間を通じた新しいコミュニティの創出に役立つ可能性を秘めている。末吉氏も「コンテンツがダイナミックに変化することがITの強み」と考え、インタラクティブな情報提供の実現に意欲を燃やしている。

 今回、東京国立博物館はあくまで実験に協力した形であり、法隆寺宝物館で再びロケーション・アンプが体験できるかは分からないが、クウジットでは今後、実験の結果を生かして美術館や博物館などにソリューションを本格的に訴求していきたい考えだ。

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