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» 2010年08月06日 11時00分 UPDATE

KDDIと頓智ドットのAR連携を「拡張」して考える

8月5日、AR事業に取り組む頓智ドットとKDDIの資本提携が発表された。現実空間に情報を加えて人の認識を“拡張”するARサービスの普及に取り組む両社だが、今後はどのような連携が想定されるのだろうか。

[山田祐介,ITmedia]

 既報の通り、ARサービス「セカイカメラ」の開発元である頓智ドットと、AR技術「実空間透視ケータイ」に取り組むKDDIの資本提携が発表された。既に両社は3月にAR事業での連携を発表。auのAndroid端末「IS01」に対するセカイカメラのプリインストールや、au端末でセカイカメラのコンテンツが閲覧できるアプリ「セカイカメラZOOM」の提供を実現したが、今回の資本提携でさらに連携を深めていく考えだ。

 資金の調達はもちろんのこと、KDDIが持つ顧客基盤やサービスと柔軟な連携が図れることは頓智ドットにとって利用者拡大のための大きなチャンスだ。KDDIにとっても、日本で最も求心力のあるARサービスと言えるセカイカメラと連携を強めることは、サービス拡大の追い風になるだろう。具体的にどのような連携が予想されるのか――両社が明かしているロードマップなどと照らし合わせて、資本提携の発表を「拡張」してみることにする。

photophoto iPhone版「セカイカメラ」(写真=左)とauケータイ向け「セカイカメラZOOM」(写真=右)

ゲームと広告事業で連携を強化

photo iPhone版セカイカメラに搭載された「セカイアプリ」の第1弾「ばくはつカブーン!」

 両社に共通する今後のビジョンは“セカイカメラの利用者を拡大させ、拡大した利用者にビジネスを展開”することだ。その上で今、最も重要なのはARゲームプラットフォームの構築だろう。今回の発表では「KDDIの課金プラットフォームを使ったゲーム課金」を推進するとされている。

 現状のモバイルAR技術は、道案内などの“便利系ツール”として活用するには位置の精度などの技術的な課題があり、コミュニケーションツールとしてのサービス像も確立していない。こうした中で、ユーザーの継続的な利用とアイテム購入などを期待できるゲーム機能はサービスの有力な成長要因となる。特に、ユーザー規模の大きいケータイ向けにARゲームを展開できることは、セカイカメラにとって非常に魅力的な環境といえる。頓智ドットの井口尊仁CEOはauケータイ向けセカイカメラZOOMとのゲーム分野での連携を明言しており、セカイカメラZOOMには将来的にゲーム機能が搭載されることになる。その際には、キャリア課金の仕組みが導入されるはずだ。また、KDDIはAndroid端末向けに課金システム「auかんたん決済」を用意しており、au向けAndroid版セカイカメラにauかんたん決済が導入される可能性もある。

 現状ではセカイアプリは課金に対応していないが、近日中に公開予定の「セカイユウシャ」は、アイテム課金を将来的に導入するとされている。ゲームを開発したアンビションは、ケータイ向けオンラインRPGの運営実績を持つ企業であり、こうしたノウハウを活用する形でセカイカメラZOOMに同ゲームがいち早く移植されるシナリオも考えられる。また、将来的にはゲーム用APIを使って、iOS、Android、BREW上で横展開するゲームが登場する可能性もある。

 「広告などのビジネス」の推進も共同事業として挙げられている。KDDIは広告用の自社サーバを持ち、セカイカメラZOOM上にエアタグを配信するためのオーサリングツールをコンテンツプロバイダーに提供する方針を示しており、こうした取り組み事例が今後具体化すると考えられる。また、セカイカメラZOOMはTwitterクライアント機能を備えており、ユーザーの現在地に応じて付近にある広告エアタグをTwitterクライアントに表示し、そこからAR画面で広告エアタグの場所への簡易ナビを行うといった機能も用意されている(参考:KDDIによるセカイカメラZOOMの動画紹介)。また、こうした広告コンテンツはAPIを介してiPhone/Android版セカイカメラに反映させることも可能とされている。

photo 看板の内容に合ったコンテンツが表示される

 さらに広告事業で力を発揮する技術として、KDDI研究所では看板などの矩形オブジェクトを認識するAR技術を研究中だ。これは、ポスターや看板などの四角い対象にカメラをかざすとARコンテンツがポップアップし、そこからECサイトなどに誘導できるというもの。KDDI研究所ではHTMLのようにARの基本的な要素を標準化することに積極的な姿勢を示しており、その手始めとして同社の技術がセカイカメラの共通機能になる可能性は十分にある。

KDDIがARに注力する背景

 先般行われたARに関するイベント「AR Commons Summer Bash 2010」で、頓智ドットの井口氏はKDDIのAR事業を「まるでベンチャー」と評していた。少数のプロジェクトメンバーでフットワーク軽く企画・開発を行う環境が整っているのだという。こうした現場の挑戦的な姿勢が、ARという未開拓分野での資本提携を実現した何よりの原動力だと筆者は思う。

 さらにKDDIといえば、他社に先駆けてGPSを使ったナビゲーションサービス「EZナビウォーク」を発表し、携帯電話のセンサー活用で功績を残している企業だ。将来的に高度な環境センシング技術が求められる次世代ARサービスは、こうした同社のノウハウが大いに生きる分野であり、注力するのもうなずける。

 実際、KDDI研究所でARのプロジェクトを率いる小林亜令氏は、携帯電話のセンサー活用を研究分野としている。同研究所にとってARは、センサーデータからユーザーのプレゼンスを読み取り、自動的に状況に合った機能を提供する、つまり“ユーザーを既存の入力インタフェースから開放する”というミッションの1手段なのだ。さらに、個人のセンサーデータを蓄積することで、レストランの混雑状況といった“空間プレゼンス”を把握できる社会が生まれ、将来的にはセンサーデータから社会の需給バランスを調整する“均衡主義社会”が生まれるという中長期的な構想を同氏は持っている。SFのような壮大な話だが、こうしたビジョンがKDDIのAR研究を支えているということは興味深い点だ。

photophoto 「Interop Tokyo 2010」での講演で小林氏が示したセンサー技術を軸としたセンサー社会/AR社会の中長期像
photo 同じくInteropでの講演資料。パーソナルエージェントサービスの普及の先に、フィールドエージェント、さらにはソーシャルエージェントの未来が続くと小林氏はみる

 センサーデータマイニング(センサーから必要な情報を抽出する技術)を軸にAR技術を進化させているKDDIと、ARを一大ソーシャルサービスに育てるべく事業を拡大している頓智ドットとの連携が、コンテンツやブランドの共有にとどまらず技術的な連携を図ることができれば、サービスのポテンシャルはさらに大きくなるだろう。広告やゲーム分野でも、画像解析をはじめとする新しい技術を取り入れてこそ、ARを使う必然性や魅力が高まることは間違いない。

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